2018年02月25日

Eテレ欲望の経済史 戦後日本編「第2回奇跡の高度成長の裏で 60s」

Eテレ欲望の経済史 戦後日本編「第2回奇跡の高度成長の裏で 60s」

戦後日本の経済史の栄光と陰を振り返る番組です。
「強い光がある所には、濃い影が付きまとう」というゲーテの言葉がキーワードみたいです。
出演は二人の経済学者、野口悠紀雄氏と坂井豊貴氏。

今回は1960年代の話でした。
個人的にはこの年代と言うと、
東京オリンピック、安保闘争、フォークソングなどのイメージですね…
映画「コクリコ坂から」「ALWAYS三丁目の夕日」などがこの辺の時代を描いています。

○今の日本を形作った1960年代
 最初に野口氏は
 「60年代は、この年代を経験していない人でも懐かしさを感じる時代」
 と話していました

 というのは、それまであんまり日本人の暮らしは変わりなかったが、1960年代で急激に変わった。
 今の日本人の生活の原点がこの年代にあるそうです
 坂井氏も
 「「ALWAYS三丁目の夕日」が流行りましたけど、僕らの年代が見ても懐かしかった」と同意していました

○政治の時代から経済の時代へ
 ではこの時代、何が変わったのか。
 1960年、池田内閣が
 「日本所得倍増計画」を発表
日本のGNPや所得を2倍にする、という宣言をした

 野口氏はこの宣言を機に
 「日本が政治の時代から経済の時代に変わった」
 と表現していました

 池田内閣以前の岸内閣では安全保障条約改定があり、安保闘争が起きた
 それで岸内閣は退陣し、池田内閣で所得倍増計画が発表

 この宣言で、国民は
 これから日本は豊かになるんだと感じ、
 関心が政治から経済に移った、とのことです

 「新3種の神器」として
 カラーテレビ、クーラー、自家用車が3Cと言われた
 さらに、テレビコマーシャルが人々の欲望を煽った
 テレビコマーシャルの広告費は、この年代でほぼゼロ円から1500億円にまで膨らんだそうです

 当時大手お菓子メーカー
 (NHKなんで企業名出してないけど森永製菓です)
 でコマーシャル担当していた70代の男性が取材を受けていました

 彼は「大きいことは良いことだ♪」 というチョコレートのCMソングを作ったそうです
 安くて量が多いのが売りだったが
 「安い、じゃなくて大きい、を全面に出した」

 彼の入社は1964年、東京オリンピックの年ですが、
 話を聞いていると、給料の上がり方がハンパない。
 「入社して5月に組合のストに参加して、6月には15%上がった、
  それからボーナスは年4回、4月、6月、10月、12月。
  さらに12月には越年資金、というのも出ましてね…」
 なんとも羨ましい話です。
 「それでどんどん使って、という感じですかねぇ」

○戦中体験をした人々が高度経済成長の原動力となった
 この経済成長を支えたのが、戦中の貧しい生活を体験した人々だった
 先の男性の会社はチョコレートを売っていましたが
 彼にとってはチョコと言えば進駐軍のくれたハーシーのチョコだそうです
 「ギブミーチョコレート、ですよ。
  あれより美味しいものはない、自分の世代はみんなそうですよ。芋は大嫌いですね」

 「会社の中にも戦争体験者が多くいた、
  それに対するアンチテーゼまみたいなのがあった。
  それが給料が上がったんで、先のことを考えずに使って、
  今の楽しさを享受していました」

 大量生産大量消費社会、
 新卒一括採用、年功序列制など
 今の日本の雇用、経済のシステムはこのとき確立された

 1962年の植木等「ニッポン無責任時代」では、お気楽サラリーマンがトントン拍子で出世する様子が描かれている
 (「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ♪」の歌が有名ですね)

○総サラリーマン化への懸念、急激な開発への批判の声も
 しかしこの時代に懸念を抱く人もいた
 盛田昭夫(当時のソニー社長)は
 「日本では勤務評定は反対され、組合は首を切るなという。
  大きな間違いさえおかさなければ年功で上がっていく仕組みだから、
  営利団体の形は取っているが社会保障団体である。
  温情や家族主義が強調され過ぎるために
  勤労意欲や怠惰の習慣を強めているような気がしてならない」

 また、先ほどの70代男性は当時の節操のない建設ラッシュに批判的でした
 「日本橋の上に首都高ができたのはショックだった」
 「先見性、長期的視野がないのが日本の特性」だそうです

 開高健も
 「ここには空も水もない、
  広大さも無ければ流転も無い、
  あるのはよどんだ真っ黒の廃液と、鉄骨むき出しの高速道路。
  心を閉じ、固めたくなる」
 と書いていたそうです

○1940年体制が高度経済成長に寄与した
 1962年、東京は1000万人都市となる
 1964年にはIMF総会で「8条国」になった
 「国際社会のメンバーに入れられた」そうです

 (IMF8条国が分からないので調べましたが
 辞書的にはIMF加盟国の義務を果たしている国、だそうです
 その義務はIMF協定の第8条に定められていて
 ・経常的支払いに対する制限の撤廃
 ・複数為替相場制度のような差別的通貨措置の回避
 ・他の加盟国保有の自国通貨に対する交換性の付与
 …があるんだそうです

 要するに、8条国に対しては
 その国の国際収支が悪いとか、その国の通貨が弱いのを理由にして特別措置を取ることは無いですよ、
 その国の通貨は他の国の通貨と対等に交換しますよ、
 ということらしい

 経済力が弱いためにこれらができない国は、第14条で免除されており
 そういう国は「14条国」と呼ばれるらしい。
 日本も1964年に14条国から8条国になったということです)

 しかし野口氏によると
 「実は経済はそこまでいっていなかった」
 というのは、日本のインフラ整備、例えば新幹線なんかはIMFなど国際機関からの借金で造られた
 普通国際社会のメンバーになるような国なら貿易額が黒字で他国に貸し付けするくらいの経済力があるはずなのに、
 日本は逆に借金をしていた。
 債務保証があったから借りられたのだそうです

 それから、野口氏の説によれば
 「政治的には、1940年の体制が高度経済成長に寄与した」のだそう
 彼によれば
 戦前では、企業が自分で銀行に資金調達する「直接金融」だった
 しかし戦中は銀行が資金を配分し、国がそれを統制する「間接金融」となった
 このため、重化学工業に重点的に資金が配分されるようになった

 (https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ka/k_kinyu.html
 などによりますと
 間接金融とは、お金の借り手と貸し手の間に仲介者が存在する取引のこと、だそうです
 例えば企業が銀行から融資を受けて資金調達するなど。
 企業が直接借りないので、リスクは銀行が負ってくれるというメリットがあるそうです

 一方直接金融とは、企業が債権や株を発行して直接投資者からお金を調達する仕組み

 つまり企業にメインバンクがあって、そこからお金を借りる…という、
 日本では割と一般的な資金調達のやり方はここから来ているんですね。

 日本にはアメリカなどのように個人の株などへの投資の文化があんまりないですけど、
 それはこの時代に一般化した間接金融のシステムのせいなんですね)

 坂井氏は
 「この体制が産業構造を転換させたんですね」
 野口氏は
 「結果的に言えばそうです。
  ただ、摩擦は起きた」
 安価の石油を使うようになり、石炭は斜陽産業になったそうです

○雇用の流動化、産業構造の変化
 そこで政府は雇用の流動化を図り、格差を是正しようとした
 「雇用の流動化で明るい希望と誇りをもたらす」と大臣も線説していました

 かつて北九州の炭鉱で働いていた80代の男性が取材を受けていました
 彼は22歳で迷わず上京する
 「行き先は東京しか考えなかった、日本の文化は東京だった」
 行ってみると
 「日本にもこんな素晴らしい場所があったのかと思った」
 「どこへ行っても雇ってくれた」

 彼は大手建設会社の下請けの仕事に就いたそうですが
 当時は同じように各地方から労働者が集まってきていた
 (前回の朝ドラ「ひよっこ」の主人公のお父さんがそういう労働者の一人でした)
 「言葉(方言)が分からなくて通訳が要った」なんて話もあるらしい

 しかしその暮らしぶりは大変で
 「炭鉱でも貧乏暮らしだったが、それよりも環境が悪かった」
 プレハブに大人数が押し込められた生活だったそうです
 それでも「収入はあった」

○豊かさの陰で生まれた格差
 5年後、九州の兄から手紙が来た。
 そこには「筑豊のことを考えたことがあるのか、ここは今日本一の失業の数だ」とあったそうです

 都市部に労働者が集まる一方、地方は衰退し格差が生まれていた

 各地の炭鉱では失業者が増加
 東北の農村などでも、出稼ぎに都市へ出ていく人が多かった
 大黒柱は出稼ぎで不在のため、
 家を捨てて出ていく家族も多く、廃屋と化す農家も増加していたそうです

 神奈川県知事にもなった経済学者、長洲一二は
 「産業間格差、企業間格差、個人間格差」があることを指摘し
 「大きな企業は伸びるが小さい会社は潰れる、
  東京一のキャバレーで一晩楽しむ人がいれば、ドヤ街で一夜を過ごす人もいる」
 と書いていたそうです

 そんな豊かさの歪みを皮肉ったり、反抗したりする文化も生まれた

 ゴールデンタイムに放送された「ウルトラQ」という特撮ものの番組では
 都市化への批判を示唆するようなエピソードの回や、
 「カネゴン」という拝金主義の権化みたいな敵キャラが登場する回があるそうです

 それから、若者の間でも
 ベトナム戦争への反対を歌う「フォークゲリラ」と呼ばれる人たち、
 社会秩序に組み込まれるのを嫌う「フーテン」や「ヒッピー」と呼ばれる人たちなどが生まれた
 1968年には新宿騒乱も起きる
 (新宿騒乱は知らなかったのですが
 https://www.dailyshincho.jp/article/2016/12280557/?all=1
 などによりますと
 左翼学生によるベトナム反戦運動、だったようです。

 この前年に、新宿駅で米軍のタンク車が爆発する事件が起きたのがきっかけだったらしいのですが
 このタンク車には、ベトナム戦争で使われる米軍の航空機用ジェット燃料を積んでいたようです。
 学生たちは、新宿駅を占拠することで米軍タンク車の走行を阻止しようと考えていたらしい。
 安保闘争の変形みたいな感じかな?)

○それでも労働と報酬がみあう時代だった
 いろいろ歪みは出てきたものの、1968年には日本のGNPが世界の2位になった

 坂井氏は
 「先生は60年代を体験してどうでしたか」
 野口氏は
 「恵まれていたと思いますね」
 当時は働けばそれに見あう報酬が得られたし、
 逆に報酬を得たければ働かなくてはいけない時代だった、
 その原則が働いていた、と。

 このあと、
 働かなくても豊かになる人、
 働いても豊かになれない人がいる時代がやってくる…

 「強い光がある所には、濃い影が付きまとう」
 というゲーテの言葉で終わっていました

○感想など
今まで、なんで日本って終身雇用、年功序列なんだろうと思っていました。
このシステムのせいで途中退職もできないし、新卒で就職できなかったら這い上がれない、
女性の社会進出も進まない…

でも、それは戦後の復興から立ち上がるため、
労働力を特定の産業や企業に大量投入する必要があったので60年代にこのスタイルが確立され、
それがそのまま続いているんですね。

終身雇用は、
企業にとっては同じ労働者を新卒から定年まで確保できるメリットがある。
その代わり労働者の生活を保障しますよというシステムなんですね。

それから、私は日本で投資文化がないのもなんでだろう、と思っていました。
そもそも株買うことがギャンブルみたいな扱いだし…

バブル崩壊後についても、
銀行と企業が持ちつ持たれつの日本特有のシステムのせいで立ち直りが遅かった、
とかいう話を聞いたけど、なんでそんなシステムになってるんだ?と思っていました。

しかし、今回なぞが解けました。
戦中に銀行と政府がどの企業へどれだけお金を投資するかを決めていたシステムが、
そのまま続いてただけなんですね。

でもこれは見方を変えれば、
労働者は企業に依存しているし
企業は銀行や政府に依存しているシステムとも言える。

でももう低成長期なので、
企業も労働者を生涯支えきれるほど強くはないし、
国も借金を抱え、銀行も先行きが厳しい。
つまり労働者も企業も自立しないといけない時期が大分前から来ている。

若い人はたぶん何となくそれに気づいていると思う。
会社も続くとは限らないとか、
社会保障制度も今のままなら将来破綻するだろう、と現実的に考える人は少なくない。
でも特に年配の人はそれに気づかず、
昔の感覚で物事を考える人が多い。
その上日本は年上の人の意見の方が尊重される文化なので、
今の問題は先送りになってなかなか解決しないのだろう。
シルバー民主主義のために若い人の意見が政治に反映されないのもあるのかもしれない。

でもまぁ、変わらないと嘆いていても仕方ない。
かつて戦後などは国が音頭取って方向性を示していたけど、
シルバー民主主義もあって国はあんまりあてにならない。
だから問題意識を持つ人たちが少しずつ変えていくしかないのかなと思います。

個人のレベルとしては自分のキャリアに自分で責任を持って、
将来に備えて新たなスキルや知識を身に付けたり、お金、投資についての勉強をしたりしていくのもその1つだろうし
自分が会社の上司なら、若い人の新しい働きかた(共働き、家庭重視、キャリアチェンジなど)に理解を示すのも1つ、
選挙にいって、若い人の意見を取り入れてくれそうな政治家を応援するのも1つだろう。

実際、だんだん色んな働きかたができてきているし
少しずつ変わっているんかなとは思います
(今の国会も、もうちょい働き方改革について本筋の建設的な議論をしてほしいなぁ…)

色々考えさせられました。
というわけで今回はこの辺で。
posted by Amago at 07:53| Comment(0) | テレビ(お金) | 更新情報をチェックする

2018年02月23日

Eテレオイコノミア「お世話になっています!宅配の経済学」

Eテレオイコノミア「お世話になっています!宅配の経済学」

今回は宅配業界の経済学、でした。
講師は浅田義久先生でした。
この番組で拝見するのは初めてのお方ですが、
雰囲気的には慶應大学の中島先生に似てるんかな?
ざっくばらんな感じの先生だな~と思いました(経済学者ってそうなんですかね?)

〇宅配の利用が増えている
 冒頭は又吉紙芝居。
 スマホで宅配ピザかなんかを注文したら大量に来て…という話なんですが、オチがよくわからない(笑)
 ゲストのオアシズのお二人には「やり直し」とかぼろくそ言われてました(笑)

 又吉さんによると
 「最近スマホを変えたんですけど、
  それで注文するとクリックしたとかしないの関係で
  届いたり届かなかったりするんですよね…」
 つまりスマホ注文の宅配は難しいと言いたいらしい。

 大久保さんは呆れていましたが、
 光浦さんは
 「私も苦手。パスワードが違います、とか
  私は注文したいのに買わせてくれないんですよ~」(笑)

 大久保さんは逆に通販好きだそうで、
 「私3日あったら、毎日頼んで届いているときもありますよ」

 先生は
 「最近は宅配も増えているんですけど、それに伴う社会問題も増えています」
 今回のテーマがそれですね。

 ではどれだけ宅配が増えているかというと
 買い物に占めるネット注文の割合は、
 書籍42%、ファッション38%、動画や音楽68%、旅行や宿泊64%、化粧品45%…など

 光浦さんは
 「服は試着しないと」と言ってましたが
 又吉さんは
 「書籍はたしかに、絶版になって本屋では見つからないとき、ネットで探すとあったりします」
 大久保さんも
 「新刊も、店頭になくてもネットだとあったりしますよね」
 先生によると
 「探すコストがどんどん高くなってるんですよね。
  時給も高くなっているからその時間仕事しよう、ってなっちゃう。
  これを機会費用というんですけど、
  そうなるとみんなお店に行かなくなる」
 機会費用とは、その時間仕事をすれば稼げたはずのお金のこと。
 宅配は、サーチコスト、機会費用を省いてくれるともいえるようです

〇個別配達のコスト
 しかし又吉さんは
 「(不在で)宅配ボックスに入れたから取りに来てください、ってなっても取りに行くのが大変」
 と話していました
 先生は
 「(マンションの)下まで取りに行くだけでしょ?」
 又吉さん
 「カード(キー)なんで…」
 大久保さん
 「財布に入れとけば?」
 又吉さん
 「スペースがない」
 大久保さん
 「財布変えなよ」
 …みんなから色々言われていました。

 でも又吉さんは
 「いや、これほんまの話なんですけど、
  下の宅配ボックスまで取りに行って、
  そのあと段ボール開けて…とかいう手間を考えると、
  それやったら仕事の合間に買いに行った方が楽なんですよ」

 そんな話をしているうちに、
 ピンポーンのチャイムが。(今回はマンションの部屋風のセットでした)
 「オイコ運送でーす」
 しかしそのあとも、オイコ運送さんから3回も別々の荷物が。
 「別々に注文されたので、別々にお持ちしました」

 大久保さんは「イヤミだね」と言っていましたが(笑)
 先生は
 「こういうのまとめて来てほしいですよね。
  個別配送では、規模の経済が働かない」

 規模の経済、とは、大規模化すると製品1個当たりのコストが安くなること。

 これをトラックの模型で説明すると、
 商品を作った工場などから、トラックが大量一括で物流センターまで運ぶ
 「このときは規模の経済が働きますよね」
 しかし、ここから各家一軒一軒に配送するとき
 (消費者につなぐ最後の経路、これをラストワンマイルというそうです)
 個別なので規模の経済が働かない、というわけです

 光浦さんは
 「個人の宅配ボックスを一個一個必ず持つようにしたらどうですか」
 先生
 「だってさっき又吉さん取りに行くの嫌って言ってましたよ」
 光浦さん
 「この人はおかしいさ」(笑)

○再配達のコスト
 それから再配達の問題もある。
 宅配荷物の2割が再配達、というデータもあるそうです
 先生
 「昔はどうしてたんでしょうねえ」
 又吉さん
 「僕は後輩に頼んで、ちょっと小遣い出して受け取ってもらっていました」
 先生
 「いいバイトですね」
 又吉さん
 「そうしないと、夜中じゃないと受け取れないんですよ」
 光浦さん
 「私は生ものを頼まないで、
  届くときは宅配業者さんとスケジュール合わせてその時間だけ家で待ってました」

 最近では宅配コストを下げるため、自動化の動きもあるそうです
 例えば
 ・ドローンでの配達…マンションの屋上にパラシュートで下ろす
 ・自動運転自動車での配達…スマホに送ったパスワードか認証コードで箱を解錠し、荷物を受けとる

 しかしこれらはまだまだ実用化段階には至っていないし、
 どっちにしても受取人がいないことには配達が完了しない

 光浦さんは
 「マンションとかに共同宅配ボックスを設置したらどうですか」
 先生
 「こういうやつですよね」
 見せてくれた写真は、世田谷区の市役所前に設置された宅配ボックス。
 先生
 「でも、あったら使います?」
 又吉さんは
 「あるなら使う」
 しかし光浦さんは
 「距離次第ですね。歩いて1分ならいいけど15分もかかると…」

 世の中の人はどうか。
 2017年の内閣府調査では、
 共同宅配ボックスがあっても、
 50.9%もの人が「使わない」と答えたそうです
 光浦さんは
 「だって重いの持って15分も歩くのキツいよ」

 ではどうすればいい?
 光浦さんは
 「再配達のお金を取ればいいんじゃないの」
 先生は
 「良い話ですね」といいつつ
 「お金取ったら買うのやめちゃうんじゃないですか」
 2017年の内閣府調査では
 再配達問題への対策として効果的だと思われる案として
 ・コンビニなどでの受け取り促進46.8%、
 ・自宅での宅配ボックス設置42.4%
 ・再配達の有料化27.0%
 …と再配達の有料化に賛成の人は少ない。

 しかし又吉さんは
 「コンビニだとバックスペース限られますね…」
 コンビニバイト経験者ならではの意見ですね。
 大久保さんは
 「有料化したら多分受け取り増えますよ、
  私今日9時に荷物来たけど、居留守しました」
 というのはノーブラすっぴん状態で出られなかった、と。
 「そういう人でも、有料ならいくら汚くても出るよ」

 しかし又吉さんは
 「有料化は絶対揉めますよ」
 収入のある大人なら払うかもしれないが、
 若くてお金がない人は払いたくないから
 いなくても「いましたよ」と言い張ったり
 「いたのに帰るの速かった」
 とか言ってもめるんではないか、と。

 先生は
 「鋭い意見ですね…これは参ったな」

○再配達コストを下げる努力
 ところで配達コストを下げるため、ネット通販業者の中でも努力がなされているそうです
 靴、ファッションを中心とした商品を取り扱う通販会社を先生が取材していました

 ここではスポーツ商品など2000ブランドを扱っていて、
 注文を受けとると20人のスタッフが倉庫に取りに行く
 多い日は7000個の出荷がある

 しかし倉庫には商品ごとではなく、大きさなどでランダムに商品が並べられているんだそうです
 商品にはバーコードのラベルがついていて、
 スタッフは専用スマホに表示された所に最短距離で取りに行く

 この会社の方によれば
 「同じものがたくさんあるわけじゃないので、この方が効率的なんです」
 だそうです
 ランダムに置いても探す効率は変わらないらしい。
 それなら並べる手間を省けばいい、ということらしい

 その代わり、ラベルが見易い方向に置くなどの工夫はされている

 それから、宅配方法にも工夫があるそうです
 「ファストクラス便を設定していまして、
  午後2時まで発注されると
  その日の午後9時~零時までと朝6時~9時まで、
  1時間刻みで時間指定ができます」
 これは何のためかというと
 夜間早朝の配達なので
 働いていて昼間いるのは週末、という人は受け取れる
 1時間刻みなので、再配達も少ないそうです

 先生
 「細かく刻んだ方がコストが少ないんですね」
 普通は2時間刻みだったりするので、待つのが大変ですよね。

 それから
 「あえてゆっくりでいいよ、という「急ぎません」便もあります」
 そういう人には、配達がたてこんでいるとき2、3日後に発送する
 この便だと普通のより100円引きになるそうです

 これは
 「企画を立てているとき、もしかして急がない人もいるんではないか、と思った」
 早く着かないとダメだ、ではなく、遅くていいなら安くする、
 という逆転の発想から生まれたサービスで、
 今では3割がこの便を利用しているそうです

 それからこれだと配達量を分散できるので、
 「作業の平準化ができる」利点もあるらしい
 先生
 「混雑するとき高くして、混雑しないとき安くするんですね。
  電力なんかもそうですけど、
  経済効率的にはそうしてくれる方がありがたい」
 と話していました

 又吉さんも
 「全部が急ぐわけじゃないですからね」
 先生は
 「運送にも多様性をつけてあげることが大事なんですね」

○「送料無料」のカラクリ
 そうこうしているうちにまたピンポーン。
 「オイコ運送です」
 大きな箱、光浦さんへのプレゼント?

 中を空けると、過剰包装の下にボタンが150個。
 一方又吉さんへはボタンが1個。
 箱の大きさは同じなので、1個あたりのコストは又吉さんが光浦さんの100倍になる

 先生は
 「ネット通販では送料無料なんてのもありますけど、
  誰が負担してると思います?」
 光浦さん
 「たくさん買ってる人だ」

 先生によれば
 送料無料の場合、配達コストは値段に含まれる
 これはつまり、たくさん買う人は少量買う人に「内部補助」を出し、
 少量買う人はたくさん買う人に「フリーライド(ただ乗り)」している状態だそうです

 先生
 「大手アパレル通販会社が
  一時期、送料自由化の試みをしたことがあったんです」
 これは、今まで5000円未満の商品を買うとき送料399円だたのを
 送料0円から3000円まで設定できるようにした
 払える人、払ってもいい人には払ってもらおうという意図だったらしい

 しかし3週間続けたところ
 0円にした人は43%、平均送料は96円、
 ほとんどの人がただ乗りしようとしたそうです
 結局、この会社は買った商品の値段に関わらず、一律200円の送料負担にしたそうです

 みなさん
 「そりゃそうでしょう」
 又吉さん
 「これは、払う人いるかも、と思ったんですかね?
  払うのは会社の家族くらいかも…」(笑)

 先生は
 「誰かが負担しないといけない、
  だから公共料金と同じで、消費者からコストを取るのは難しいんですよね」

 昔の携帯電話の料金体制もそんな感じでしたね。
 端末の買い換え割引が使用料に上乗せされていたので、長く使う人ほど損になっていた。
 今は端末代が2年で分割払いシステムだから、2年以上使う方が得なのかな?

○ネットワークの経済が値下げ競争を起こした
 宅配業者の人手不足、配達料コストの問題は、
 ネット通販が作り出した経済システムがもたらしたものだそうです

 昔のシステムでは、企業は同じものを大量生産して小売り業者に運んでいた
 この場合商品が増えると、消費者は小売店で欲しいものを探し回らねばならず、サーチコストが増えた

 しかしIT技術が進歩し、多様な商品を自宅で選べるネット通販が登場
 通販会社が、たくさんの企業をまとめて消費者に仲介する構造になる

 先生
 「すると一番強いのは誰になりますか?」
 光浦さん
 「真ん中の通販会社」
 先生
 「そうですね、情報を持っている通販会社が一番強い。
  これを規模の経済じゃなくて、ネットワークの経済といいます」

 ネットワークの経済では、持っているネットワークの数が強さを決める。
 消費者とも企業とも繋がりを持つ、真ん中の通販会社が強みを持つことになる。

 この結果、消費者にとってはサーチコストがなくなり便利だが、
 代わりに個別配達コストがかかるようになった
 この新しいコストを負担するのが、配送業者なのだそう
 又吉さん
 「でも、配達業者にとっては仕事がないより良いんじゃないですか?
  仕事増えたら人も増やしていけば?」

 先生
 「でももうひとつ強い人がいるんです」
 光浦さん
 「消費者だ。すぐ文句言うから」
 先生
 「消費者はね、文句言うより買わなくなっちゃうんですよ」
 大久保さん
 「たしかに浮気しやすくなる。
  昔のお店の顔見知りみたいにしがらみがないから」

 先生
 「じゃあ可愛そうなのは誰でしょう」
 「工場ですか」
 消費者が買い換えやすくなり、
 作る側が多様性、値下げ競争を強いられる
 消費者にとっては価格を選べるので「価格弾力性が高い」という
 このため消費者の価格支配率が高く、送料負担が配達業者に行ってしまう

 又吉さん
 「食堂でも安いところに行列が並びますよね」
 先生
 「選べると安い方を選ぶんですよね」

 先生はそこで
 「平均輸送コストは400円、あなたの輸送コストは300円。
  過半数の人に支払い意思がないなら、平均的な輸送費を負担していただきます」
 と提案するのはどうか、と話していました
 無料にはせず、払ってほしいとする

 又吉さんは
 「正直に言ったら響くと思いますけど…
  送料負担拒否したら商売がやってけなくなるので、すべてが無くなる可能性がありますよ、と」

 先生
 「再配達はどうします?」
 大久保さん
 「チップ制にしたらいいんじゃないですか?もう運んでもらう人の気持ちで」
 先生
 「イケメンにたくさん払うのかな?(笑)」
 光浦さん
 「重いの持って来た人とか大変だなぁと思うんですよね…いつも申し訳ない。
  こないだコーヒーどうですか?って言ったらいいです、てピューっと帰っちゃった(笑)」
 先生
 「感謝の気持ちをしめすのはいいかもしれないですね」

○コンテナが輸送コストを下げた
 そうこうしているうちにまた
 「オイコ運送です」
 送られてきた箱はかなり重そう。

 箱を開けると、出てきたのはパイナップル。
 しかも葉付きの丸ごとのやつ3、4個入ってます。

 先生は
 「昔はパイナップルは高いイメージがありました。
  海外からの運送コストが高かったんです。
  でもある時期から劇的にコストが下がった」

 その理由はコンテナの登場だそうです
 「経済発展はイギリスで始まった、と言われますが…」
 「産業革命?」
 「ポール・クルーグマンは、
  「世界を変えた発明はインターネットだと思われがちだが
   国際貿易においては、コンテナ化が革命をもたらした」」
 と言っていたそうです
 規格を統一化したコンテナにより
 輸送や積み下ろしの作業効率を劇的に向上させ、
 人件費などのコストも下がった
 (コストが1/60に減った、というデータもあるそうです)

 実際、世界の貿易総額は1960年からの20年で急激に伸びたが、
 それはコンテナ化の時期とぴつたり合うのだそうです

 さきほどボタンをいれていた箱も大きすぎると言われていたが、
 規格統一した方がコストは安いからあんなデカい箱なんだそう
 「運びやすい、つみ込みやすいからなんですね」

○まとめ、雑談など
 最後にみんなで送られてきたパイナップルを食べていました

 みなさん無言で食べてたんですけど(笑)、先生が
 「又吉さん、感想は」と話をふると
 又吉さん
 「再配達は極力無くさないといけない、
  個人個人が心がけないといけないと思いました」
 光浦さんも
 「同感ですね。
  無料はあり得ないのに、分かんないから払うのは損してると思っちゃう、
  大変ですよと知らせた方がすっきりすると思う」

 先生は
 「みんなフリーライドしたいんですね、
  それを解消していくと資源の無駄遣いが無くなる。
  排気ガスも減って環境悪化も無くなる」
 「配達にコストを払って、払っているいると分かれば
  払いたくないからその日にちゃんといるとか、近場の物を買おうとなる、
  そうするとコストがかからなくなって
  物流の効率化が進むんですね」
 又吉さんは
 「ちゃんと言われてから気づくことですよね」
 と話して終わっていました

〇感想など
・配達コスト、特に再配達コストはちゃんと消費者に説明して負担してもらえばいい、
 という意見は賛同します。
 これは配達業界を救うだけではなく、そこで働く人にとってもいいことだと思います。

 以前民放のニュースで、配達業者がストレスのあまり、
 配達の途中で荷物を狂ったように投げ飛ばす動画が流れていました。
 もちろんこれはアウトな行為ですけど、それだけ大変な仕事なんだろう。
 その大変な分は給料とか人を増やして休みを増やす、などの対策を取らないと
 働く人がいなくなってしまう。
 
 以前、NHKスペシャルの「働き方改革」の討論の番組で、
 日本はサービス過剰で、消費者はそれを当たり前に思うから、働く人にしわ寄せが行く
 そこは企業もサービス料として消費者に請求すればいい、
 という意見があったけど、私もそう思う。
 
 再配達は手間がかかるんだから、ちゃんとお金を取ればいいと思うし
 真夜中や早朝営業のお店、真夜中早朝配達の分にしても
 働く人は人間の生体リズムからしたら大変な生活なんだから
 その分はちゃんと消費者からコストを請求すればいいと思う。

 それで競争力が下がるのが不安、というのならば
 政府が税金の形でとって(時間帯によって消費税率を上げるとか)、
 そういう業界への補助に回してもいいんじゃないかと思います。

 実際、海外では日曜や夜中にお店が開いてない国もあるんだし
 その不便さを思えば、納得して払う人も多いだろうと思う。

 逆に、サービスを減らす代わりに値引きしますよ、という案もいいと思う。
 紹介されていた通販会社の「遅くてもいいよ」便もほかのネット通販業者に広まってほしい。
 私も、そんなに早く届かなくていいよと思うこともあるんで…

 ほかの業界では、サービス少ないけど値引きしますよ、という選択肢も出てきているのかもしれません。
 喫茶店では、ドトールなどがサービスを半分セルフにしてコーヒー料金を安くしているし
 旅館では、素泊まりサービスなしの格安プランを用意しているし
 ガソリンスタンドでは、セルフ給油なら値引きがあるし。
 サービスが減る分、ほかに労力が回せるならその方がいいのかなと思います。

・ネットワーク経済によって、消費者とネット通販会社の価格支配力が強くなって、
 製造業と配達業の価格支配力が弱くなった、という話は分かりやすかったです。

 ただ、ネットワーク経済は小売業の雇用を減らした、という話もよく聞きます。
 雇用が減るということは、将来的には消費者の力も弱くなってしまうわけで、
 結局、通販会社やIT企業の一人勝ちということになるんでしょうか?
 だとすれば、消費者にサービスへの負担を求めるのはもちろんですが
 一人勝ちするIT企業やネット通販企業に対しても、儲けを社会や消費者に還元してほしいと思う。

 昔、フォード・システムでは、
 フォード社は車を大量生産、薄利多売して儲けたぶんを
 従業員の給料に回すことで消費者に還元していましたけど
 そんな感じの新しい仕組みができないかな~

 とはいえネット通販企業はIT化、機械化で雇用自体を減らしているので
 フォードシステムはそのまま適用できない。
 せめて税金、社会投資などの形で支払ってほしいのだが、
 動機付けがないと企業は動かないだろうから難しい。
 (昔は欧米の場合、社会投資しないと天国に行けない、などの信仰心があったのだろうけど)
 なんかうまくお金が回るシステムができるといいなと思います。
 
今回の又吉さんのポエムは「当たり前と思わない」でした。
本当に、サービスを当たり前とおもわず、
働いてくださる方への感謝の気持ちが大事だなと思いました。

というわけで今回はこの辺で。
posted by Amago at 11:28| Comment(0) | テレビ(オイコノミア) | 更新情報をチェックする

2018年02月22日

NHKBSプレミアム「アナザーストーリーズ「宿命のトリプルアクセル それぞれの選択」」

NHKBSプレミアム「アナザーストーリーズ「宿命のトリプルアクセル それぞれの選択」」

連日オリンピックが話題になっています。
正直今回のオリンピック、個人的にはあんまり気分が乗ってなかったんです。
頑張っている方々には申し訳ないが、
政治の臭いがどうもねぇ…

てな気分を一掃してくれたのが男子フィギュア。
特に羽生くんのフリー「THE SEIMEI」は別格でした。
瞬きするのももったいない、と思ってしまうくらい、
最初から最後まで見入ってしまいました。

なんだろう、ジャンプがどうとかいうより、心が、魂が揺さぶられました。
手足の細かい動きまで曲や効果音と見事にシンクロして、
彼自身が陰陽師の世界を体現していて、
見ている者がそこに引き込まれる。
最後のダダン!という効果音と大きな手の振りではっと現実に還りました。

衣装も、笛の音や息づかいなどの効果音も素敵でした…
もともと彼は東洋系のすっきりした美少年、たしかに外観的な魅力はありますが、
繊細で神秘的、それでいて一本芯が通った強さを備える和の精神世界を表現できるのは
彼しかいないんじゃないか、と思ったくらい。
2015-16シーズンで世界最高得点をマークしたというのも納得できる。
彼は当時「オリンピックシーズンでは絶対このプログラムにする」と仰っていたそうなので
まさに彼のためのプログラムだったのでしょう。

しかし何より驚いたのは
彼、足を捻挫して、かなり苦労しているはずなのに、
その苦しさを感じさせなかったことです。
途中でジャンプよろけてたけど、そんなのが気にならないくらい、物語の世界に吸い込まれました。
てか、見ている間はほんまに怪我してたん?って思ってしまったくらいでした。

しかし後から報道を聞くと、かなり苦労されていたんですね…。

まぁ私が今さら書くまでも無いんですけど、
年明けまで氷に立つこともできなかったこと、
3週間前まで本格的にジャンプの練習もしていなかったこと…

しかしそれでも彼は冷静に事態を見つめ、やれることをやっていた、と。

人体や解剖の本を徹底的に読んで、怪我の具合を医学的に説明できるようにしたり
演技の構成を考え直したり、
練習できなくても陸上で体力を保つトレーニングをしたり、
演技の開始前から拍手をもらうまでイメージトレーニングを繰り返したり…

普通ならじたばたして、
もうダメだと絶望するか
焦って余計悪くするかしそうなんですけど
そこを乗り気ってやれるだけのことをやって、しかも演技に見せない所がさすが。
そこまで自分の状況とか自分の持ち味を冷静に見て、
すべきことを考えられる力の源はなんなんやろなぁと思ってしまいました。

さてそんな気分で見たのが「アナザーストーリー「運命のトリプルアクセル」」
これは2015年8月放送のもので、
オリンピック始まったとき1回放送していたんですが見ていなくて、
男子フィギュア終わってから興味が出たので見てみました
(なので再々放送?)

内容としてはトリプルアクセルを巡って、
跳ぶことで銀メダルをつかんだ伊藤みどりさん、
跳ばない選択で金メダルをつかんだ荒川静香さん、
トリプルアクセルにこだわり続けた浅田真央さん、
のそれぞれの選択のストーリーでした。

見てたら色々学ぶことがあったので書いてみます。

まずは伊藤みどりさん。
彼女は1992年フランスのアルベールヒルオリンピックで、
女子初のトリプルアクセルを成功させ
欧州以外の選手で初のメダルに輝くという大挙を成し遂げています

彼女は5歳からスケートを始めたそうです
天性の才能があったようで
ご本人も
「歩くより滑る方が自然だった」
山田満知子コーチも
「見てるだけなのに、練習している子よりも上手に滑ってた。
あそこまで才能のある子はあれから今まで会ったことがない」
と話しています
実際、10歳にして5つの3回転ジャンプを試合で跳んでいたそうです

彼女は天才少女と騒がれ、
1988年、カルガリーオリンピックに出場
しかし当時は「美しいスケート」が主流だったので、
ジャンプ技術が売りだった彼女はあまり評価されなかったそうです
当時のメダリストは
「誰だってゴムまりみたいな人より、美しい人を見たいでしょう?」
なんて発言をしていました

伊藤さんはそれでもジャンプにこだわったそうです
誰もやったことがないトリプルアクセルに挑戦しようと考えた

トリプルアクセルは、当時は男子でも難しい技で、
成功させたらメダルが取れるくらいだったそうです

伊藤さんは9ヶ月の猛練習の末、1999年のNHK杯で成功させる
彼女は世界選手権でもその技を披露、優勝を飾る

彼女のジャンプのスゴさを語るデータが紹介されていました
浅田真央さんの指導教官だった、中京大学の湯浅教授が
浅田さんと伊藤さんのトリプルアクセルを比較したそうです

それによると、
普通トリプルアクセルを跳ぶときは、
滞空時間を長くするため、踏み切る前に減速して高く跳ぶ。浅田さんもこのタイプ

しかし伊藤さんはトップスピードで踏み切り、
飛距離を伸ばすことで滞空時間を長くしていた
伊藤さんと浅田さんの踏み切り前のスピードを比較すると
伊藤さんは2倍くらい(6.7m/秒、浅田さんがは3.7m/s)
飛距離も浅田さんよりはるかに長いそうです

ちなみに今のルールだと、
トップスピードで入って踏み切るのは難易度が高く、
点数も多く評価されるそうです
当時はもちろんそんなことは認識されていなかったらしいが、
今跳んでもレベルが高いジャンプを、
伊藤さんは当時既に跳んでいたんですね。

伊藤さんにとっては、トリプルアクセルは
「私のモチベーションを上げてくれるもの」
だったそうです

しかしトップスピードで入るため
「みんな、そんなスピードで入るの?ってヒヤヒヤしてましたね。
 思いきって跳ばないと成功しない、勇気のいるジャンプ」
だったそうです

そしてそのジャンプを武器に引っ提げ、
1992年のオリンピックでは
彼女は金メダル候補の筆頭に挙げられていたそうです

しかし彼女にとってはそれがプレッシャーになったそうです
「跳んで当然、勝って当然なのが辛かった」
「「跳びたい」と「跳ばなくてはいけない」の違いが大きかった」

山田コーチによれば
「リンクの前に来て、滑らなきゃと思うんだけどまた帰っちゃう」
まるで登校拒否児状態…

そしてそんな状態でアルベールヒルへ。
本人に当時の話を聞くと、
伊藤さんはシュシュ(布でできた髪飾り)を取り出し
「私のオリンピックの思い出は、このシュシュと銀メダルだけ」と苦笑。

選手村で引きこもり状態だった彼女に、
コーチが「買い物でも行ってきたら」と言われて買ったのがこのシュシュだったらしい

彼女はこんな気分が乗らないまま競技へ。
一日目のオリジナルプログラム(今のSPに相当)では
安全策として、トリプルアクセルではなくトリプルルッツに変更したが、
日本で練習を十分にしていなかったせいか、そのジャンプも失敗してしまう
この日は4位、マスコミにも叩かれる

次の日、彼女は気分を切り替えたそうです
「トリプルアクセルを跳びたい、って思った」
そして挑戦を決める

フリーの演技では
冒頭に3回転ー2回転のジャンプ
しかし最初のジャンプで2回転にとどまる
「あー気分乗ってないな、て思ってました、でもすぐにトリプルアクセルなんで…」
気分が乗らないままトリプルアクセル、やはり勢いが足りず失敗

しかしそのあとのジャンプを次々に決め、体が動いてくる
「この辺りで、ずっと後半の構成どうしよう、て考えてました」
失敗したジャンプのリカバリーを考えていたそうです

後半、トリプルアクセルかトリプルルッツか…
「ここで後ろからジャンプの体勢に入ってるから、
 みんな、え、トリプルアクセル跳ぶの?って思ってたんですね」
思いきって跳んだトリプルアクセルは成功。

彼女はこのジャンプで銀メダルを獲得。
欧州以外では初のメダルという快挙だったそうです

伊藤さんはこのときを振り返って
「思いきって跳んで良かった、
 失敗しても悔いが残らなかったと思う」
「これ以上の演技はできないからもうここで引退しよう、と決めた」
と話していました
しかし、あんまり直前練習してないのに跳べるってのはすごい…
やはりジャンプの天才だったんでしょうね。


つぎは荒川静香さん。
彼女が伊藤みどりさんのトリプルアクセルを見たのは9歳のとき
「テレビで見てて、あ、また跳ぶんだ、て思っていたら成功して…
そのときの音楽にもマッチして感動したのを覚えています」

伊藤さんのジャンプはかなりインパクトがあり、
当時のスケート少女の間ではトリプルアクセルを真似る子が続出したそうです

荒川さんも当然真似したが、
試合では跳ばなかったそうです
「あれはみどりさんだから、特別な才能があるからできるんで、自分にはできないなと」

とはいえ、荒川さんもジュニア選手権3連覇を果たすなど
「天才少女」と言われた
16歳のときには、史上最年少で長野オリンピック代表に選ばれる
しかし世界の壁は厚く、13位に終わった

このとき彼女は他の外国人選手の演技を見ていて、
「技術的には大して差がない、差があるのは表現力」
と気づいたそうです

その後、振り付けを担当したニコライ・モロゾフ監督に出会い
「自分の心をさらけ出せ」
と教えられ、彼女のスケートは変化したそうです

彼の指導で、一つ一つの動きにどんな気持ちを乗せるのか、考えながら滑ることをしているうちに
彼女は表現する楽しさを覚えた。
「初めてでした、技術を磨くよりも面白くなりました」

そして、2003-04年プログラムの「トゥーランドット」では気持ちを表現するため、
あの「イナバウアー」を振り付けに入れる
この表現力が評価され、このシーズンの世界選手権で優勝する

しかし次のシーズンでルールが大幅に変更
それまでは審査員が総合評価していたが
ジャンプの技術などを細かく加点する方式に変わったそうです

選手たちは新ルールへの対応に追われる
荒川さんによれば
「何が良くて何がダメなのか分からないから、
 誰かが何かをやって良かったらそれをみんな真似する、
 個性が無くなってしまった」

新ルールでは「イナバウアー」は難易度が低いとして点は入らず
荒川さんも外さざるを得なかった

しかしそんな彼女を変えたのが、浅田真央さんだったそうです
トリプルアクセルを武器として、
色んな大会で荒川さんを上回る成績を出す
「トリプルアクセルに常に挑戦するのが彼女の個性だった。
 私も自分の個性を追求しようと思った」

オリンピックシーズンになったときも
「今のルールだと個性のないプログラムばかりだけど、
 自分の個性を主張できるプログラムも素晴らしいんじゃないか」
と考え、イナバウアーも復活させたそうです

ちなみに当時のルールでは、
トリプルアクセルは3.5点、イナバウアーは0点
それでも彼女は、自分の表現のため入れた
「トリプルアクセルは記録に残る技、
 イナバウアーは記憶にしか残らない技。
 不思議ですよね、記憶にしか残んないのに皆さんがイナバウアーを覚えていてくださるなんて」

また、トリノオリンピックは、
ちょうど彼女の実力のピークとぴったり合っていたのも大きかったそうです
伊藤さんによると
「オリンピックは12時5分前でもダメ、5分後でもダメ。
 ちょうど12時にあわせないといけない難しさがある」

そしてフリー当日。
荒川さんは演技開始直前の精神状態について
「名前を呼ばれてから位置につくまでの短い間も、
 どうするか決めておかないと雑念が入る」
と説明していました
余計なことを考え出すとどんどん緊張してしまうんだそうです。

そこで彼女は
「前日のショートの自分の演技を見ていて、
 開始前一瞬鼻をすすっていたんですけど、
 美しくないなと思ってそれは止めようと思った。
 あとトリノのロゴマークの三角みたいなののどの位置に立とうか、と。
 その2つだけ考えていたら集中できた」

そのあとは
「最初のジャンプで何番ジャッジを見ていれば自分が気持ちよくジャンプできるか知っていたから、
 何番ジャッジ、何番ジャッジとだけ考えた」

他の選手がミスを連発していくなか、彼女ほぼノーミスの演技をし、見事金メダルに輝く

彼女は
「これ以上の演技はできないから、もう引退を決めました」

彼女はトリプルアクセルについては
「トリプルアクセルは誰かが跳べばいい、
 私の戦略には無かった」
と話していました

(ちなみに私はこのとき旅行中で、荒川さんのフリーを通して見たことはないんです。
でもだんなの話によると
このときはみんな失敗ばっかりで、こんなの美しくない、オリンピックじゃないっていう会場の雰囲気だったが、
荒川さんが芸術的な演技をしたからジャッジも会場も味方についていた、
とのこと。

今回の番組から推測するに、
このときはルール改定の影響でジャンプ大会になってしまい、
観客が欲求不満ぎみだったのかもしれません。
ヨーロッパの方は芸術に関して目が肥えている方が多いから
荒川さんの演技は余計心を打ったのでしょう。)


そして浅田真央さん。
ちなみにこの番組はオンエアが2015年、彼女が現役続行を表明した時で、
まだ引退はしていませんでした

伊藤さんがオリンピックでトリプルアクセル成功の快挙を成し遂げたとき、
浅田さんはまだ1歳。
もちろんリアルタイムでは見てないですが
浅田さんは幼いときから、
そのときのビデオをすりきれるほど見ていたそうです

彼女は伊藤さんと同じく山田コーチの指導を受けていましたが
山田コーチによれば
「二人とも性格が全然違う」
浅田さんの方が意思が強く、一度決めたら引かない所があるそうです

浅田さんは伊藤さんに強く憧れていたようで
「伊藤さんのようになりたい」
と15歳くらいのインタビューでも答えていました

浅田さんは天才少女というイメージがあるが、
中京大学の湯浅教授の分析によれば
「伊藤さんはたしかに天才肌、ちょっと考えたらすぐジャンプできてしまう。
 でも浅田さんは一つ一つ努力して練習して積み上げていく人」
浅田さんは、人一倍の努力と、
完璧さへのこだわりで結果を出してきたそうです

しかし身長が伸び、ジャンプの感覚がずれてしまったことが彼女を悩ませる
それでも彼女はトリプルアクセルにこだわった
荒川さんによれば
「ほかにも3回転3回転の組み合わせなど、武器はあったはずなのに、
 彼女にとってはそれらを犠牲にしてでも完成させたい技だった」
本人も
「ここまでやってきたのに、
 完成させないで終わらせるのはもったいない」
と22歳くらいのときのインタビューで話していました

そして練習を積み重ねた上でのバンクーバーオリンピック。
SPで1回、フリーで2回トリプルアクセルを跳び、ギネス記録にも認定される

しかし試合後のインタビューでは「長かったけど…」と言葉を詰まらせて涙をこぼしていました
ジャンプは跳べたが、結果は銀メダルでした
(私もソチの時は見ていましたが
そもそも曲や衣装が彼女に合ってないなぁと感じました。
暗いし、ズズーンと重くてジャンプには向かなそう、
ふんわりした彼女の雰囲気じゃない。
世界観もロシア革命だっけ、なんか分かりにくかった。
あと、トリプルアクセル成功にこだわっていたなのかな、
全体的に慎重すぎてスピード感がなかったなぁと…。
その点、キムヨナさんの方がたしかに、ボンドガールなど引き込まれる演技でした
まぁ、あそこまで高得点出すほどだったかは疑問だったが)

そのあと浅田さんは
「全てのエレメンツをパーフェクトにする」
という目標を掲げる

そこでステップの表現力を磨く挑戦をする
「ステップは自分の気持ち、技術の全てをぶつけるもの」
その間、トリプルアクセルをプログラムから外したシーズンもあったが
彼女はソチ五輪一年前のシーズンからトリプルアクセルを復活。

彼女がそこまでトリプルアクセルになぜこだわるのか…
インタビューでは
「トリプルアクセルを跳ばないと、気持ちが引いてしまう
 その気持ちの引きが他に影響するのが怖い」
と話していたそうです

ソチ五輪ではSP冒頭でそのトリプルアクセルに挑戦するが、失敗
ほかにも影響したのか、まさかの16位に

しかし彼女は次の日気持ちを切り替え、
フリーではほぼノーミスの演技を見せ、
世界中を感動させる

番組は2015年時点でしたので、
彼女の挑戦はまだまだ続く、という感じで終わっていました

○感想など
伊藤さん、荒川さん、浅田さん3人は、
周りがなんと言おうと自分を貫いた点が共通していました。

しかし伊藤さん、荒川さんには
やれるだけのことをやりきった、結果もついてきた、という清々しさを感じるのに、
浅田さんに関しては、本人もだと思うけど、
なんかすっきりしないものを感じるのはなぜだろうと思いました。

浅田さんはバンクーバーで銀メダルも取ったしトリプルアクセルも3回とんだ。
ソチのフリーではほぼノーミスの演技もした、
なのにどこか、もったいなかったなぁ~感が残るのはなぜかと。

私なりに考えたんですが、
1つは時の運があるのかなと思います。
伊藤さんの時はトリプルアクセル跳べるだけでも神業で、それだけでも評価された。
ご本人の話を聞いていても、ジャンプどうしようと考えるだけで、
あんまりプログラム全体の表現がとかステップはとか考えていなかったのが伺える。
そういう意味では伊藤さんは表現者というよりアスリートだったんだなと思います。

しかし浅田さんがバンクーバー、ソチに挑んだ頃は
ジャンプ跳ぶのは当たり前になってきて、プラスアルファの表現力も求められていた。

浅田さんがシニア大会に出てきた15歳頃はジャンプや技の評価が細かかったから、
彼女の美しいジャンプは高い評価をされていたのかもしれない。
その技術一辺倒の流れを荒川さんの金メダルが変えた、というのもあるのかもしれない。

それからもう1つは、浅田さんが完璧さにこだわりすぎた点があるのかなと思います。
一般的に細部を完成させるのって、
進歩が見えないわりに労力がかかってしんどい作業だと思う。
仕事でも「8割の仕事は2割の労力で終わるけど、
残りの2割の仕事は8割の労力がかかる」
て言いますけど、
勢いでアイデアで突っ走って8割の方向性決めるのはすぐできるけど、
細部を詰めるのは8割の労力がかかるんですよね。
(文章書くのでもそうですよ)

彼女はそこの2割の作業に8割の労力を注ぎ込み過ぎたんじゃないか、と。
私個人の印象でいうと、
バンクーバーあたりから、彼女のどのプログラム見ていても、
曲の世界観どうとかいうより彼女自身が修行僧みたいでしんどそうで、
なんか見ている方が辛いなぁと思っていました。

その点、今回の羽生くんはたぶん本人はもちろんしんどかったんだろうけど、
それを感じさせなかったのは
「このプログラムを表現したい」
「表現できるのは俺しかいない」
という強い表現欲求、使命感にも似たものがあったんじゃないかと思うのです。
それくらい、スケート以上の何かを彼の演技に感じました。

そういえばトリノの荒川さんも、
今回の番組では触れていなかったけど、
直前にSPもフリーも曲を変更する、という大決断をされたと聞いています。
彼女は「トゥーランドット」を聞いたとき
「ああ、これが私の曲だ」
と思ったそうなんですが、
彼女にもプログラムとの運命の出会いがあったのかなと思います。

浅田さんの場合はそこまでのプログラムとの出会いがあったのかよくわかりませんが
もともと彼女は伊藤さんと同じく、ジャンプやスケート技術を極めたいアスリートだったのかな、
そこに表現者としての技量を求めるのが彼女にとっては大変だったのかなとも思います。

とはいえ、ソチフリーの演技は
彼女のジャンプへの求道者的な生き方そのものが現れていて、
その気迫がビシバシ伝わってくるという意味では素晴らしい演技でした。
順位という記録には残らんかもしれんけど、
見ている人たちの記憶には刻まれるスケーターだと思います。
ただ、彼女がそれで幸せを感じてくれていたらいいんですが…

ちなみに今回男子でもネイサン・チェン選手が
SP16位からフリー1位という大逆転をされていたのが印象的でした。
彼のジャンプ、スピンは美しくて、
(それだけに、衣装もうちょいなんとかしてやれよとは思ったが(笑))
ここに彼なりのプラスアルファの個性が加わったら、
もしかしてスゴいスケーターになるのかも…とも思いました。

昔から失礼ながら、スポーツ選手って何のための職業なの?って思ってたんですが
彼らは自分の体の限界を通じて、我々に生き方とかを考えさせ、変えてくれる人たちなのかなと思った次第です。

自分の強み、自分の個性、自分らしさはなんだろう、
方向性を冷静に見つめていられているだろうか…
などということも考えさせられました。
というわけで今回はこの辺で。
posted by Amago at 12:17| Comment(0) | テレビ | 更新情報をチェックする