2017年08月06日

NHKBS世界のドキュメンタリー「ショックルーム~伝説の“アイヒマン実験”再考」

NHKBS世界のドキュメンタリー「ショックルーム~伝説の“アイヒマン実験”再考」

 オーストラリア2015年製作のドキュメンタリー。

 「アイヒマン実験」とは、
 ドイツの心理学者ミルグラムの行った実験で

 人は服従状態になったら、
 他人への電気ショックを致死レベルまで与えることができる、
 ということを示したもの。

 心理学の本を読めば必ず出てくると言って良いほど出てきます。

 この実験は
 「人間は権威ある人に命令されたら、非道なことでも従ってしまう」
 という人間の嫌な面を示す意味合いで出てきますけど
 それは少し違うのでは
 ということを示したドキュメンタリーです。

○アイヒマン実験
 この実験は1960年くらいからミルグラムが行ったそうです
 対象にしたのは1000人以上の一般市民で
 どの方も様々な経歴や職業の方。

 ミルグラムがこの実験を行った動機は
 当時は第二次対戦の後で、
 ナチスによるユダヤ人の大量虐殺の理由を検証する意味合いがあったみたいです

 ナチスの残虐行為に一般市民が荷担してしまったのはなぜなのか?
 人間は命令されたら服従するものなのか?
 を調べるためだったようです

 ミルグラムは3年の準備をかけ、
 実験室も自作したそうです
 実は彼が行ったのは30以上のバリエーションがあるそうですが、
 映像つきで公開されたのはそのうち1つだけなのだそうだ
 彼自身により記録映画として「服従」と名付けられていて、
 人間は権威ある人の命令に従ってしまう、
 ということを示したとされる

 今回はオーストラリアのシドニーで
 映画監督と俳優が、その他のバリエーションも含めた実験を再現しています
 役者は架空の人物を演じていますが
 実験の目的は伏せて撮影されたらしい

○基本的な実験
 最初に、実験の基本バリエーションを再現していました

 実験者は
 「教育への罰の効果を調べる実験を行う」
 という名目で二人を呼び
 一人を先生役、もう一人を生徒訳に指名する
 生徒役は腰をベルトで固定され、
 手首に電気が伝わるベルトを巻かれる

 そして、
 「今から先生役の人には4つ一組の言葉のペアを読み上げてもらいます。
  生徒役はその順番を覚えてください。

  次に、先生役の人がそのうち1つを言いますから、
  生徒役の人は何番目の単語だったかを思い出して、ボタンで番号を押してください。

  間違えていたら、先生役の人には生徒役に電気ショックを与えてもらいます。
  間違うごとに電圧を上げていきます」

 先生役の人は
 「あの、私は健康診断で心臓に問題が…」
 というが
 実験者は
 「安全な電気ショックですから大丈夫です」という

 そして生徒役だけその部屋に残し
 先生役と実験者は別室に移る
 先生役は生徒役にマイクを通じて問題を出し、
 先生役の人の後ろには実験者が座って指示をする

 実はこの実験、生徒役はサクラで
 真の被験者は先生役の人

 生徒役は問題を間違え、
 先生役は電圧を上げていく
 すると途中から生徒役から返答が無くなる

 先生役はためらうが
 後ろにいる実験者に
 「続けなければならない」
 と圧力をかけられる

 先生役が不安になり実験者に抗議すると
 「10秒待って返答が無ければ不正解と見なしてください」
 と続けるよう促される

 結局先生役は、このまま致死的な電圧まで上げてしまう

 ミルグラムの予備実験では、
 このときはすべての人が最後の致死レベルまで電圧を上げたそうです

○第1幕「権力への服従」
 今回、2名の心理学者が解説していましたが、
 「人が権力に従って、他人に危害を与えてしまう心理は
  心理学的には
  「代理人状態」
  という言葉で説明される」
 とのこと

 これは人は権威の前では、
 よき同調者となることに集中してしまうので、
 自分の行為が見えなくなってしまう。
 いわば夢遊病者のようになってしまう、
 というものだそうです

 大量虐殺、刑務所での虐待、タンカー流出事故の隠ぺい、
 などが行われたのはそのせいだと…

 しかしこの心理学者は
 そのように悪い行いをしてしまうのは人間心理の1つなんだ、
 としてしまうのは納得がいかない、と述べています。

 それならば行為者には選択の余地がない、責任がないことになる
 それは加害者が命令されて悪い行動をしても仕方ない、
 という言い訳を与えてしまう…
 それは違うのではないかと。

 ・「音声フィードバック 生徒役の声が聞こえるとき」
  ミルグラムの実験のバリエーションのひとつ。
  このケースでは、
  実験のしかたは先のやり方とほとんど同じですが
  先生役の人に生徒役のうめき声が聞こえるようにする

  ミルグラムさんの実験では、
  たしかこの状況でもほとんどの人が最後までボタンを押し続ける、
  というショッキングな内容でした。
  さて今回は?

  ここはかなり生々しく再現されていました
  (演じている俳優は、役だけ与えられて本当に実験しているのかな?)

  3人の被験者の様子が出ていましたが
  どの人も傾向は同じでした

  最初はうめき声が聞こえるたびに
  「彼は大丈夫なのか?」
  「付き添っている人はいるのか?」
  「責任は誰が取るのか?」
  「なにかあったらどうするんだ」
  と聞く
  女性の被験者なんかは途中から泣いて
  「ごめんなさい、できません」と言っていました

  しかし実験者は
  「大丈夫です」「オモチャみたいなもの」「続けてください」を繰り返すため
  被験者たちはためらいつつ進めていく

  しかし電圧が高くなるにつれ
  被験者の抵抗も高くなっていく
  「もうたくさんだ」
  「金は要らない」
  「何のためにやるんだ」

  すると実験者は
  「続けてください」
  「続けなければならない」
  「絶対にやらねばならない」
  など、言葉がきつくなっていく

  すると、なんと最後は全員断固拒否していました

  女性なんかは、立ち上がって生徒役の部屋へ行こうとし、
  「私はもう無理。ごめんなさい」
  実験者がなにか言いかけると
  「あなたの話なんてどうでもいい、もうやめるわ」

  …沈黙が流れる。

  そこで実験者は
  「分かりました、ではもう中止しましょう」
  そして笑顔で部屋を開けて種明かしする
  「彼は無事です、失礼しました」
  女性はそのとき
  「何て言うか…
   いい気分じゃないわね。
   子供の頃、先生に命令されていた時みたいだった。
   でももう大人なんだから、命令になんて従う必要はない
   無理強いされる筋合いなんかないと思ったの。
   もっと早く止めれば良かった」と話していました

  他の男性も拒否していました
  「続ける必要はない。やっても意味がない」
  「嫌だ、様子を見に行く」
  とか
  「関係ないだって?ロボットじゃあるまいし」
  「何のために続けるんだ」

  最後は種明かしされていました

  (ちなみに私はミルグラムの結果を知っていたので
  ここまで反抗できることが意外に思いました)

 ・本当に「服従」なのか?
  ミルグラムの実験では
  このバリエーションでも65%も服従、35%が拒否したそうです
  このため生徒役のうめき声があったとしても人は命令されれば服従する、
  という結果がクローズアップされてしまった

  しかし心理学者の解説では
  「「代理人状態」がクローズアップされたのは
  当時の時代背景によるもの」だそうです

  当時はハンナ・アーレントの
  「悪の凡庸さ」が話題になっていた
  これは、ヒトラーの部下であるアイヒマンの裁判を傍聴したアーレントが書いたもの
  ミルグラムの実験は、この本が書かれたのと同時期に行われたのだそうです
  (私もうろ覚えですが、
   たしかアイヒマンは凡庸で真面目な公務員だったがゆえに、
  ヒトラーの命令に生真面目に従っちゃった人、
  みたいな扱いだったと思います)
  両者は同じ文脈、つまり人間の服従を示すものとして読み取られてしまった

  多分ミルグラムの実験が
 「アイヒマン実験」
  と呼ばれたのはそのためなのでしょう。

  しかしこの心理学者は、アイヒマンに関しても
  「アイヒマンは単に命令に従っただけだったのか?」
  と疑問を投げ掛けています

  アイヒマンは1944年、ハンガリーで、
  当時のヨーロッパ最大のユダヤ人コミュニティ破壊に荷担したが、
  そのとき、彼の上司はドイツの敗戦が濃厚なのを見て
  連合国軍と取引をしようとしたそうです
  上司は、ユダヤ人の命と引き換えに武器を得ようとした
  (結果的に取引は失敗したが)
  しかし、アイヒマンは上司を無視したそうです

  「アイヒマンは、盲目的に命令に従ったわけでなく
   自分の行為に自覚があり、
   自分の行いを正しいと信じていた」
  とのこと。そして、
  「ミルグラムの実験に被験者が従ったのも
   被験者が「この実験は有益なもの」と信じていたからで
   彼らは積極的な協力者だった」
 
  ほかの心理学者も
  「代理人状態」になるかどうかはその人の置かれた状況による」とも述べています

 ミルグラムの実験でも、服従しない人が多いパターンも少なくない

 では、どんなときに服従しないのか?
 ・「近接性 同室に配置する」
  このケースでは、生徒役の人は別室ではなく先生役の隣に座り、
  直接電気ショックを受ける状況です。

  この場合は先生役の被験者は
  「こんなのおかしい、バカげている」
  「ダメダメ、もうやらない」
  という被験者が多かった
  生徒役の苦しむ様子があまりにも生々しいので良心を動かされるのだろう。

 ・「同僚二人の反逆」
  このケースでは、生徒役の人は別室にいて、先生役の後ろに実験者がいる
  てのは一番最初のケースと同じで

  違うのは、先生役の両隣にサクラを座らせ
  二人のサクラが実験を途中から拒否すること
  「私はもうやらない、抜けるわ」
  と言って席を外してしまう

  そうすると90%近くの被験者は止めるそうです

 では服従する場合、と服従しない場合は何が違うのか?
○第2幕「崇高な目的」
 ミルグラム自身は
 「被験者に、実験が価値あることとして提示したときは協力を得られる。
  それは服従なのか。協調なのか?」
 と書いています

 心理学者たちは
 「ミルグラムの実験では、被験者は板挟みになっていた」
 「被験者は天秤にかけられていた」
 と解説しています。

 つまり、「崇高な目的のために実験に協力している」という信念と
 「生徒役の人がかわいそう」
 という2つの気持ちが葛藤していたと考えられる

 当時ミルグラムの実験では
 被験者は
 「これは社会にとって最も大事な教育の研究なのだ」という意識が高かったみたいです。
 しかし、苦しむ生徒役を目にして良心がとがめる

 バリエーション実験では
 実験者に権威がないとか、
 実験者がうまく被験者を説得できない、
 あるいは生徒役の安否を意識させられる状況では
 反対して止める人が多かったそうです
 逆に、崇高な目的を強調されれば従うことが多かったらしい

 心理学者は
 「人間は、たとえどんな行為でも
  「やる価値がある」「自分が正しい」と信じれば、従ってしまうものなのだ
  ということを示している」
 と述べていました

○第3幕「選択の余地はない」
 ・「権威と距離を置く」
  このケースでは、
  先生役の後ろに座っていた実験者が途中で
  「すみません、しばらく所用で席をはずします」と出ていき、
  それからはスピーカー越しに指示を与える

  するとスピーカー越しの声では、被験者は従わず、反対していました
  (権威が弱まったせいなのだろう)

  このとき、実験者が最終的に
  「いいですか、あなたに選択の余地はないんですよ」
  というと、
  「何ですって?
   あるわよ、私は続けない選択をするわ」
   と止めてしまいました

 実はこの
 「あなたには選択の余地はない」
 という強い命令が、
 服従を拒むカギになっていたそうです

 一連の実験では、どのバリエーションでも、拒む被験者に対して
 「そのまま続けてください」
 「続けてもらわねばなりません」
 「続けることが必要です」
 「あなたに選択の余地はない」
 …など、実験者が次を促すことばをかけている

 心理学者によれば
 これはミルグラムの実験でも同じで、
 しかし唯一命令形なのが
 「選択の余地はない」
 なんだそうです。

 今回の実験では
 この言葉をかけるとみんな反発し、実験をやめている
 そしてミルグラムの実験でも、
 この言葉を聞いた人はみんな実験をやめているそうです

 実際にミルグラムの記録映画でもこのセリフを聞くと、
 「選択はできるさ」
 「私は選択する」
 「選択はある、やめるという選択をするよ」
 とみんな反発していました

 心理学者によれば
 ミルグラムはこの実験で
 「人はある特定の条件下ならば人は必然的に服従する」
 ことを示した、とされているそうですが
 もし本当にそうならば、
 被験者は命令されればされるほど従うはずだ、としています

 しかし、命令形となると被験者はむしろ反発している

 心理学者は
 「この実験が真に伝えたのは、服従だとか抵抗ではない。
  選ぶ権利は我々にある、ということだ」
 と述べています

 人は、自分に選ぶ権利はないと言われるほど
 それを取り戻そうとするものなのだ、と。

 もう一人の心理学者も
 「人には選択肢があり、たてつくこともできる」
 と述べています
 移民問題でも公費削減でも、
 何かの意見を決めねばならないとき
 他人の意見は色々あるが、
 それらをいかに見極めるか、
が決断には必要なのだ、と。
 「選択肢が自分にあるならば
それを使う責任も生まれるでしょう?」

 (この辺のくだりがいまいち分かりにくかったんですが
 私なりの理解で書きますと

  このミルグラム実験では、今まで「服従」が強調されてきたが
  それは戦争や洗脳など、
  「自分は正しいことをしている」と思わされているような特殊な条件下のものに過ぎず、
  人は拒むことができるし
  実際ミルグラム実験でも拒むケースの方がむしろ多かった

  だから権威に服従するかも、と恐れたり
  命令されたから服従しても仕方ないんだ、などと思わず
  自分の頭で判断しなくてはいけない、
  我々にはそういう力がちゃんとあるのだとこの実験は言っている、
  ということなのかなと思いました)

 ナレーションでは
 「ミルグラムの「服従」は
時代とシンクロしたストーリーに過ぎない」
 と述べています

 当時は、暴力の加害者
 (当時で言えば、戦争をした人たちやナチスの中枢部なのだろう)は
 私たち凡人とは違う存在だ、と考えられていた

 そうした中で
 特定の状況では、人間は誰でも他人に危害を加えることがあるんだよ、ということに焦点が当てられた

 つまり、大半の国民がナチスに荷担してしまった理由付けを求めていたのだろう。

 しかし時代は変わった、
 そろそろこの実験の解釈を変えてもいいのでは、と。

 実験全体を見れば
 すべての方法で、大半の被験者は拒否をしているそうです

 「私だったら、あの人だったら、どんな行動を取るだろでしょうか?」
 決めるのはあなたです、という感じで終わっていました

○感想など
・ミルグラムの実験は、人間は役割を与えられたら従ってしまうもんなのかなぁ…
 という負のイメージしかなかったんですが

 私も元の論文とか辿ってないから知らなかったけど
 実は服従しなかった例が多かった、というのは初耳で
 聞いて希望が持てました。

 権威に反抗できるきっかけはいくらでもあるんだな、と。

 今回紹介されたバージョンだけでも
 悪い行いをしたくなければ
 ・権威的な人からなるべく遠ざかる
 (命令してくる人の権威を下げる)
 ・加勢してくれる仲間を見つける
 ・自分の行いで被害を受ける人たちのことを知る

 …などのことを心がけることで良心が保てるのかなと思いました。

 逆に言えば、権力者というのは、
 ・自分を権威付けしたり
 ・服従させたい人を孤独にさせたり(あるいは孤独な人を服従のターゲットにする)
 ・被害者を人間以下の扱いにする、
 ということをして、服従者に悪いことをさせるのでしょう。

 …てこれ、テロリスト集団が若者を引き込む手口と全く同じですね。
 背筋が寒くなりました。

・人は服従するというよりかは、
 正しいと思ったら倫理的に許されないことでもしてしまう、
 という発見は重いなと思いました。

 先日「優生学」についての番組を観ましたが

 優生学では、
 「民族を守るため」に、
 特定の人たちの遺伝子を根絶する、
 という考え方で、
 このため遺伝的疾患と思われるものを抱えている人たちに中絶を迫ったり、避妊手術を強制していました

 この優生学も、倫理的には許されることではないはずなのに
 当時は正しいと真面目に思い、これを法規制にまで広げてしまう人もいた

 考えてみれば、地下鉄テロを行った宗教集団でも
 いい国を作りたいと思っていたエリートたちが事件を起こしている…

 こうした「間違った正義」を防ぐにはどうしたらいいのか?

 私は常に「自分が正しい」を疑うことなのかなと思います。

 自分の考え方と違う考え方、
 嫌だなと思う人、
 の話を敢えて聞いてみる。
 他人の見方で物事を見てみることなのかな、と。

 立場が上の人ならなおさら、
 自分の考えに謙虚にならねばならないのだろう。

 ただ、正しい正義に取りつかれてしまった人に
 別の見方をするよう迫るのはとても難しいのだろうな…

 多様な視点って大事、
 話し合い、受け入れあいが大事だということを
 地道にみんなに伝えていくことしかないのかも。

・科学実験の結果は、時代により解釈が変わる、という事実も興味深いと思いました

 自分の今いる時代の価値観って、
 当たり前みたいな感覚になってしまっているけど
 もう少しスケールを大きく、俯瞰的にものを見なければならないのかも。

 今行われている色んな分野の研究の解釈も
 今の時代の常識みたいなのに縛られていないだろうか、
 と疑う視点も持っておかねばならないのかなと思いました。

実験が生々しすぎて汗かいてしまいました…(笑)
(ちなみに俳優さんたちにはあとで事実を教えたそうです)

というわけで今回はこの辺で。

posted by Amago at 08:15| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする