2017年07月22日

NHKBS世界のドキュメンタリー「(不)正直な私たち~“ウソ”を巡る“本当”の話」

NHKBS世界のドキュメンタリー「(不)正直な私たち~“ウソ”を巡る“本当”の話」

アメリカ2015年製作のドキュメンタリー。
去年の8月に放送されていたそうです。

何気なく見てたら、行動経済学者のダン・アリエリー氏のプレゼンテーションを軸とする番組でした。

ダン・アリエリー氏はよく
たしかオイコノミアでも何回か名前を見るなーという方ですが
(研究内容はあんま覚えてないけど(笑))
本人を拝見したのは初めてで、
へー、こんな人だったんだーとか思ってしまった(笑)

○ウソをつく度合いを左右する「ごまかし係数」
 ダン・アリエリー氏は
 デューク大学で行動経済学を研究されているそうです

 人間の行動は合理的だったりそうでないときがあるが
 その選択の違いにはどのような心の動きがあるのか、
 に興味があるそうです。

 ここ数年はウソや不正について研究されているとのこと。

 不正は企業でも政治でも、
 スポーツの世界でも
 (ドーピング、八百長など)
 どこでも見られるが、それはなぜか。

 アリエリー氏によれば
 我々は自分を
 「善良で正直で立派」と思いたい一方で
 「ずるをして得をしたい」とも思っていて、

 この2つの思いを両立させるために、心の働きを使っているそうです。

 これを「ごまかし係数」と言うそうで
 (fudge factor、なので、ごまかし因子、でも良さそうです)
 この係数の大小は色んな要素で決まっているそうです
 その要素とは
 ・みんなもやっている
 ・利益相反
 ・誰も傷つけない
 ・他人のためのウソ
 ・創造力が高い
 ・他人の監視がない
 ・社会規範
 ・疲れ
 ・犯罪からの距離
 ・自己欺瞞(勘違い、思い込み)
 …など
 (利益相反、の意味がわからなかったので調べましたが、
 辞書的な意味では、社会的な立場としての利益と、個人の利益が対立している状態、だそうです
 具体的には、研究者の研究結果と、金銭関係のあるスポンサー企業(製薬会社など)の意向が違う場合とか、
 あと最近では、トランプさんが大統領任期中のビジネスが利益相反では、と言われていました)

○NBAの審判の不正
 番組では、このあと何人か不正を働いた人にインタビューをしていますが
 最初に出てきたのは元NBA審判の方

 彼は父親がバスケの研究者、
 自分もスポーツ好きということで、
 自然とNBAの審判になったそうです。

 最初は忠実に審判していたが
 先輩から
 「出世のためには必要な不正がある」
 と言われた、とのこと

 彼は次第に同僚の不正の存在に気づき、
 自身も関わるようになっていった

 優秀な選手は優遇され、違反が見逃される
 有力チームの監督からは圧力がある

 コミッショナーとはあからさまな相談はしたことはないが、
 ミーティングなどでメッセージを感じたそうです。
 彼は試合展開のプランニングもし、
 対戦カードを見るだけで勝敗が分かるようになっていた

 「審判は上の意向にしたがっているだけなので、罪の意識はない
  ボーナスをもらうためなら仕方ない」

 ある日友人に勝ちそうなチームを聞かれ、
 彼が答えられることに友人は驚いていたそうです。

 そのうち友人の名前で、スポーツ賭博をするようになる
 彼は儲けてはいたものの、罪の意識を覚え、止めたいと思ってはいた

 しかし友人は無断で情報をマフィアに流していて、
 マフィアの会話を傍受していたFBIにその内容が伝わった

 彼らは逮捕され、禁固1年3ヶ月の刑を受けたそうです

 (注目すべきは「上の意向に従うだけなので罪の意識はない」
 という発言で、「みんなやっている」「他人の監視がない」「誰も傷つけない」という意識が彼を不正に走らせたのかなと思います)

○小さなウソが積もりつもって大きな社会的損失となる
 アリエリー氏は2002年、
 「人はどれくらい嘘つきになれるか?」を調べるため、計算実験をしたそうです

 やり方は、
 ・被験者に計算を20問解いてもらう
 ・問題自体は簡単で、足して10になる2つの数を見つけるもの
 ・これを5分で解いてもらい、鉛筆をおいたあと、正解数を数えてもらう
 ・そして、前でプリントをシュレッダーにかけてもらう
 ・そのあと自己申告で正解した数を報告してもらい、正解数だけコインをあげる

 つまり不正をしようと思えば、いくらでもできる環境を作った

 しかしこの実験には仕掛けがあり
 ・シュレッダーは実は端っこだけで、真ん中は残っている
 ・このため実際の正答数と、報告した正答数を比較できる

 結果は、
 実際の正答数は平均4、申告した正答数は平均6
 4万人の被験者のうち、7割以上がウソをついていたそうです

 ウソの内訳を見ると
 あからさまな不正申告した人は20人
 全問正解と言い張り、400ドルをだましとった

 一方小さなごまかしをしたのは3万人
 彼らは合計5万ドルをだましとったそうです
 (お金のかかる実験ですね…)

 アリエリー氏によれば
 「これは現実の世界を反映していると思う」
 つまり、とんでもないぺてん師はいるが、
 いるとしても数は少ないから影響はあまりない

 しかし小さなごまかしをする人は結構数いて、
 その人たちの不正がつもり積もって大きな社会的損失となる、とのこと

 アメリカでは
 ・年間15%の脱税者がいる
 ・保険金の不正請求は年間400億ドル
 ・医療保険の不正請求は年間2000億ドル
 …などの不正による社会的損失があるそうです

○ウソは社会的なものでもある
 ハーバードビジネススクールの研究者アリエリー氏と共同で、
 他人の不正が行動に与える影響を調べるため、以下の実験を行ったそうです

 やり方は、先程の計算実験に、
 あからさまな不正をするサクラを加える

 この人は開始30秒後に
 「全部とけたんですけど…」
 と言う
 普通は1問目を解いたかくらいの時間なので、
 明らかに不正だとわかる
 しかし実験者は問いただすこともなく、
 結構な額をみんなの前でその人に渡す

 この人を混ぜて実験した結果、
 不正をする人が増えたのだそう

 アリエリー氏はこの理由として
 ・ズルをしても咎められないから、
  (自分が罰を受けないから)
 ・ズルをしても社会的には不都合がないから
  (他人に迷惑をかけないから)
 を挙げていました

 この実験の変形として
 カーネギーメロン大学で同じ実験をして、
 不正をする人にピッツバーグ大学のトレーナーを着てもらった

 すると、同じ大学でない人が不正をした場合は
 ズルは減ったのだそうです。

 つまり、ウソを平気でつけるかは、お咎めを受ける受けないよりも
 自分の所属する社会でその行動が受け入れられるか、
 に大きく影響されるのではないか、とのべていました

○寂しさで夫に隠れて浮気した女性
 この女性は夫に浮気というウソをついていました。

 彼女は結婚後間もなくたくさんの子供ができ、
 (6人の子供で、夫との間の子供は2人、というから4人は連れ子かもしれない)
 子育てに追われていたそうです
 一方夫は仕事が忙しく
 会話は仕事か子供のことだけ

 彼女はちゃんと夫婦がしたくて、夫に泣きながら訴えたそうです
 しかし彼は「そうか」と言うだけ
 彼女は打ちのめされた気分になった

 そんなときインターネットで既婚者向けの出会い系サイトを見つけた
 (「地域の既婚者を探してチャットしよう」
 とかかれていました)

 彼女によれば、
 みんな既婚者なので後ろめたさもなく、
 ネットなので姿も見えない安心感があったそうです。
 同じ地域でたくさんの人が登録していたのだそう

 そのなかである男性と親しい仲になり
 数か月後には直接出会うようになっていた
 素敵なレストランにドレスアップして連れていってもらったり、
 夢のような時間が過ごせたそうです

 しかしある日帰宅して
 夫に「あなた出張ないの」と聞くと
 「俺の留守中に彼と電話できるからか?」
 と返してきた
 彼女は動揺し、どうやって夫がそのことを知ったのか尋ねたそうです

 原因は、彼女がメールを開きっぱなしにしてたんだそうですが…

 彼女は夫に
 「誰でもいいから振り向いて欲しかった、
  バカみたいだけど助けが欲しかった
  あなたとは別れない」
 といい、その日のうちにアカウントを削除した
 今では夫婦で離婚セラピーを受けているそうです

 彼女は「私は浮気性ではないが、ウソをついた」と話していました

 (ここでのポイントは
 「既婚者だから後ろめたさがなかった」
 「寂しかった」
 ということですかね。
 「みんなやっている」「子育てのストレス」が彼女を不正に走らせたんでしょうか…)

○ウソは脳や心の発達に重要
 道徳教育に力を入れる学校の子供でも、
 ウソについてたずねると
 「上手なウソはいい」
 「人を喜ばせるようなウソ、例えばサプライズパーティーはいいウソ」
 と答えている

 また、デューク大の脳科学者によると
 ウソは脳の発達に必要な能力、とのことです

 生物学的にも、ウソは生き残るための能力で、
 鳥や魚が色を変化させるカムフラージュもウソの一種
 進化論的には、脳が大きいほどウソをつくようになり、
 チンパンジーも餌を独り占めするために仲間をだますそうです

 また人間でも、
 小さい子は罪のないウソをつくが、
 これは楽しみでもあり、脳を育てることにもつながるのだそう
 ウソをつくことで、他人の気持ちを想像するし、他人を思いやる気持ちも育つ
 つまりウソは他人への共感力を育てるそうです

○作家の道徳的なウソ
 ある作家の心温まるウソの話が紹介されていました

 この作家は飛行機に乗っているとき、
 エアポケットに遭遇したそうです

 近くにいたイタリア人の婦人はパニックになり
 振り返ると客を落ち着かせるべき客室乗務員も泣いていたそうです
 それだけ揺れがあったということかな?

 そこで彼は婦人の隣に座って
 「僕は泣いてないでしょう?
  なぜなら僕は航空エンジニアなんです。
  この飛行機は世界一安全ですよ」
 とウソをついたそうです

 婦人は感激し
 「神があなたを使わしたに違いない、
  私が地球上の人の中で、エンジニアと隣になるなんて奇跡」と話していたそうです

 作家は
 「これは道徳的なウソだと思います。
  だってそのあと墜落して死んだとしても
  ヒステリックなまま死ぬよりは
  安心しながら死ぬ方がいいでしょ?」
 と言っていました。

 「ウソはナイフのようなもの。
  人を刺したらよくないが、
  バターをパンに塗るためならいい」

 アリエリー氏によれば
 ウソ発見器は、誰かのためにウソをつくときは反応しないそうです

 ウソ発見器はウソをついたときの感情の波を検知する機械ですが、
 誰かのため、と思えば葛藤が起きず、感情が波立たないためだそう

○子供のために住所をごまかした女性
 この女性は、子供の学校への申請書類にウソの住所を書いて有罪になった方。

 彼女には二人の娘がいたが、
 今の学区の学校はレベルが低いので
 実父が住む、5キロ離れた学区の学校に通わせたいと思ったそうです

 彼女はウソを書くのはためらいがあったようですが、
 新しい学校は勉強に集中させてくれるいい学校だったそうです

 しかしある日父の家に、
学校から彼女の実在を疑う電話がかかってきた

 彼女は否定したが、そのあと財務担当者と教育長から
 「あなたがこの学区に居住していない明らかな証拠がある」
 という書類が送られてきた

 女性は免許や有権者登録も父の家の住所に変え、
 「娘たちはここに住んでいる」
 といい続けたが、このために事態は悪化

 理事会はカンカンに怒り、
 子供を転校させろと言われたので彼女は逆ギレ?して、子供を退学させたそうです

 しかし彼女は2年後に学校に訴えられ
 刑事責任を追われて有罪判決を受け、懲役と社会奉仕を命じられたそうです

 子供には正直に話したそうです
 「善かれと思ってごまかしても
  人生にとてつもない影響を与えることもある、と伝えたかった」

 (子供のため、と思いすぎたのかもしれない。
 途中から正直に告白して、
 この学校は素晴らしいからいさせてくれ、とか言えば良かったのかもしれないけど…)

○人は楽観的になりすぎる
 ごまかし係数の要素の中に「自己欺瞞」がありましたが
 アリエリー氏はこれについて
 「人は自分について楽観的になりがちで
  運転がうまいとか、大病にかかりにくいとか思い込む傾向にある」と話していました
 そして楽観的になるうちに本当にそうだと信じてしまう。
 これが自己欺瞞なんだそうです。

 ほかの研究者も
 「8割の人は自分のことを楽観的に考える、
  人は自己評価を高くしているうちに自己欺瞞に陥るのだろう」
 と話していました

○経歴詐称をしていた女性
 28年間MITの入試事務局長として働いていた女性は、
 替え玉受験などについて
 「最近は高望みしすぎて不正を働く人が多い」と批判していました

 しかし彼女自身が経歴詐称をしていたらしい。
 MITあての履歴書を書くとき、
 聴講生としていた大学の名前を
 卒業したものとして書いたそうです
 「通っているのは同じなんだから、と思った
  卒業したミッション系の大学ではMITは相手にしてくれないと思った」のだそう

 彼女は実力があったのか、
 瞬く間に昇進し、本を書くことも勧められ、執筆もしたそうです
 メディアにも取り上げられるようになった
 プロフィールはメディアが勝手に探してきたそうで
 博士とか修士と呼ばれていたが、私は私、と気にしていなかったそうです

 しかしそのうち経歴詐称を暴く人が出てきて
 彼女は28年勤めたMITを離職
 「私は私で変わらないのに、同僚にも会えなくなった
  世の中から突然拒絶された」
 彼女は混乱し、ドン底だったそうです

 (私の印象ですが、彼女はあんまり自分が悪いことをした意識が無さそうでした。

 「私もウソをついたが
みんな同じだと気付きました」
 「いい人と悪い人がいると思っていたけど、
  人間はみんな同じだと思った」 と話していました。

 まぁたしかに学歴より能力の方が大事という考え方もあるし、
 聴講生でもしっかり勉強したんだから、という自負もあるのかもしれない…)

○現金離れが不正を増やす
 アリエリー氏によれば
 現金からの距離が遠いと、不正を働きやすいそうです。

 先程の計算実験で、
 報酬としてコインの代わりに 同じ数のプラスチックコインを渡し、
 あとで換金するようにしたところ、
 ごまかしは2倍になった

 現代は現金ばなれが進んでいる。
 ビットコイン、ストックオプション、電子マネー …

 しかし現金離れになっても、
 人は取引相手や自分を善良な人間と思うのだそうです。

 インサイダー取引などの金融関係の不正は、こうして起こるのかもしれない
 (アリエリー氏によれば、
 政治のスタッフより、金融関係の人の方が不正は2倍増えるらしい)

○インサイダー取引
 次は実際にインサイダー取引に関わった人に話を聞いています。
 A氏はプロのトレーダーで、
 トレーディングが大好きで、お金稼ぎよりいいトレーディングが大事と考えていた
 彼はニューヨークで最初にB氏と知り合った

 (B氏は取材に応じてくれず、写真だけでした)

 C氏は有能な弁護士で、B氏とは2年の付き合いだった
 有数の弁護士事務所で働き、有名企業とも取引していたそうです
 ある日B氏に
 「君の持つ情報がほしい人はたくさんいるだろうね」
 とやんわり悪の誘いを受けたそうですが、
 違法でリスキーなことはしない、と断ったそうです

 しかしB氏は
 「僕は優秀なトレーダーを知っている、
 彼なら君の情報を有効活用してくれる」とA氏を紹介する

 C氏は悪いことと思ったが、B氏は
 「悪いことだがよくあること、誰も傷つけない」といったらしい
 A氏も
 「インサイダー取引はみんなやってる」と話していました

 弁護士のC氏がB氏に情報を流し、A氏がそれをもとに株の売買をする
 これを17年続けたそうです
 不正にせしめたお金はしめて1億900万ドル

 しかし、ある日B氏からC氏の元に
 「家宅捜査が入った」と電話。
 C氏は盗聴されているかなと思ったが、まさかと楽観していたそうです

 しかし実際はFBIに盗聴されていて
 C「うちの事務所は何も追及されていないよ」
 B「証拠が押さえられているかで状況が違う」
 C「電話の記録さえなければ問題はないだろう?」
 という会話が残っている

 そしてその次の日に弁護士事務所に捜査が入ったそうです
 また、A氏の家にもFBIが怒鳴りこんできたらしい

 結局3人は実刑判決を受け、
 A氏は9年、C氏は12年、B氏は司法取引により2年3ヶ月の懲役だったそうです

 (これも「みんなやってる」「誰も傷つけない」「自分はつかまらないだろう(自己欺瞞)」がポイントですね)

 インサイダー取引も利益相反に関係する不正ですが、
 アリエリー氏によれば
 利益相反が不正の最たるもの、としています

 人はシステムの中の人間になり、
 そのシステムに不正がはびこっていると知ったら、
 個人のモラルを捨ててしまいがちなのだそうです。

 「だからこそ、我々はより良い行動を選択するために、
  どうしたらいいかを知らなければならない」

そのヒントがいくつか示されていました。
○タミルドゥ州の「正直ショップ」
 インドのタミルドゥ州には、
 「正直ショップ」があるそうです

 これは学校の中にある無人ショップで
 文房具を置いておき、買いたい子は箱の中にお金を払う
 監視もないので生徒の善意に頼るしかないシステム

 この学校の元校長は
 「私たちは勉強の成績よりも、
  豊かな人間性を育むことを重視しています。
  人間性は成人すれば花開くからです」

 生徒によれば
 最初は正直ショップも不正が多かったが
 その都度校長先生が粘り強く
 「不正を働くと失業者がでて、自分の将来を傷つけることになる」
 と諭してくれたそうです

 今では不正を働く人はおらず、
 ある子供は
 「このショップは私たちに、
  正直でいるべきことを教えてくれる
  校長先生から私たち生徒への信頼の証であり、
  生徒同士の信頼の証でもある」
 「不正をしようと思えばできるけど僕はしない、
  ズルをするより、正直に生きる方が成功できると分かっているから」
 と話していました

 自分が悪いことをしたら困る人がいること、
 自分にとってもそれは良くないと思えれば不正はしなくなる

 また、自分は信頼されている、と思うと悪いことができなくなる(レッテル効果ですかね)
 というのもあるのかなと思います

次はアリエリー氏の実験です
○道徳心を思い出させる実験
 トロント大学の研究者は
 「我々は不正を防ぐ方法を模索している」と話していました

 彼女はアリエリー氏と共同で、
 UCLAで先ほどの簡単な計算実験をしたそうです
 ただし計算テストをする前に、被験者に旧約聖書の十戒を書いてもらう
 十戒はあっていてもいなくても構わない
 (実際全部正しく書けた人はゼロ、オリジナル十戒もあったらしい)

 するとなんと、不正を働いた人はゼロだったそうです

 これはよりたくさん書けたら不正が減るかと言えばそうでもなく、一様に不正しない
 信仰する宗教にも関係なかったそうです

 アリエリー氏らは
 「例え無神論者でも、聖書を前にすると、なんらかのモラルを思い出すのだろう」
 と分析していました

 さらにこの実験には続きがあり
 MITで、今度は宗教とは関係ない倫理規定で同じ実験をした
 「MITの倫理規定のもと試験を行います」
 という書類にサインさせてから計算実験をしたところ、
 やはり不正はゼロだったそうです
 ちなみに本当はMITに倫理規定はないそうですが…

 一方プリンストン大学では大学で厳しい倫理規定があり
 入学後一週間で叩き込まれるのだそうです

 この両方の大学で
 規定に従う、という書類にサインしてもらう人、してもらわない人に分けて、
 同じテストを受けてもらった

 するとどちらの大学でも、
 サインしたグループは不正せず
 しなかったグループは同じ割合で不正を働く人がいたそうです

 アリエリー氏はこれを分析して
 「1つは残念なことで、プリンストンの特訓は意味がない。
  もう1つはいいことで、道徳的な特訓をしなくても、
  個人の中にあるモラルを思い出すことで行動が変わる」

 個人のモラルに訴えるのが大事なんですね。

他にも方法はあるようです
○ 社会を変えれば個人の行動が変わる
 ハーバードビジネススクールの研究者は
 「些細なことで人は変わりうる、と考えるのが行動経済学」
と話していました
  だから行動経済学では、
  個人の行動を変えるには、社会や文化を変える、と考える。
  小さな変化が大きな行動を起こすこともある、とのことです

 イギリスでは、この行動経済学を政策に生かすためのコンサルタントチームがある
 キャメロン首相(当時)の指揮のもと作られた「行動経済学チーム」で
 国民の意思決定、行動パターンを行動経済学で分析し
 政策決定に反映させるための助言をしているそうです。

 例えば税金は国民の正直さに頼るシステムだが、
 滞納者に
 「10人のうち9人は期限内に納めています」
 という一文をつけると
 期限内に納税する人が30%から35%に上がったそうです

 大した効果ではないという人もいるかもしれないが
 一文を入れただけで税収が増えるなら大したものだ、と話していました
 このような小さな種をたくさんまけば、
 つもり積もって大きな効果になるだろう、とのこと

 このコンサルタントチームのリーダーは
 「一人の行動は周りに感染する。これは実験室レベルでも現実社会でも証明されている。
  また、不正の広がり具合は、社会に対する信用度に大きく影響を受ける」
 と話していました

 例えば北欧の6割は周りの人を信頼している、と答えるが
 アフリカや南米ではこれが1割になる

 社会の信頼度の高さは国の経済を成長させる、という結果があり、
 その効果は政治家の手腕よりも大きいそうです

 「行動を政策に組み込むのは難しいが、
  理想的な行動モデルを組み込めれば、
  社会に変化をもたらすことができる」
 と話していました

○不正は万国共通、人間の本質
 アリエリー氏はイスラエル生まれの方なんだそうですが、
 最初は自分の国で実験し、
 イスラエルは不正が多いと感じたそうです

 しかしそのあとトルコ、中国らコロンビア、南アフリカ、ポルトガル、ドイツなどに行ったが
 意外にも統計的には国による違いはなかったそうです

 ズルさは国によって違う、と旅行しながら感じたのに、
 傾向は万国共通だったらしい

 彼は
 「我々の実験は普遍的であるがゆえに、
  「不正をしても誇りを持つ」
  という人間の本質を明らかにしている」
 と述べています
 ズルさは世界共通の人間の本質、なんだそうです

 心の弱さを知れば、我々は大きな教訓を得られる。
 簡単ではないが、我々は正直で倫理的な世界を作っていく力がある、
 とアリエリー氏はしめくくっていました。

○感想など
・アリエリー氏の実験が、国により結果は変わらない、というのが意外でした。

 と思っていたら、
国の正直度を調べる実験が紹介されていました。

 http://indeep.jp/test-how-honest-country-people-of-japan/

 このブログはイギリスの新聞記事を紹介しているのですが、
 イギリスのイースト・アングレア大学が、
 15か国100人ずつ、計1500人を対象に
 2つの実験をしたというもの。

 1つはコイントス実験で、
 ・コインを投げて表なら5ドルだったかの報酬がもらえる
 ・結果は自己申告してもらう
 ・コイントスの確率は半々なので、
  確率が5割より大きく離れていたら不正直と判断される

 もう1つは音楽テストで
 6つの音楽に関する問題に答えてもらう
 ・テストの前に「答をネットなどで調べない」という文章を読ませ、誓約ボタンを押してもらう
 ・6つのうち3つは調べないと分からないくらいの難問で
  ここを正解していたら不正直と判断される

 国により正直度に違いがあるのか、
 あとその国の経済発展と国の正直度に関係があるのか、
を調べたかったようです。

 国によりランキングが出ていて、
 両方とも上位にあるのはイギリス、スイス、デンマーク
 両方とも下位にあるのは中国、インド、ブラジルでした。

 日本はというと、コイントスではビリから2位、
 音楽テストでは1位という極端な結果。

 研究者の分析では、
 日本のような結果はアジアの国に同じ傾向があり、
 これは文化的なものや、ギャンブルに対する態度なども影響しているのでは、とのことです

 一方この記事を紹介したブログの方は日本人の極端な結果について
 日本人は正直かどうかという問題ではなく
 明文化してある規律は守らなきゃいけない、という意識が強いのでは、
 と指摘されていました。

 他に、研究者によれば
 被験者には予測もしてもらっていたそうで、
 「実際よりも自国民は不正直、と予想する人が多かった」
 つまり自国の正直度については悲観的な人が多いらしい。
 これはメディアのニュースなどによる影響があるのでは、とのこと。

 また、
 「正直な国は豊かで、貧しい国はどちらかというと不正直ということが分かった」
 つまり正直さは経済成長にある程度影響がある、ということらしいです。

 日本人の結果は面白いなと思いました。

 私はアリエリーさんの実験を見たときは
 正直そうな日本人がこの実験で不正をするのは他人にバレないからなのかな、と思っていました
 (中国人は他人の目を気にしないと本に書いてあったが、
 日本人はけっこう気にするように思うので)

 しかしこの実験を見ていると、
 日本人は集団主義社会、お上意識が強いので、
 決まりとかルールには弱いのかなぁ~と思ったりしました。

 また、2つのテストいずれもトップクラスのイギリスについては
 以前何かの記事で
 「イギリスは損得勘定にうるさい」
 と書いてあるのを見たことがあります

 イギリスは政策を国民に説明するとき
 「この政策をすれば国民一人当たり何ドルの負担、何ドルの得」
 とか細かく数字で示さないと納得しないらしい。
 なのでEU離脱交渉の支払金で揉めているのも、
 EUの請求する額の根拠がはっきりしないから国民が苛立ってるんじゃないか、とのことでした。
 なので、損得には公正な国民性なのかなと思ったりしました。
 イギリスで計算実験してもやっぱり一緒なのかな?

 まぁでも、あくまでランキングですので差がいかほどあるのかは分からないし
 各国100人ずつ、なので比較的データが少ないかなぁとは思います。

 ですのでアリエリーさんの結果が本当なら、
 人類全体からみたら国別の差は微々たるものかもしれないですね…

・アリエリーさんの言いたいのは
 「不正を働く心は、民族、人種、宗教などには関係ない」ってことだろうと思います。

 ここからは色んなことが言えると思います。

 「だから私も悪いことをしてもしょうがない」
 と開き直ることもできるけど、

 逆に言えば、
 誰かが過ちをしたときは、
 それは自分にも起こりうる、と考えて気を付けねばならないし、

 その人がもうやらないようにしたい、と思ったら、寛容にならねばならない、とも思う。

 また、
 「○○教だから悪いやつ」とか
 「○○民族だからマナーが悪い」
 とか、差別や決めつけをしてはいけない、ともいえる。

 また、経済学的には
 「不正をするのは人が悪いのではなくそうさせるシステムも良くない、
  ならばどんなシステムにすべきか」
 という発想をしていかねばならないのかなと思います。

 事実は事実、それをどう生かすかが知性なのかなと思う。

・不正を起こさないためのヒントがいくつかありましたけど
 インドの例では
 ・ほかの人が困るよ、とその人の道徳心に訴える
 ・あなたを信用していますよ、と伝える
 アリエリーさんの実験では
 ・個人のモラルを思い起こさせる
 イギリスの例では
 ・善良な行いを自分で選んでしまうようなシステムを作る

 ということがあるのかなと思います。

 なんかこれ、アンドリューカーネギーの「人を動かす」
に似たようなことが書いてあったな~と思ったんですが

 「人を動かす原則」の中の
 ・相手の良心に訴える
 ・期待をかける
 ・喜んで協力させる
 などがこれに当たると思いました。

 ほかは、相手の立場になる、とか相手をまず誉めろ、とかあるんですが、

 ・相手を非難しない
 ・相手に案を思い付かせる
 ・負けん気を起こさせる
 ・命令しない
 ・相手に肩書き、権威を与える
 ・言い方を変える

 …などが政策とかに使えそうかなと思いました
 (行動科学的に研究されているかは分かりませんが)
 政治家にしろ科学者にしろ、
 国民への提案のしかたひとつで協力する気が起きるか起きないかが決まるのかもしれない。


色々勉強になりました。
というわけで今回はこの辺で。

posted by Amago at 20:06| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする
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