2017年05月12日

「雇用なしで生きる」工藤律子

「雇用なしで生きる」工藤律子

最近、グローバル化で
特に欧米での移民排斥、格差拡大の動きが大きくなっている…
という話はテレビなどでよく聞いていたのですが、
世界が全部そうではないんだな、と思えた本でした。

この本は近年スペインで起きている市民運動を紹介していますが、
ここでは、移民もマイノリティも関係なく絆を強めよう、
資本経済に囚われない生き方をしようとしている、とのことです。

資本主義への極端な偏見、的な個所もあったのが気になったが
資本主義と違う価値観もある、という意味では面白かったです。

というわけで内容から。
○市民運動M15
 最初は2011年5月に起きた市民運動M15の話でした。

 この日自体は、教育費の削減に不満を持つ学生や
 職を失って怒りを感じた市民などが、
 ソーシャルメディアで連絡を取り合い
 デモ行進をした事件が起きたのですが

 この運動を起こした人たちは
 政府に不満を表明するだけではなく
 自分たちで生活を何とかする活動も始めていました。

 筆者らは、M15のデモが起きた一年後に取材していましたが
 すでにM15会議というのが各地にできていて、
 それらを取りまとめるM15総会というのもあるらしい。

 そして各会議は委員会やグループがあり、
 ・各種「委員会」は、
  社会問題へ市民の意見を発信する場を提供する

  例えば教育、雇用などについてバルなどで公開議論の場を作り、
  意見を言いたい人は手を挙げてみんなの前で言える
  ブーイングなどがないよう、
  賛成、反対、分からないという意思表示をするジェスチャーも決めているそうです

  また、デモや政治的な活動をするとき
  弁護士の資格のある人が
  法に触れないように活動するためのアドバイスをする委員会、
  というのもあるそうです。
  ここで活躍している方の中には、不況で弁護士の仕事を失った人もいる

 ・各種「グループ活動」を行い、生活の困りごとについて助け合う
  国に訴えたところで、すぐに雇用や生活補助金、公共サービスなどは期待できない、
  ならば自分達でそれらを作ろうという活動です。

  菜園で有機野菜を作ったり、
  会議の時にコンサートやバルを開いたり、
  廃屋を改造して図書館などの文化センターを作ったり…

 そして何より大きかったのが
 人々がこれらの活動を通じて
 資本主義経済とはまた違う
 「もう1つの経済」
 に目を向けるようになった、とのことでした

 お金、現金収入のやり取りが無くても
 お互いの労働や能力を交換しあえば、
 豊かな生活ができるのではないか…
 という考えのもと、工夫された活動がされています

 例えば
 「物々交換市」
  互いに物を持ち寄り、ほしい人は持って行ってもいい
  一対一の交換でなくてもよい
 「時間銀行」
  例えばAさんがBさんのお手伝いを1時間したら、
  Aさんは1時間分をもらえる
  その1時間を、誰かの提供するサービスに使える、という仕組み
  お金がない人でも、隣の人の引っ越しの手伝いをするなどして
  その日の夕食を得る、ということも可能だそうです

 「オルタナティブマーケット」
  有機野菜を作っているが、手数料が払えないために国の販売認可が得られない小農家と、
  有機野菜を買いたいが、高くて買えない消費者とを結びつける市場だそうです

 これらの「もう一つの経済」を広めようという動きは
 M15運動に前後して活発になっているそうです

○運動が起きた背景
 これらの運動が起きた背景として、
 スペインの苦しい状況があるそうです

 スペインはEUへの加盟後、
 EUや他国から安い金利でお金が借りられるようになり、
 企業が銀行からお金を借り、設備投資ができるようになった

 建設業界も建設ラッシュになったそうです
 これには当時の政権による建築基準の緩和などもあったらしい
 また、公的機関でいわゆる「ハコもの」への無駄な投資が増えた

 また、個人もお金を借りやすいので、
 ローンを組んで家を買う人が増えた

 また、中南米やアフリカからの移民が増え、
 彼らが建築業界に雇われて働き、
 住むための家をローンを組んで買っていた

 こうして次々と家やマンションが建てられたが、
 需要以上に建てられたのでだぶつき始めた
 当時、経済学者もこの状況には気づいていたが
 「パーティーの途中にお開きにしようとは誰も言えない」
 要するに日本のバブル期と同じく、みんな浮かれていた

 そこへ金融危機が襲いかかり
 実質以上に評価されていた不動産価格がたちまち低下
 建築業界も低迷し、失業者も増えた

 そして、政府はこれに対し、
 労働者保護ではなく、企業の負担を減らす方向に政策を取ったそうです
 企業の労働者への補償金を減らして、
 労働者が転職しやすいようにし、
 企業の負担が減った分のお金を、設備投資に回してもらう狙いがあった

 しかし、もともと企業の資金が少ないため、
 少しコストが減ったところで企業が新たな投資に回すことはなく、
 逆に失業者が増え労働者の賃金が下がったため、需要が減った

 一方EUの要望もあり、
 中央政府は緊縮財政策を取り、
 公共サービス、医療、教育などへの補助金を減らした
 このため、治療費は上がったのに医者や看護師が減ってサービスの質が落ちた、
 学費は上がったのに先生は減り、教育の質も落ちた、
 という現象が起きたそうです。

 これらに対する市民の怒りが運動を起こしたようです。

○「雇用無しで生きる」の著者フリオ・ヒスベール氏
 M15運動以前に、
 「もう一つの経済」を提唱する本が出されていたそうです。

 筆者は、この本の著者フリオさんにインタビューしています。
 彼は、政府や企業が頼れないのなら、
自分達で新しい経済や価値観を作ろう、と訴えています。

 ではもう1つの経済とはなにか?
 彼によれば、「雇用」と「労働」とは別
 雇用は雇われて働き、お金をもらうこと、
 労働は家事のように、お金の介在はないが大事な仕事。

 そして雇用がなくても労働があれば生きていける経済、
 が「もう1つの経済」なのだそうだ。

 そしてその実現手段として
 「時間銀行」「補完通貨」「物々交換」などを提唱しています。
 筆者は後の章でそれらの実例を取材していますが、
 いずれも、現金収入が無い人、少ない人でも
 労働すれば必需品は手に入れられる仕組みです。

 また、これは衣食住の問題解決だけではなく、
 みんなが「生きがい」「自信を持てる」
 というメリットがあるそうです。

 自分にも誰か他人の役に立てる能力がある、
 自分にも他人に貢献できると感じることができる。
 そして自信を持ち、生き生きと生活ができる。
 物理的にも精神的にも豊かな生活が送れるのだそうです。

 彼は今の世界の危機は
 「経済の危機」だけではなく、
 環境、社会、文化の危機がもたらしている、と話している
 貧富の格差、文化的なアイデンティティの喪失、絆の喪失などがあるために
 お金が無いイコール生活できないとなり、自信も失ってしまう
 お金のために自然環境も破壊されてしまう
 それらを包括的に解決するのが「もう1つの経済」ではないかということです。

 彼は
 「今の経済では、お金持ちになる自由はある
  みんないい教育を受け、お金持ちになろうとする
  しかし貧乏のままで豊かな暮らしをする自由はない」
 とも話しています
 成長を求めない生き方も一つの生き方ではないか、とのことです

 しかし彼は今の資本主義や貨幣経済を否定しているわけでもない。
 彼自身、銀行で働いてお金をもらっています。
 「もう一つの経済」は今の経済の補完的な役割となればいい、
 と考えているそうです

 彼は銀行に勤務しながら、信用だけでお金を貸す銀行、
 というのを3年間実験的に行ったそうです。
 普通銀行は支払い能力や財力で判断するが、
 この銀行は信用だけで取引した。
 「人」を評価したわけです。
 でもすべてお金は返ってきたそうです。

 「もう1つの経済」で行われる
 時間銀行、補完通貨、物々交換などは、
 すべてお互いの信用をもとに取引する仕組みで、
 経済力を信用や評価の基準とする今の経済ではあり得ない。
 (どんなに人が良くても、担保が無いなら貸してもらえない)
 「今の経済システムの限界はそこにある。
  もう1つの経済は「人」を評価する。
  ここに「もう一つの経済」の可能性がある」
 とのこと。

 お金だけでは計れない価値もある、ということかな。

次は実現手段についての話です。
○時間銀行
 時間銀行は、時間を交換単位としてサービスなどのやり取りをする仕組み。
 まずメンバーになりたい人が
 自分のできるサービス、連絡先、名前などを銀行に登録する
 誰かから依頼されたサービスを提供したら、
 銀行にその分の時間が預金される。
 自分が受けたいサービスがあれば、
 預金から時間を出して使うことができる。

 この仕組み自体は実は日本で生まれたそうで
 最初は1970年代の大阪で、
 子育てや家事を女性同士が融通しあう仕組みとして生まれたそうです。
 そのあと高齢者の介護支援の方法としても使われたが
 公的介護制度ができ、次第に有償ボランティアに代わってしまったのだとか。

 しかしそのあと欧米で広まり
 スペインでは2015年で300あまりの時間銀行があるそうです。

 各銀行で少しずつ利用者や利用方法が異なり
 障害者が登録している銀行、
 移民が多い町の銀行もあり
 社会的弱者、と言われる人たちも生きがいを感じられる場になっているんだそう。

 ・いろんな時間銀行
  筆者はいくつか取材していたのですが、
  いずれも結構時間カウントはアバウトなようで
  サービス提供ばかりでプラス預金が増える人もいれば
  利用が多くてマイナスの方が多い人もいるが
  そこもあんまりこだわってないようです。

  利用者の話では、いくら使ったとかいうより
  そのサービスのやり取りで、知り合いが増えるのが楽しいんだそうです。
  また、自分の趣味が他人の役に立てるんだ、
  と気づくこともあるそうです。

  例えば老人の方が若者向けに文学談義をする、
  なんていうサービスもありました。
  また移民の子供で勉強が遅れてしまった子も、
  出張授業のサービスを受けて助かった、というケースもあります。

  そして、銀行によってはスタッフが働いていることもあり
  そのスタッフが利用が少ない人にニーズを聞いたり
  必要そうなサービスを提案する、というところもあるそうです。

  ある銀行では、プラス預金が余った人に銀行にその時間を寄付してもらい、
  その時間で銀行主催のセミナーを開くケースもあり、
  そのセミナーで新たな出会いができたりする。

  また、来たばかりの移民に何か得意なことはないか聞き、
  何かサービスを提供してもらい、
  その移民が地域の住民と新たなつながりをつくる、
  というケースもあるそうです。

  スタッフのセンスが銀行の質、その地域の質を決めるのだそうです。

 ・フードバンク
  日本では「フードバンク」が最近できていますが
  このフードバンクもスペインの時間銀行から生まれたのだそうです。

  ある銀行のサービスをしているうち、
  朝ごはんを食べていない子供がいたことに気づき、
  食料品店に声をかけ、店頭に並べない品を提供してもらう。
  それを学校を通じて配っていたのが始まりだったそう。

  そのあと役所も協力するようになり、
  ソーシャルワーカーが貧困家庭を訪ねてフードバンクを紹介するようになった。
  ソーシャルワーカーは、その家が本当に支援が必要か審査する役割もあり、
  必要なところに必要な食料が届けられるようになった、とのことです。

 ・企業内での時間銀行
  企業内で時間銀行を作っているところもあるそうです。
  これは組合とは別の組織だそう。

  ある鉄道会社では、OBの人も登録できるようになっていて、
  共働き夫婦が子育てを手伝ってもらうサービス、
  逆に高齢のOBの買い物の付き添いサービス、などもあるそう。

  また、ほかの職場では、
  子供の発熱など急用のときにすぐに仕事を代わるときに使ったり、
  お礼としてプレゼントする、ということもあるんだそうです。

  こういうシステムがあれば、子育て中の人が急に代わってもらう場合も
  わだかまりがなくて済みそうですね。

 ・学校での時間銀行
  教育の一環として時間銀行の時間を取り入れている学校もあるそうです。
  学校の場合、時間の預金というより
  お互いできるところを助け合う、提供しあう、というところが主眼になっているらしい。

  例えば上級生が下級生の勉強を見る、
  粘土細工が得意な子がほかの子にやり方を教える、
  マイノリティで悩む子が同じ経験のある子に相談をする…など。
  助け合う、という経験は子供や若者にプラスになるのだそう

○補完通貨
 補完通貨とは、地域通貨など、限定的に使える通貨のこと。
 ・アンダルシアの「ソキート」
  筆者はアンダルシア州で取材をしていましたが
  ここの地域通貨「ソキート」は日本人が作ったのだそうです。
 
  有機栽培野菜の購入グループで始めたそうなのですが
  ここでの仕組みは、利用者は手帳を持ち、やり取りがあれば
  相手の名前、利用額、日付、相手のサインなどを書く

  ソキートがたまればソキートで野菜も買えるし
  隣の人から機械を借りる、ごはんをもらう、
  などのやり取りも同意があれば使える。

  あんまり使わない人の繰り越しはどうすればいいか、
  などの問題はあるが、使う人は
  「ソキートを通じた人間関係が生まれるのが楽しい」と話していました。

  ソキートを始めた女性は、フラメンコのダンサーで、
  スペインではフラメンコは芸術、表現手段なのに
  日本ではビジネス、ショー、お金の手段としてしか扱われないことに違和感を感じたのだそう。

  悩んでいた時に有機野菜の栽培のグループに関わり
  個人が自分を自由に表現できる社会にするには、
  社会から変えないとダメだ、と思ったのだそうです。
  彼女もお金以外の価値観を探していた、ということかな。

 ・セビリアの「プーマ」
  また、セビリアには「プーマ」という地域通貨もあり、
  ここでは専用の市場でも使えるのだそうです。
  ここでは「プーマ補完通貨ネットワーク」という団体が管理している

  専用の市場にはフェアトレード商品、エコ商品、有機栽培野菜など
  社会的に公正な取引をされたものが並んでいて、
  プーマ利用者が買えるようになっているらしい

  一方、月一回のプーマ市では、
  利用者ではない人もユーロで買えるようになっているそうです。
  その一方でプーマでないと使えない一角もあり、
  新規の利用者が加入できる場所もあるのだそうです。
 
  また、専用のホームページがあり、
  利用者同士でサービスや物のやり取りを直接することも可能だそう。

  しかもプーマの場合、ユーロとの併用も可能になっているので
  (ただし価格の何割か以上はプーマにしないといけない)
  例えば現金収入はないがジャムを作れる、という方は
  ジャムをユーロ+プーマの値段設定にし、
  プーマで食料を買い、ユーロで砂糖とゼラチンを一般の店で買って材料を調達し、
  それで何とか生活できているんだそうです。

  プーマの場合、単なるものの売り買いだけではなく、
  プロジェクトへの融資もされているそうです。
  そのプロジェクトが地域のためになり、
  プーマ利用者による会議でみんなのOKがでれば
  ユーロでの融資が受けられるのだそう。
  例えばエコビールを作って売る、など。
 
  その一つにWi-Fiアンテナを建てるプロジェクトがありました。
  プロジェクトを推進している方によれば、
  融資を受けて自分たちでインターネット用のアンテナやサーバーを作り
  サーバー使用料は使用者がシェアしあう仕組み。
  使用者が増えれば料金はあんまりかからなくなるそうだ。

  今のところ立てたアンテナ10本くらいだそうですが、
  これを徐々に広げ、
  大企業の電波サービスに頼らない市民の情報ネットワークを作るのが夢だそうです。
  (アンテナって勝手に建てていいもんなんですかね…
   でも日本でも最近、無料Wi-Fiスポットとか増えてるから
   それと似たようなものかな)

  プーマは昔は、参加する一般商店や飲食店も多かったそうですが
  市への税金がユーロでないといけない、という問題がある。
  お店が困るため、最近は参加していない店もあるのだそう。
  なので、広まるためには税金に使ってもいいとするなど、
  自治体ぐるみ、地域ぐるみで行われるのが望ましいそうです。

  バルセロナ市長にはM15会議推薦の人物が就任したそうで、
  この市長は、地域通貨を税金や、市の職員の給与の一部に使う、
  などの案を出しているそうです。
  (検討中、というニュースもありました
   http://www.pressdigitaljapan.es/texto-diario/mostrar/532284/
   2019年をめどに、カタルーニャ州の40の地域、65%の住民が利用できる制度を目指すそうです)

 ・日本での地域通貨、補完通貨
  日本でも地域通貨は流行ったことはあったが
  あんまり普及はしていない。

  これについて専門家は
  日本の場合、老人介護支援、子育て支援、非正規雇用者支援など
  目的や利用者が限定されすぎるので使いにくい。

  また、利用者同士の関係が希薄なため継続しなかったり、
  地域通貨主催のグループ同士が交流して、ノウハウを学びあうことがないので活性化しにくい、
  と指摘しているそうです。

次に、フリオさんの本には
「もう1つの経済」の話がありましたが、
それはどんなものかという話がされています。
研究者的には「社会的連帯経済」というのだそうだ。

○社会的連帯経済
 言葉が難しいのでとっつきにくい印象を受けたのですが
 この言葉自体は、
 ラテン系ヨーロッパの「社会的経済」と
 ラテンアメリカの「連帯経済」が結びついてできたのだそうです。

 社会的経済、とはNPOとか共同組合、財団などが生み出す経済的活動
  フランスなどラテン系ヨーロッパの国では、
  国の財政事情で公共サービスが税金で賄えなくなったとき、
  これらの組織に公共サービス的な活動をしてもらい、
  代わりに国は法を整えるなどして、彼らの活動を後押しする、
  という形で福祉の問題を解決したそうです。

 連帯経済は、フェアトレード取引などの活動
  これらは、貧困層が自力で搾取などの問題を解決しようとして作り出されたもの

 どちらも資本主義経済の矛盾を解決する経済、
 として統一されつつあるのだそうです。

 社会的連帯経済自体の定義ははっきり書かれていなかったのですが
 これらを行っている組織(協同組合とかNPOなど)は
 ・会員がみんなで話し合って方針や活動を決めていて、上下関係はない
 ・活動自体は、社会全体の利益のためのものが多い
  (医療や教育、保育など、環境破壊を防ぐもの、障害者の雇用促進など)
 ・労働者の利益も考えている
  (雇用の保証、場合によっては住居などの保証)
 という特徴があるようです。

 これらの団体を取りまとめる会議も開かれており、
 そこでは近年は、政治的発言も求められるようになっているそうです。

 これは、M15運動の流れで、
 「もう一つの経済」を目指す活動を市民自身が行うことで
 政治も変えていこう、という機運が高まっているのだそう。
 そして市民活動から政治も変えていくというスペインのやり方は、
 中南米諸国にも注目されているのだそうです。

 具体的に、これらの経済活動を行っている組織をいくつか取材しています。
 ・障害者たちを雇用するオリーブ、ワイン生産協同組合
  この協同組合では市からの委託を受け、
  かつてワインを生産していた山を再生するプロジェクトをしているそうです。

  このプロジェクトでは、若者で障害を持つ人たちが寮生活をしながら働いているそうで、
  彼らの雇用、独立の場にもなっているらしい。
  山には技術スタッフ、医療スタッフ、料理人、寮生活のスタッフなどがいて
  自分のペースで働くことができるのだそうです。
  何より、ここでの人間関係や生活体験などが、彼らにとって貴重な宝となる。
  給料も出されるので、ここで貯金をし独立する方もいるのだそう。

  また、スタッフは共同組合の会員となり、活動内容を決める会議にも参加できる。
  スタッフの給料水準も一般企業と遜色ないそうで、
  日本のように福祉関係の仕事は薄給で意欲が低下する、ということも無いのだそうです。

 ・家にいられない子供たちを支援する労働者協同組合
  この協同組合は、移民の子供とか、親の失業など、
  家庭の事情で家にいられなくなった子と共同生活する施設を運営しているそうです。
  年齢が低い子はここから学校に通って勉強をし、
  年齢が高い子は近くの農場などで働く。
  親が落ち着いたら一緒に暮らす子もいれば、独立する子もいる。
  その子の将来を一緒に考えていくのだそうです。

  昔は移民が多かったので言葉の壁が主に問題だったが、
  最近は家庭の問題を抱える子が増え、
  それだけ一人一人へのカウンセリングが難しいのだそうです。
  
  それでもスタッフは、活動内容、給料などを
  自分で決められるためやりがいを感じているそうです。
  彼らは組合員なので、話し合いに参加することができる。
  公的機関だと、予算がどのように使われているかわからないのだそう。
 
 ・金融機関
  ほかに、これらの経済活動を支える金融機関、というのもあるそうです。
  いわゆる銀行みたいなものです。

  ここの金融機関は協同組合形式で、
  貸し付けを受ける団体が出資金を払って組合員になるケースと、
  貸し付けは受けない個人が、資金提供のために預金を作って組合員になるケースがあるそうです。

  貸し付けを受ける団体、というのは
  前述したような障害者雇用プロジェクトをする共同組合、
  教育支援プロジェクトを行う共同組合、などで
  一応貸し付けの際には審査もあるそうです。
  
  ただしもともと信用で成り立つ貸し付けなので、
  よっぽどひどいプロジェクトでなければ審査は通ることが多いそうです。
  万が一、思ったように収益が得られなくなっても、
  組合員は自分で先に相談しに来るそうで、
  そこでほかの組合員からアイデアをもらったり、
  自分で建て替えたりするので踏み倒しはないらしい。

  一方個人が、資金提供のためにここに預金をするメリットとしては、
  預金が社会の役に立てられること、
  預金の使い道に対して自分が意見できること、
  預金の使い道に関する情報提供が受けられること、
  などがあるんだそうです。

  一応、預金者に300ユーロを超える分は、「社会貢献をしてくれたご褒美」
  ということで利子はつくのだそうですが、
  それを放棄することも可能。
  逆に言えば、利子を増やして儲けたい人には不向きなのだそうです。

 ・日本での共同組合
  日本では、農協、漁協などを除けば、
  協同組合形式の組織はあまり発達していない。
  これは日本では、組合ごとに法律があるだけで、包括した法律がないためだそう。

  協同組合形式の会社みたいなのを立ち上げたくても、
  法人格が受けられないのだそうです。
  このため、融資が受けられない、法人格の税金控除が受けられない、
  建物が法人名義で借りられない…などの不便があるんだそうです。
  国によっては協同組合形式の保育施設に支援金を支払ってくれるところもあるのに、日本は不便ですね…
  
 この本ではほかに「カタルーニャ総合協同組合」というのも紹介されていて、
 これは金融、農業、商業など、広範囲な分野にわたる共同組合、なんだそうです。
 今までの共同組合をすべて合わせたような感じ。

 これを立ち上げたエンリック・ドゥランさんというのは個性的な方でした。
 彼はスポーツ選手だったこともあり平等に関心が高く、
 20代の頃は反グローバリズム運動など、
 左派的な政治活動もしていたようです。

 そのあと協同組合型のショップも作ったが資金繰りに行き詰まり、
 現在の資本主義システムの中でやってたらダメだ、と思うようになったとか。
 彼によれば
 「今のシステムは、金持ちが国の債務問題を都合よく利用するためのもの」

 そのあと彼は
 「巨大銀行こそが不公平をもたらしている」として、
 偽の融資話をして銀行からお金をもらい、というか騙し取り、
 そのお金でフリーペーパーを作り、新しい経済システムを作る運動をしています。

 その大胆な行動に「ロビン・フッド」とも呼ばれましたが、
 彼自身は、自分の考えをみんなにインパクトのある方法で伝えたかっただけなのだとか…

 現在は銀行から訴訟を起こされ今逃亡中なんだそうです
 今は潜伏しつつネット上で活動するが、彼を支持する人も少なくないらしい

 CICの仕組みはというと、出資金を払うかボランティアすれば組合員になれ、
 ショップや図書館、共用のワークスペースなどが使え、
 ワークショップにも参加できる。
 取引には補完通貨であるecoが使えるそうです。ユーロでも可能。

 さらに、CICは組合員だけで閉じたコミュニティを作っているわけではなく、
 彼らのスペースやお店は組合員でなくても利用できるので、
 彼らの理念を一般社会にも理解してもらい、
 社会を変えるきっかけになれば、と考えているそうです

 エンリック氏はこのほか、ビットコインのような、
 株式市場にも扱われる仮想通貨の構想もあるそうです。
 この硬貨は利益の2割が社会的な投資に使われる。
 国が発行する通貨ではないので、
 政府や国際市場に左右されずに利用できる…
 とのことです(ほんとかな?)

次は、資本主義と違う経済は、
首都から離れた田舎の村でも静かに行われていた、という話です。
○マリナレーダ村
 マリナレーダ村はアンダルシア州の村で
 ここの話はNHKスペシャルの「マネー・ワールド」でもちょろっと紹介されていました。

 ここでは1979年から村長をされている個性的な方がいます。
 (スペインってエンリックさんといい、結構強烈な人が多い…)
 「不足しているものがいれば、持っているものから手に入れなければならない
  金持ちは貧乏人から奪っているから金持ちなのだから、金持ちからもらってもいい」
 という考えの持ち主だそうで、
 彼は村長になった翌年、9日間700人とともにハンガーストライキを行い、
 アンダルシア州から8億円近くの失業対策支援金を手に入れています。

 また、1985年から6年、近郊の貴族の土地利用を求めて占拠、
 村人の雇用地を確保しようとしたそうです
 結局セビリア万博を控えていた政府が
 問題があると面倒なので、所有者から土地を買いあげ、与えてくれたそうです。

 ただこの村長さんは活動や予算については、
 毎回村民に説明し、
 きちんと話し合って意見を聞いてから決めているそうで
 これらの活動もその上のものだったんだそうです。
 村長はずっと再選されていますが、
 独裁者ではなく、むしろみんなから父親のように慕われています。

 さて、この村の経済はどんな仕組みかというと、
 組合形式の農園があり、野菜を育てている。
 村民は組合員になり、一律の賃金を得て、そこで働いているそうです。
 ここでできた作物は工場で加工されて販売され、品質もいいそうで、村の収入となっている。
 食料など、村民の生活必需品は村内で現物が手に入るので、生活に不便はないそうです。
 一応車で行けるショッピングセンターもあるそうなので、買いにも行けるらしい。

 また、家については、建設作業に加われば月15ユーロで立派な家に住めるそうです。
 「住宅はそもそも投機の対象ではなく、人間の権利。
  今ある住宅問題は、資本主義が作り出したもの」
 このため、もちろん与えられた家を売って投機対象にすることは禁じられているらしい。

 ほか、マリナレーダでは、文化施設スポーツ施設、公共サービスなどは
 無料、あるいは低価格で利用できるのだそう。
 
 Nスぺでは、住みやすい村として評判を聞いて、ほかから移り住む人もいると言っていました。

 M15の4回目会議はこの村で行われたそうで、
 (ほかの3回は首都で行われたので、この小さな村で行われたのは特異らしい)
 この村長さんは
 「資本主義は盗賊、腐敗、搾取を導き、人権を打ち壊すもの」として
 違う経済を進める必要性を訴えていたそうです。

〇市民による政治
 2014年、15M運動の主張を取り入れた政党「ポデモス」が発足したそうです。
 この政党は、候補者の選出、政策の決定など
 ウェブサイトで市民が直接参加できる仕組みなのだそうです。
 そして党員になるのも、ウェブサイトから簡単にできるのだとか。

 そして2015年の地方議会選挙では、
 メホラーダという町の議会でこの政党から出馬する候補者が現れ、
 初出馬にして第二党の座を獲得、
 また、それから数週間後には、
 マドリード、バルセロナ両市でこの政党が支持する人物が市長の座に就いたそうです。

 この本執筆時点ではここで話は終わっており、
 市民による変革はまだ続く、という感じで締めくくられていました。

感想など
・本の内容ではないのですが、
 ポデモスのインターネットで候補者を選ぶ、
 というやり方はイタリアの「5つ星運動」と重なるなぁ…
 とちょっと心配になって調べてみました。

 (「5つ星運動」についてはBSの番組で見たのですが、
  カリスマ性のある党首が、
  「既存の腐敗した政党を倒そう」
  と市民に呼び掛けて始まった政党で、ここも市民発の政党です。

  しかしこの党首さん、ちょっと個性が強すぎで、
  他党と話し合うチャンスを
  自ら喧嘩腰な態度をとって潰してしまい、

  党員が
  「もう少し話し合いもすべき」と批判したら
  批判した人が党内でつるし上げみたいになって追い出されてしまったり…
  独裁的になりかけていました。

  そもそも、既存の政党を潰しても
  そのあとどうするかのビジョンが欠けているなど、
  ちょっと問題があるなという印象を受けていました)

 そこで
 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/11/post-6355.php
 https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20160116-00053479/

 などを読んでいくと、
 ポデモスは一応、左派のポピュリズム政党、
 という位置付けのようです。

 このため、アメリカのトランプ氏や、
 他のヨーロッパの極右ポピュリズム、
 などと並んで評されることもあるようですが、
 これらの記事を読むと、ポデモスは、
 そういう極右ポピュリズムとは一線を画している印象を受けました。

 というのは、ポデモス党首のイグレシアス氏によると
 「ポピュリズム」とはアウトサイダー側から政治を作るやり方、に過ぎないのであって、
 思想とは関係ない。
 ポピュリズムには、右翼でも左翼でもありうる。

 つまり
 「大衆に語りかける」
 というスタイルは同じだが、
 理念や思想は全く違うということです。

 トランプ氏や極右ポピュリズム政党支持層には、
 労働者とか低学歴層に支持者が多い傾向にあるが、
 これはこれらの政党が、分かりやすい言葉で大衆に語りかけているから
 という面があるようです。

 一方、左派(リベラル)は、大学関係の高学歴インテリから出てくることが多いらしい。

 欧米で左派やリベラル
 (アメリカの民主党、フランスの中道左派など)
 が支持されないのは、
 これらインテリが、庶民に伝わる言葉で自分達の政策を訴えてこなかったからではないか、
 というような指摘がありました。

 ポデモスの党首や幹部などは、
 大学の教授、学者が多いそうなんですが、
 そういうインテリの彼らが、
 民衆に分かりやすい言葉で語りかけ、
 連帯して政治を実現させようとしているのは興味深い現象なようです。

 また政策面でも
 極右ポピュリズムは過激な政策を唱えることが多い。
 これはグローバリズム敗者には耳聞こえがいいが、
 実現できるかとなると怪しい。

 ポデモスも最初は反グローバリズム、自由貿易からの脱退など、
 極端な政策を唱えていたが
 最近では現実路線に切り替えているようです。
 M15会議などの草の根活動で、
 考え方の実践も地道にしていますし、
 単なる理想を語るだけの政党では無さそうに思えます。

 それから、イタリアの「5つ星運動」にもあった、
 党内の路線を巡る意見対立もあるにはあるようです。
 http://s-scrap.com/1237
 によれば、

 ポデモス党首のイグレシアス氏は、
 「共産党との共闘も視野に入れながら、あくまでもラディカルな左派路線」
 を目指すのに対し、
 No.2のエレホン氏は、
 「議会勢力とも妥協しながら政策を実現していく」
 路線を提案しているらしい。

 この二人を支持する人はそれぞれ党内におり、論争になったが、
 党首選では結局、9割近くの支持でイグレシアス氏が選ばれたとのこと。

 しかしそれでもイグレシアス氏はエレホン氏を追い出すことはなく、
 彼には側にいてほしい、
 自分も決断を間違えることがある、と言っていたそうです。

 自分への批判に激怒して党員を追い出すイタリアの政党党首とは全く違う。
 話し合いを大事にする姿勢を取っている限り、
 意見の違いを乗り越えて行けそうに思えました。

・時間銀行、補完通貨などは、
 日本でも部分的には応用可能そうだな…と思いました。
 子育てとか介護で早く退社しないといけない場合でも、
 時間銀行的なシステムが社内にあれば、お互い時間を融通しあえる。
 柔軟な働き方ができそうだなと思いました。

 補完通貨みたいなのは、社内に導入している企業があると聞いたことがあります。
 お互い、助けてもらったときにプレゼントしたりして
 社内の自販機のコーヒーなどに使えるシステムだったような。
 社内だけ、地域だけでも普及すると面白そう。
 
 また、日本の場合、いったん正規雇用から外れちゃうと
 なかなかそこからチェンジできないところがあるので、
 そこを救う手立てにもなりそうに思います。

 例えば育児で離職せざるを得なかった人とか
 たまたま氷河期とか、引きこもりとかで正規雇用に就けなかった人とか
 定年退職したがまだ働ける、という人とかが、
 他人のために働いて、それが何らかの評価を受けられるというのは
 生きがいになるのではないかと思います。

・日本で地域通貨や時間銀行的な動きはあったが、
 盛り上がりはしなかった…とあります。
 これはなんでかなあと思ったのですが、
 日本って変わったことをすると敬遠されるからかな、と思いました。
 お上意識も強いから、公認されてないとと何それ?てなるのもあるのかも。
 国とか地方が率先してルールを作って
 キャンペーン的にやれば意外とうまくいくかもしれない。
 まあでもお役所って新しいことやりたがらないけど…
 
・この本の書評を見ていたら
 「スペインはそもそもEUのお荷物的存在で
  そういう貧しい国では助け合いをするしかない、
  そういう国の話は日本の参考にならない」
 みたいな意見がありました

 なかなか辛辣だなと思ったのですが
 私はこれを見て、
 もしかしたらスペインはそもそも資本主義に馴染まない国なのかも、と思いました

 昔「選択の科学」という本で
 自由主義の国は、選択肢が多ければ多いほどいいと考えるが、
 社会主義の国の人は、選択肢が多くてもそんなにいいとは思わない。
 そこそこ性能がいいのがあればそれでいい、と思う傾向にあると書いてありました。
 (うろ覚えだけど)
 
 たぶんこういう左派的な思想がうまくいくところって、
 競争で勝つより、みんなが豊かな生活ができたらそれでいいんじゃない、
 と思う傾向があるのかもしれない。

 そもそも資本主義って、一番になりたい、
 というハングリー精神がある人が勝てるシステムで、
 そこそこ良ければそれでいいじゃん、
 と思う人はなかなか勝てないシステムだと思う。
 
 でもその考え方が怠け者だとか、負け犬かといえばそうとも言えないと思う。
 勝たなくてもいいからまったり生きようよ、ってのも一つの幸せの在り方で、
 それを選ぶ自由があってもいいんだろうなと思います。

 ですので、この本で紹介するような
 資本主義以外の価値観、や経済を認める、
 というのはこれからの資本主義には必要なのかも、と思います。
 
 NHKBSの「欲望の資本主義」
 という番組で、
 「今は「成長中毒だ」」とか
 「これからは禅的な新しい経済が必要だ」
 という話をセドラチェク氏がしていましたけど、
 多様性を認める、というのは重要なキーワードになるんじゃないかと思います。

 この番組で、ウーバーに出資していた投資会社の方が
 「AIが普及すれば失業率50%の世界が来るかもしれない
  その時どんな世界になるのか」
 という話をしていましたが、
 こういう時間交換の取引なら、
 お金を介在しなくても豊かな生活を送れる可能性はあるのかも、
 と思いました。

エンリック氏の銀行詐欺?とか
マリナレーダ村の村長の資本主義批判はどうかと思ったが、
それでも「今の資本主義だけでは人が置き去りにされる」
という警告と受け止めればいいのかな。

それにしても、ヨーロッパは本当に多様な世界ですね。
いろいろ勉強になりました。
というわけで、今回はこの辺で。



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2017年02月21日

「「iDeCo(イデコ)」で自分年金をつくる 個人型確定拠出年金の超・実践的活用術」朝倉智也

「「iDeCo(イデコ)」で自分年金をつくる 個人型確定拠出年金の超・実践的活用術」朝倉智也

 図書館でたまたま見つけた本です。

 「iDeCo」ってもの自体知らなかったのですが
 簡単に言えば、確定拠出年金の個人版みたいなものらしい。

 制度自体は今まであったらしい。
 ただ、今までは自営業者、企業年金のない人だけに限られていたが、
 2017年の1月から、現役世代全ての日本人に加入できるようになったそうです。

 政府自ら、
 老後の生活について、
 公的年金だけでは足りないから自助努力で何とかしなさいよ、
 と促す方向に向かっているのかな、考えてみようかなと思わせる内容で、
 読んでみて良かったと思いました。

 筆者は投資信託などの金融商品の評価会社「モーニングスター」社長の方です。
 投資の本なども何冊か書かれています。

 そして、この本は「iDeCo」についてメリットとデメリット、
 申し込みの流れなどが簡単にまとめられています。

●なぜ個人年金が必要か
●「iDeCo」のメリットデメリット
●投資の基本的な話
●「iDeCo」申し込みの流れ
●窓口となる金融機関の選び方
●ポートフォリオの組み方
 という内容になっています。

 ポートフォリオに関しては人それぞれなので、
 参考程度にして他の本も読んでよく考えた方がいいかもしれません。

というわけで内容から。
●公的年金だけでなく、個人年金も必要な理由
 最初に、公的年金だけでは将来心もとないよ、
 という話を色んなデータを使って説明していました。
 ・少子高齢化で社会保障費は増加傾向なので、支払う社会保険料は増える
 ・おそらく消費税も増える
 ・もらえる年金は減る
 ・預貯金しても、金利はそんなに高くないのでうまみは少ない

 そして、そのために早いめから資産運用をして老後に備えましょう、という話をしています。

 また現状の公的年金制度の説明も簡単にまとめられていました。
 今の制度は
 「国民年金」「厚生年金」
の二階建て。
 ・国民年金は、20~60歳の人が全て加入
 ・厚生年金は、会社員や公務員が職場を通じて加入(保険料は職場と折半)

 ・1号被保険者は国民年金だけの人で、自営業者など
  受給時には「老齢基礎年金」を受けとる
 ・2号被保険者は会社員、公務員で
  受給時には「老齢基礎年金」+「老齢厚生年金」を受けとる
 ・3号被保険者は2号に扶養されている人で、
  保険料を払わずに「老齢基礎年金」を受け取れる

 これプラス、会社によっては企業年金がある
 ・確定給付年金
  会社が運用会社にまとめて運用を委託、
  従業員にとっては将来もらえる保険料が決まっている
 ・確定拠出年金
  従業員が個々で運用先を選び運用、実績に応じてもらえる保険料が変わる

 「iDeCo」は、この企業型確定拠出年金の個人バージョンだそうです。

●「iDeCo」のメリットなど
 ○「iDeCo」のメリット
  税制面で3回得するのだそうです
 1掛け金支払い時
 2運用時
 3保険金受給時

 1掛け金の支払い時
  掛け金が、所得税や住民税の控除対象になる

  所得税、住民税は、
  「所得」から「社会保険料」や「控除金」を引いて「税金対象額」を出し、
  税金対象額に税率をかけて出されますが
  この「控除金」に掛け金が入れられるということらしい

  税率は所得の大きさによるので具体的にいくら得するかは計算しないと出てきませんが、

  仮に毎月2万の掛け金の商品に申し込んだときは
  課税所得が400万の人は年間72000円、
  課税所得が700万の人は年間79200円、
  課税所得が1000万の人は年103200円節税になるそうです。

  掛け金が多く、所得が多い人ほど得するらしい

 2運用時
  株などを運用したときの利益に対し、
  普通20%の税金が取られますが、
  「iDeCo」の場合非課税。
  (ただし、損をしたときの損益通算の対象にはなりません)

 3保険料受給時
  受け取り方により節税になるそうです。

  受給は少々ややこしいです。
  <受給可能年齢>
  運用が10年以上なら60歳から受給
  運用が10~8年なら61歳から
  運用が8~6年なら62歳から
  運用が6~4年なら63歳から
  運用が4~2年なら64歳から
運用が2年~1ヶ月なら65歳から

  いずれにせよ、早くても60歳にならないと受け取れないらしい
  また、年齢を後ろに倒してもいいのだが、
  70歳までには受け取らないといけない

  <受給の仕方と税金>
  ・一括で全額もらう
  ・年金形式で毎月もらう
  ・一括と年金形式の組み合わせ
   があり、受け取り期間や何回受けとるかは指定できるらしい
   一括でない場合は、残りのお金は引き続き運用されるそうです。

  ・一括受給の場合
   退職金扱いとなり、普通の所得よりは節税になる

   計算としては
   元本と運用利益などから「退職所得控除額」を引いた額の1/2が税金となる

   控除額は年数により異なり、勤続年数が長いほど大きくなるので
   早く運用を始めて、運用年数を長くする方が税金面では得

  ・年金として受給
   雑所得扱いとなり、税金は公的年金等控除を差し引いた額になる
   年金所得と同じ扱いなので、
   公的年金と合算の年金収入となり、
   額によっては老後の税金が増えたり、国民健康保険料が増える恐れもあるらしい

   なので、
   公的年金の受給開始が65歳なら、
   退職~65歳まで「iDeCo」を年金として受け取り、
   公的年金の受給が始まったら一括に変える、
   という手もあるそうです。

   また、受給時にはその都度手数料が432円かかるらしいので
   回数を減らした方が得ではあるらしい

●資産運用の基本
 これはiDeCoだけでなく、投資全般の話ですが、筆者がお勧めなのは
 ・長期の定額積立投資
  (景気の変動、投資感情に左右されにくい)
 ・分散投資
  (リスクを減らせる)
 ・手数料の低いインデックス投資
  (アクティブ投資よりは負けは少ない、手数料も安い)
 だそうです。

●「iDeCo」の仕組み、加入方法など
 ○「iDeCo」加入対象者
  iDeCoは、今までは自営、フリーランス、企業年金のない人だけだったが、
  2017年1月から企業年金のある人、公務員、専業主婦も入れるようになった

  これは、政府の
  「公的年金だけを当てにせず自助努力もしてください」
  という姿勢の現れではないか、とのこと

 ○「iDeCo」加入の掛け金の上限
  これは働きかたにより違うらしい
  ・第1号被保険者…国民年金との合算で月6.8万まで
  ・第2号被保険者…
   ・企業年金のない人は月2.3万まで
   ・企業型確定拠出年金のある人は月2万まで
   ・企業型確定拠出年金と給付年金の併用の人、企業型給付年金だけの人、公務員は月1.2万まで
  ・第3号被保険者(専業主婦など)…月2.3万まで
  
 ○「iDeCo」加入の注意点
  ・先に企業型の確定拠出年金に入っている人は
   規約の関係上「iDeCo」に入れないケースもあるそうで
   そこは確認が必要らしい

  ・無収入の専業主婦は、
  「掛け金が税金控除の対象になる」メリットは受けられない
   (そもそも所得税、住民税を払ってないので)
   ただし運用益は課税なし、というメリットはある

  ・拠出額は最低5000円、額の変更は年に一回可能
   掛け金が多いほど税制のメリットが受けられるが、余裕がなければ少額から始められる

  ・加入後は60歳まで引き出しできない
   (例外として、
   ・加入者が亡くなったら遺族は死亡一時金として受け取れる
   ・加入者がケガや病気で障害になり1年半たてば「障害給付金」としてもらえる)

 ○「iDeCo」対象商品
  ・元本保証商品
   預金、保険など
  ・投資信託
   運用会社により「iDeCo用」の商品があり、信託報酬が安くなっているケースが多い

  株式、債券、ETFは対象外だそうです。

  ちなみに筆者は元本保証商品はお勧めしていません。理由としては
  ・利率が低い
  ・金融機関の倒産リスク
   預金の場合、倒産しても預金1000万円は保証されますが、「iDeCo」対象のものも合算になるそうです。
   また保険の場合はもっと帰ってくる額は小さい。
   投資信託なら別管理なので、まるまる保護されるらしい

 ○「iDeCo」の加入方法、仕組み
  手順としては
  1運営管理機関(銀行、証券会社、保険会社など)を通じて「iDeCo」に加入

  2運営管理機関に商品を注文、掛け金を指定して運用
   ・掛け金の振込先は国民年金基金連合会
    (掛け金の出し入れの管理、
     加入者の資格審査、拠出限度額の管理などを行う)
   ・運営管理機関は、信託銀行に事務手続きを委託する
    (年金資産の管理、
    運用会社からの投資信託などの購入
    給付金の支払い)

  3「iDeCo」加入者が給付を受けるときは、運営管理機関に給付申請を行う

  つまり加入者にとっては、運営管理機関が窓口となる

 ○NISA、普通預金口座との比較
  ●NISA
  ・年額120万円まで運用益は非課税、非課税期間は5年
   ただし損をしても損益通算できない
  ・対象商品は投資信託のほか、株式もOK
  ・売買は自由(普通口座に比べ、売買手数料も無料にしている証券会社が多い)だが、120万の非課税枠は売却したら再度使うことはできない

  ●iDeCo
  ・運用益は非課税、何度も売り買いできる
  ・掛け金の控除、受給時の退職所得控除がある(NISAにはない)
  ・対象は投資信託、元本保証商品(株式はダメ)、ただし投資信託はiDeCo用の商品となる
  ・口座管理手数料が毎月かかる(NISAはかからない)
  ・商品の入れ換え、売買が手数料なしでできる

 ●通常の口座
  税制上のメリットはないが、
  商品はなんでもできる、売買は自由、解約や入れ換えもいつでも可能(ただし手数料はかかる)

 このため筆者の提案するのは
 手持ちの資金を
 1緊急の時すぐ使えるお金
 25~10年後に使うお金
 3長いこと使う予定のないお金
 と分け、

 1は預貯金、
 2はNISAをできるだけ活用しつつ運用、必要になったら売却
 3「iDeCo」、企業型確定拠出年金などで運用
 とのこと。

●窓口となる金融機関の選び方
 「iDeCo」口座は一人あたり一つの金融機関でのみしか作れない
 このため金融機関選びが重要
 途中で変えることは可能だが、手続きに数週間かかるらしい

 また、金融機関によっては、
 「iDeCo」口座が取り扱っていない場合もある
 取り扱い商品、手数料も金融機関により違う

 そこで選ぶポイントとしては
 1口座管理手数料がなるべく安い
 2商品の品揃えが豊富
 3サービス(ホームページ、窓口)が分かりやすい

 1手数料をなるべく安く
  基本的には、どこで入っても、初期費用の2777円と、年間2004円は必要らしい。
  内訳としては
  ・「iDeCo」加入費…国民年金基金に払う。2777円、加入時だけ
  ・収納手数料…国民年金基金に払う。月々103円
  ・事務委託手数料…信託銀行に払う。月々64円

  また、受給時にはその都度信託銀行に432円支払う必要がある

  一方金融機関によって異なるのは
  ・口座管理手数料
   銀行や証券会社によっては、無料の所もあれば月々かかる金融機関もある
   ここの額で選ぶべきだそうです。
  ・投資信託報酬
   投資信託の場合、商品により何%か必要(運用会社の手間賃みたいなもの)

 2商品の品揃え
  少ない方が選ぶ面倒は少ないが、
  筆者は多い方が選択肢が広がっていい、とのこと

 3サービス
  ホームページの分かりやすさ、コールセンターの有無など。
  各社今後発達することが予想されるので、参考程度で良いのではとのこと

  そして、今のところのランキングを出してましたが
  1位はSBI証券(ネット系の証券会社)
  運用額が50万円以上なら手数料無料、ラインナップが多い(元本保証商品3本と投資信託59本)

  2位は同じくネット系の証券会社の楽天証券
  運用額が10万円以上なら手数料無料、SBIほどではないがラインナップが多い(元本保証商品1本と投資信託27本)

 3りそな銀行
  ここは手数料が月316円と安く、元本保証商品が2本、投資信託31本
 4スルガ銀行
  ここは運用額50万円以上で手数料は無料、元本保証商品が3本、投資信託が30本

ただ今始まったばかりの制度なので、この辺は今後も変化がありそうです。

●ポートフォリオ
 ○ポートフォリオのたてかた
  基本的には
  1いつまでになんぼの資産を作るか目標を決める
  2運用の元手の額を決める
  3目標額と元手の金額から、必要な年率利回りを計算
  4実現できるポートフォリオを組む

  セオリー的にはこうなんですけど、
  筆者の提案するのは

  50歳以下なら
  「株式100%、国内株2、先進国株5、新興国株3の割合」

  50歳以降なら
  「株式5割、債券5割」
  「国内株1、先進国株3、新興国株1、先進国債券3、新興国債券2」
 
 というけっこう攻めのポートフォリオでした。

  彼の持論によれば、
  海外資産を多めにする方がいいとのこと。
  日本はこれから低成長しか見込めない、
  新興国はこれから成長するからとことだそうです。

  本では、具体的な商品(ニッセイなんとかなど)の組み合わせも提案されていました。

  日本株、先進国の株といってもいろんな投資信託商品があるので
  そこはモーニングスターのホームページのツールを使って
  信託報酬が安く、実績の良いものを選んでくださいとのこと(半分は宣伝?(笑))

  運用を開始したら、年一回チェックし、10%くらいずれたらリバランスする
  また、50歳を過ぎたら債券の割合を増やし、安定運用にしていくとよいそうです。

  配分変更でもスイッチング(売却購入)でも、「iDeCo」なら手数料はかからないらしい

 その他、使えそうなファンドの紹介もありました。
 ・ターゲットイヤーファンド
  これは、いつまで運用するかが設定されており
  投資期間が短くなるにつれ、
  徐々に安定運用になるように、
  投資対象や資産配分の変化をファンドが設定してくれるらしい

  新興国株、リートなど、組み入れ資産が多様なものもあるらしい
  組み入れられている資産は商品により色々なので、
  資産の種類、信託報酬などは確認した方がいいとのこと

 ・バランス型ファンド
  ターゲットイヤーのように  徐々に安定運用にはせず、常に同じバランスにリバランスしてくれる
  iDeCo用のバランスファンドは各社あるそうです。
  ただし、50歳になったら自分で安定運用に切り替える必要がある
  またコスト、中身をチェックした方がいいそうです。

 ・分散投資を極める
  iDeCoはスイッチングなどが無料でできる利点があるので、
  いろんなものをスパイス的に混ぜるのも良いのでは、とのこと

  例えばセオリー的には、債券と株は反対の値動きをすると言われるが
  低金利が続き、金利が下がるのが見込めないので債券価格は上がりにくい
  実際、株価が下がっても債券価格は上がっていない

  また、グローバル化により世界がフラット化し、
  地域分散効果が出にくくなっている

  このため中小企業株、非グローバル企業、フロンティアマーケット国の株式
  なども入れると面白いそうです。

  例えばSBI証券では
  国内中小企業株式のファンド
  世界の中小企業株式のファンド
  アジアフロンティア株式ファンド
  などがあるそうです。

  最後に筆者は、日本ではまだ資産運用は身近ではなかったが
  iDeCoをきっかけに運用を色々ためし、知識を身に付けると良いのでは、
  と締め括っていました。

感想など
・私も興味が沸き、SBI証券のホームページをのぞいてみましたが
 どこに情報がのっているのか分かりにくい。

 実際に始めた方の体験談
http://pa-factory.com/post-1019/

http://datsu-ryman.com/dc/dcsbi.html
 や、SBI証券に直接聞いたりして確認しました。

 私は本を読んだ限りでは
 NISAみたいに証券会社にiDeCoの口座を作り、そこで管理するのかな、
 SBI証券に口座があればすぐできるのかな、と思っていたが、
 全然違った。

 まず、iDeCo用の口座は証券会社はノータッチで、
 元締めは国民年金基金連合会らしい。

 そして、国民年金基金連合会が管理するiDeCo口座に、
 月々いくらずつ、という掛け金を加入者が振り込む
 正確には振り込むというか、自分で最初に指定した金融機関からの引き落としになる

 この引き落とし先の金融機関というのは、
 国民年金基金連合会との提携先になっているところから選ぶ

 そして面倒なことに、
 この国民年金基金連合会との提携先にはネット銀行は入ってないので
 SBI銀行とか楽天銀行とか、ネット系証券会社と提携しているようなネット銀行からはできないのだそうな。

 また、証券会社は商品を提供するが、
 その商品はSBI証券とは全く別の専用ページで指定するようになっているらしい
 (たしかSBI証券の方は、SBIインベストメントの管理だとか言ってました
 →後日確認したら、SBIベネフィットシステムズでした、スミマセン)
 そこにログインして選ぶのだそうだ。

 なんかややこしいのだが、
 具体的な流れとしては

 SBI証券の場合、
 iDeCoに加入するには
 1まずSBI証券のホームページからiDeCoの資料を請求(書面申し込みのみで、ネットではできない)

 2すると
 ・証券会社
 ・国民年金基金連合会
 両方から資料が送られてくる。

 このうち国民年金基金連合会の書類には
 「iDeCoに入りますよ」という契約、
 毎月支払う掛け金の額、
 掛け金の引き落とし先になる金融機関
 などを書くらしい

 3その書類を送ると
 国民年金基金連合会から、
 契約の確認、一回目の引き落とし期日などが書かれた書類が送られ、
 引き落とし先の金融機関の指定口座にお金が入っていれば開始となる

 4一方証券会社からは
 iDeCo用の商品が載っているサイトにログインするためのパスワードなどが書かれた書類が送られてきて、
 そこのサイトにログインして商品を選ぶことになる

 (証券会社からの書類が来るのが遅い場合は、商品を選ぶ前に引き落としになることもあり、
 その場合は元本保証商品が自動的に指定されるらしい)

 その他、SBI証券の場合だと
 「運用額が50万円以上なら、iDeCoの月々の口座管理手数料は無料」
 となっていましたが、

 これはSBI証券の口座に50万円あれば無料、という意味ではない
 (SBI証券はノータッチだからね)

 かといって、掛け金の引き落とし先の金融機関の口座に50万円あっても無料にはならない

 というのは、掛け金は前払いとか一括して払うことができないのだそうです。

 これは、iDeCo口座での運用額が通算して50万円以上になったら無料になるという意味だそうで、
 それまでは毎回手数料がかかるのだそうだ。
 というわけで、今すぐ50万円用意できるぜ、という人でも、
 初回から無料、ということにはならないみたいです。

 それから、1ヶ月あたりの掛け金が多い方が、
 50万円になるまで回数が少なくてすむので、手数料を得することになりますね…

 (仮に掛け金が毎月一万円ならば、4年近くは手数料300~400円を月々払うことになる。
 年金基金連合会に支払う手数料は毎年2000円くらいと併せると、
 通算50万になるまでは、年あたり6000円くらいの手数料になる。

 SBIにも確認しましたがその通りと言われました。
 でもSBIのページを見てると、50万円の資産さえあれば初回から無料ですよ、みたいな印象を受けるんだがなぁ…)

・個人的には今はトランプ相場なので全体的に株価高いし、
 インデックス投資信託もあんまり買う気にはならないのだが、
 セオリー的には、少額ずつ長期積み立て投資はいつから始めても損得変わらない、ということだし
 取り合えず老後の貯金と思ってiDeCo自体は加入するのも手なのかなぁと思いました。
 スイッチングが無料でできるということなので、
 元本割れが怖い人は元本保証商品の割合を多めにしてもいいし、
 いろんなものに少額ずつ投資して試すのもありなのかなぁ、と。

 ただ、iDeCo口座開設までの手続きには時間がかかるそうです。
 書類を出してから1ヶ月はかかるとか(さすが公的機関…)
 また、掛け金の金額変更もできるけど、
 書面のみなのでこれまた時間がかかるらしい。
 しかも年に一回しかできないし。

 まぁ民間ではないので少々ノンビリなシステムなのは仕方ないが、
 それにしても、こんだけ税制上の優遇をするってのは、
 政府が国民の資産運用に本腰入れてきてるんかなぁ~と思いました。
 (それにしては周知が足らない気もするが)

 資料だけでも取り寄せてみようかな。
 でも手数料とか手間を考えたらどうかなとも思うし、しばらく迷おうかな。
 色々勉強になりました。
 というわけで、今回はこの辺で。
posted by Amago at 20:06| Comment(0) | 本(お金) | 更新情報をチェックする

2017年02月06日

「グローバリズムが世界を滅ぼす」エマニュエルトッド、 柴山桂太、 中野剛志、 堀茂樹、 藤井聡、 ハジュン チャン

「グローバリズムが世界を滅ぼす」エマニュエルトッド、 柴山桂太、 中野剛志、 堀茂樹、 藤井聡、 ハジュン チャン

 正月、NHKBSの「欲望の資本主義」を見たとき、
 エマニュエル・トッドさんの
 「グローバリズムは需要不足をもたらす」
 「過去ヨーロッパに保護貿易が広がったときは、何も問題は起きなかった」
 「保護貿易は悪くない、未来はバラ色だ」
 という発言にちょっとびっくりしてしまいました。

 1930年代の世界大恐慌後、
 先進国が先を争うように保護貿易、ブロック経済化した、
 それが世界戦争の原因ってのが通説なんじゃなかったの?
 という疑問が沸きまくりでした。

 そこでトッドさんの本を探して、図書館にたまたまあったので借りたのがこの本です。

 といってもこれはトッドさん単独著書ではなく、対談や公演をまとめた共書。

 私は不勉強で知らなかったんですけど、
 アンチグローバリストという方々がいるようで、
 その方々のシンポジウムがあったみたいです。

 三部構成になっていて、
 前書きを書いているのが中野剛志氏、
 第一部はトッド氏、中野氏、藤井聡氏、ハジュン・チャン氏、柴山桂太氏5人の対談、
 第二部は上記5人の個々の講演、
 第三部はトッド氏、中野氏、トッド氏の訳者でもある堀茂樹氏の三人の対談、
となっています。
2015年なのでブレグジットや大統領選の前で、ちょっと情報は古いですが。

 読んでみた感想ですが、
 んー。
 納得あるいは反論するほど、
 自分には歴史や経済の知識が無いのが残念。
 要は何を信じるか、なのかもしれません。

 ただ、最初に読んだときは、
 感覚的にある種の気持ち悪さを感じました。
 グローバリズムのバッシング集会か?みたいな。
 なんかな、どうせならグローバリズム信奉者(経済学者)も呼んで討論してほしかった。
 (平行線になって終わりかもしれんけど)

 政治とか経済とかって、
 そういうイデオロギー論争というか、相手への批判が多くて不毛だなぁと……

 まぁでも、相手を批判するだけの不毛な論争は自然科学の世界にもありますがね。

 まそれはともかく、
 私、何となく今のグローバリゼーションって、資本主義が改善を重ねて行き着いた理想形なんかなぁと漠然と思っていたけど
 別にそうではなくて歴史の一局面に過ぎないのかも?という見方もあることがわかり、
 今の反グローバリズムの流れを読みとく上で大いに参考になりました。

 というわけで内容から。
 順番が前後しますが、それぞれの方を知らなかったので、
 第二部の個人の公演部分から読みました。

●個々の公演
○藤井聡氏
 まずグローバル資本主義の問題を挙げている
 ・経済の不安定化
  お金が同時に同じところに流れ、別の所に流れるのも早い
 ・格差の拡大
  グローバル大企業だけ勝ち残り、中小企業は潰れる
  国家間の格差もできる
 ・需要不足
  需要は増えないのに供給が増え、デフレになり給料が下がる
 ・危機のグローバル化
  一国に経済危機が起こると他の国にも広がる
 ・価値観の腐敗
  お金だけで換算される世の中、民主主義、文化、伝統、美徳が腐敗する
 ・短期的な儲けを求めた投資が増え、企業が長期的な計画をしなくなる

 そして、問題があるのに、
 現在はグローバル資本主義がナチスの全体主義のように信じこまれている、と述べている

 そして、その原因として
 ・エコノミストの名誉欲
 ・エリートの孤独(彼によればエリートは家庭や人間関係がうまくいってない人が多いらしい)
 ・エリートの選民思想
 などでエコノミストやエリートがネオリベラリズムに執着しているため、として、
 解決策としてエリート以外の市民が
 コミュニティや、ナショナリズムを大事にすべきだとしている

 (私の感想としては、
 前半は、グローバル化のいい面を挙げずに、悪い面だけを取り上げて論じるのはフェアではないなぁと思いました。

 後半に関しては、ちょっと話が飛躍しすぎて意味が分かりませんでした…)

○ハジュン・チャン氏
 彼も最初に、グローバル資本主義の問題点を挙げている
 ・格差の拡大
 ・金融危機の増加
 ・失業の増加
 そして、自由主義者は
 「それでも経済成長するから格差や失業は仕方ない」
 と主張するが、
 ・データによれば、新自由主義の時代になると経済成長率はむしろ減っている
 と述べている

 そして、これらの理由として
 ネオリベラリズムが複雑な金融システムを作ったから、としている

 複雑な金融システムは以下の問題を起こすとのこと
 ・マネーの動きが不安定化する
  金融デリバティブなどみんな理解できないので、
  誰かが勧めた投資先にみんな同時に投資するので急速にマネーが動く
  これが金融危機につながる

 ・企業が短期的に高利益率を求めるようになる
  複雑で(見せかけの)利益率が高い金融商品が増え、金融部門の利益率が上がる
  すると他の非金融部門でも、同程度の利益率を上げるような圧力がかかる
  すると企業は短期利益を上げるため、給料を下げ、投資をしないらしい

 ・株主や経営者の利益配当が優先されている
  今は配当が利益の9割、
  高度成長期の1950~70年代は3~4割

 更に途上国の場合
 ・経済規模が小さいので、
  短期的で急速なマネーの流れの影響を受けやすい
 ・IMFや世界銀行が貿易自由化、民営化を迫るので、
  産業育成ができないうちに、その国の産業が空洞化してしまう

 これらに対する解決法として、
 金融システムの規制や保護主義的な政策が必要、
 と述べている
 具体的には
 ・短期間の過剰な資本移動に対する規制
 ・国内産業の保護
  (日本のかつての大店法、農家保護政策のようなもの)
 ・税による所得再分配(北欧のような税金による社会保障の充実)
 ・金融制度の改革(自己資本比率の規制、金融デリバティブの規制、年金基金のリスクの高い資産の保有の規制など)

 交通ルールが必要なように、
 金融システムにもある程度のルールは必要、としている

 (この方も、前半はグローバル化の悪い所だけ挙げているのはフェアではないかなぁ。

 それから、新自由主義による賃金低下は複雑な金融システムのせい、としていましたが
 このあとのトッド氏の、自由主義のシステムそのものが需要不足を起こすようになっている、という説明の方が納得できました。

 また、後半の解決策については、
 自由主義経済学者も、所得の再分配やある程度の規制はすべき、という意見は言っていると思います)

○柴山桂太氏
 第一次グローバル化(第一次対戦前)と、
 第二次グローバル化の時代(1980年代~今)との比較分析の話でした。

 彼は第一次グローバリゼーションを(1870~1914)とし、
 この時代の特徴として
 ・貿易が活発…ヨーロッパ、南米、日本
 ・資本の移動
  (ちなみに戦後はブレトンウッズ体制で規制され、脱グローバル化の時代と呼ばれる)
 ・移民の移動

 この時代にグローバリゼーションが起きた理由として
 ・平和だった
 ・イギリスが推進役になった
 ・国際的な通貨制度ができていた(金本位制)
 ・技術革新、輸送革命が起きた

 第二次グローバリゼーションとの比較では、
 共通点として
 ・多国籍企業の存在
 ・貿易依存が平和を導くという思想の存在
 ・自由主義経済学が影響力を持っている
  (市場の自動調整機能、競争は生産性を高める、自由貿易は正しい、財政規律は守るべき…という思想)
  第一次ではイギリス、第二次ではアメリカが中心
 ・先進国と新興国の対立
 ・周期的な金融危機の発生
 ・帝国主義、大国が小国を支配
  今はあからさまな帝国はないが、ドイツが大国と言う人もいる
  TPPが大国になるかも、という指摘もしていました。

 第一次と第二次の違いとしては
 ・通貨制度
  今は変動相場制で、景気を政策である程度どうにかできる
  ただし、ドルが不安定化すれば混乱しやすい
 ・福祉政策が発達
  保護貿易や関税を上げなくても財政出動で貧しい人を救える仕組みになっている
  ただし新興国はそれだけの財力はないという要素はあるとのこと
 ・国際機関の存在
  貧しい国に融資したり、国の争いを調停できる機関がある
  (つまり、第一次の失敗から学んだ仕組みもある程度できているようです。)

 第一次グローバリゼーションの終わりからの流れを見ると、

 第一次大戦でグローバル化が一旦止まり、
 大戦後に金本位制が復活するが、
 世界大恐慌がおきてしまう
 各国が統制経済になり、貿易戦争となり、本当の戦争に突入

 また、戦後(1950~70)は脱グローバル化の時代
 ブレトンウッズ体制で各国の関税が高く、
 固定レートで資本移動も規制
 ケインズなどが中心となって、不安定なホットマネーの流入を防いだ

 現代は、リーマンショック以降、
 貿易、資本の移動は止まっているらしい
 自由貿易主義者の中には、
 これは一時的なもので、また自由貿易が復活するという意見もあるが、本当のところはどうか分からない

 ここでもう一度、第一次グローバリゼーションの終わりに注目すると、
 以下の特徴があったらしい
 ・パワーシフトが起きた
  イギリスからドイツ、日本へ
  今はイラン、中国?
  第一次のときはこのパワーシフトが戦争で強引に起きてしまったそうです。
 ・所得の不平等、格差が広がり
  自由貿易の否定につながる運動、
  関税を上げろ、福祉を充実せよ、労働者権利を守れという運動があった

 これらをふまえ、
 彼は
 歴史の通説では1930年代の保護主義が貿易戦争を起こし、
 次に本当の戦争になった、
と言われるがそれは半分しか歴史を見ていない、
 と述べている

 実際はグローバリゼーションが行きすぎていて、
 労働者や農民が運動を起こし、それが政治に反映されていただけのこと、
 保護主義は必然の流れだった、
 とのこと。

 ここから学べるのは、
 保護主義がダメなのではなく、
 保護主義をとっても共存できるような枠組みを作るべきだった
 ということらしい。

 格差は戦前のアメリカにもあり、
 脱グローバル化時代のブレトンウッズ期になると、格差が縮小していたらしい

 (ちなみに、格差の拡大時期にはマネーの動きが不安定でバブルが多いらしい。
 一説には、格差を埋めるには再分配が必要だが
 それでは政治的コストがかかるので、政府がわざと放置してバブルを起こし、貧困層の不満を抑えている
 という見方もあるそうです…)

 彼によると、
 ネオリベラルやグローバル化は国境を越えて活動する投資家、企業に有利なだけだし、
 政府は彼ら富裕層に従うしかない状況になっている
 このため、国の政策の選択肢は自由化を進める方向に限られる、とのこと。

 解決策としては、
 グローバル化を止めるのではなく、割合を押さえ、
 貿易や資本の移動のメリットを享受しつつ、
 デメリットを押さえる方向にしていくべきでは、としている

 現実は、リーマンショックでも世界は目覚めず、国の対立が高まる可能性が高い、と懸念している
 グローバリゼーションに疑問を持ち、正常化していくことが大事だ、と述べている

 (保護貿易はたしかに第二次世界戦争の直接の原因ではあるが、
 その背後にグローバリゼーションの反動として保護貿易を望む民意があった、というのは新たな視点でした。
 もしそうだとすれば、今のトランプ氏当選やイギリスのEU離脱も必然の流れなのかもしれない。勉強になりました。

 あと、解決策として示されている、緩やかなグローバル化は、
 これもまた正統派の経済学者の中にも同じ意見の方もいると思います)

○エマニュエル・トッド氏
 彼はまず
 「グローバリゼーションは研究途上であり、今話すのは暫定的な結論」
 と話しています。
 (この言葉には、彼の研究者としての謙虚さが感じられました)

 彼はグローバリズムは
先進国の問題、自由貿易の問題としている
 一方、「自由貿易がいい時期もある」とも認めています。
 彼によると自由貿易は、始まりの時期はいい。
 いい面としては
 ・国家間の協力
 ・各国産業の特化
 ・貿易の有用性
 など。いい時期もあるので自由貿易批判は難しいとしている。

 しかしここからは批判。
 現実には最大利潤の追求という「悪しき」本能を
 人類の福祉に正当化している、とし
 実際に以下の2つの問題が起きるとしている
 ・経済格差の拡大
  自由主義者もこれは容認しており、
  彼らは後で富を分配すればいいという考え方をしている
  しかし容認している、必要悪としているのは重要、と強調している

 ・需要の減少
  これは自由貿易が行きすぎると起きるそうで、
  1950~75年がその例だそう。

  自由経済は、始めは賃金上昇が需要を産み、
  需要が生産増加を吸収している
  つまり賃金上昇と生産増加が、互いに補いあっているいい関係

  しかしそのうち輸出を目ざす
  そうなると賃金は単なるコストになる
  するとコスト抑制、つまり賃金を減らす考えになる
  賃金が減れば需要も減る
  こうなると、絶えず経済危機に脅かされるようになる

  1950~70年代は、アメリカの貿易赤字で補われていた
  そこでアメリカの内需を増やすため人工的な融資が行われた
  (サブプライムローン)
  それが破綻したのがリーマンショック、とのこと

 次にトッド氏は、経済以外の視点から話をしている
 1つは教育や文化、もう1つは高齢化の要素から。

 まずは教育や文化から。
 彼によると、先進国では資本主義による格差が起きる前に既に教育格差があり、
 国民の意識の中では格差が容認されていた、との説。

 彼の考えによると、経済の前に世界を統一するのは識字化だそう。

  (ここで本題とは話がそれるが、識字化について。
  彼の研究によれば、歴史的には住民が読み書きできると経済が発展する
  識字化は経済とは関係なく、
  女性の地位、家族、文化、教育など、経済に先行する要因で決まる。
  彼に言わせれば識字化こそ世界化現象らしい。

  識字化が進むと出産制限、出生率の低下が始まる、
  これからアフリカもイスラムもそうなるだろう、とのこと)

 さて、先進国では大戦後、教育の進歩が続いたが、
 これが社会の均一性を壊していった、と述べている

 教育が普及する前は
 高等教育を受けられるわずかなエリートと、
 読み書きだけできる大多数が存在している時代

 この場合、みんなが平等という意識が潜在的に形成される
 民主主義、選挙制度が広まったのもこのためだとしている
 完全雇用も定期的昇給も、
 均質社会だからこそ実現できていた
 (労働者の賃金は結果的に社会の福利となるという考え方)

 しかし教育が普及すると、
 一定数の人が高等教育を受けるようになる
 受けられる人、受けられない人ができ、格差は当たり前のものとなる、とのこと

 (ここで本題とは関係ないと思うのですが彼は国別の分析もしていて、
 これも興味深いので記しておきます。

 リーマン危機前の2007年のOECDでは、
 高等教育を受けている人の割合は
 アメリカ、イギリス、フランスは4割
 日本は5割超え、
 ドイツはわずか2割

 日本とドイツは基本的には似た社会で、
 ・家族制度を大事にする
 ・教育が均一的
 という特徴がある
  (イギリス、アメリカは個人を尊重する)

  家族制度を保とうとする社会は、
  女性は家族を守るため家に入るか、仕事するかを選ばないといけないので少子化になりやすいらしい
  ドイツも出生率は低い
  フランスは事実婚、婚外子、離婚、シングルマザーにも寛容なので逆に出生率は高いらしい

  教育については、
  ドイツはナチズムの時代から、
  アンチ高等教育というか、
  高等教育へのトラウマみたいなものがあるので普及していない
  そのかわり職業、技術習得のシステムがあるらしい
  日本はそんなことはないので、
  高等教育を受ける人の割合が多いのだそう。
  そしてアメリカなど、個人主義的な社会は、教育は不平等になりやすい)

 程度の差はあれ、
 先進国では教育や文化レベルでの不平等が既にあるので
 経済の不平等も受け入れられた、とのこと

 なので、知識人は自由貿易は格差を拡大するからけしからんというが、
 人々がそもそも平等を信じなくなっている、と指摘している

 次に、高齢化が与える影響について。
 彼は高齢者の増加が変革を起こしにくくしている、と指摘している

 第二次グローバリゼーションの時代は高齢化社会
 60歳以上の世代は子供時代は貧しく、
 それに比べれば今の生活は快適なので、
 現状を変えようとしない
 また、先程の指摘のように平等を以前ほど信じていない
 このため第二次グローバリゼーションでは、
 多くの人は受動的、現状維持の傾向が強い
 高齢者は特にそうである、
 現にリーマン危機があっても反応しない人が多かった、
 と指摘している

 次に、リーマン危機後の対応についての批判。

 彼は各国の対応について次のように批判している
 ・「右派的な」ケインズ思想の反応だった
  つまり銀行にお金を投資し、支払いを増やそうとした
  本来のケインズ主義ならば給料を上げて需要を増やすが、
  それは不可能だった
  (不可能な理由は言及していませんでした)
 ・国際会議では保護主義を脅威とし、自由貿易を守ろうとした
  これはほとんど強迫観念的な反応、
  実際は自由主義こそが原因だ、と述べている

 ここからは、将来の予測について話している

 彼はこれからも、新興国より先進国が主導権をとる、と見ている
 グローバリゼーション、自由貿易はアメリカやイギリスが提唱、押し付けてきたし、
 科学技術や特許は先進国がリーダーシップを取っているからだそう。

 ・中国
 「未来は暗い」としている
  理由として
  ・出生率の急激な低下
  ・いまだに社会保障システムがない
  ・そして、これらの人口管理や発展についての一貫した戦略が見られない
   (中国の政治システムの問題)
  ・また、中国の発展は内発的ではなく、外国の投資が要因
   (マネーの引き上げも起きやすいということか)
  ・設備などへの投資率が異常に高い
   これはスターリン時代のような、生産的でない無理矢理の投資のように感じるらしい。

 ・日本について
  成長率が低いと言われるが心配はないらしい

  彼によると、遅れを取り戻している過程の国は成長率が高く、
  先導する国は成長率が低くなる

  追いつこうとする国はモデルが既にあり、真似ができるため、4~10、15%の成長もできる
  先導する国はパイオニアであり、
  失敗もあるので成長率も低くなるので1、2%の成長になる

  日本も80年代から成長率が止まったが、
  日本の革新技術は世界にとって重要になっている
  イノベーションもこれから起こるだろう、とのこと

 ・EUについて
  将来は悲観的
  ユーロのため各国は通貨政策が自由にとれず、
  自由貿易を求めるあまり隣国同士のつぶしあいになっている、とのこと
  ドイツが他の国を管理し、
  フランスエリートはそれをよしとしているらしい
  「自由貿易を信じるだけで経済思想はない」らしいです。
  ユーロについては崩壊を望んでいるらしい

 ・アメリカ
  すでに自由貿易を信用していないのでは、とのこと
  彼はアメリカは、格差の拡大はあるが、
  歴史的に可塑性があるとし、
  その可塑性に期待しているらしい
  (歴史的には南北戦争、奴隷制廃止、ネオリベラルなど変化している、とのこと。
  近年の動向については、
  オバマケアの推進、中東政策など、多様性に寛容になろうとしている感じが見えた、としている)
  アメリカが変われば自由貿易も変わるだろう、としている

 ・経済危機に対して
  金融政策だけでなく、
  規制や国際協議が必要、とのこと
  現実にはアメリカ、イギリス、日本が試行錯誤しており
  ユーロは共通通貨のせいで動けていない、としている

 アメリカは不確実、読めないが、
 死しか見えないEUよりはそちらを選ぶ、と結んでいる

 (トッド氏はドイツ嫌い、フランスエリート嫌い、アメリカイギリス好き、とはっきりしていて、けっこう偏屈なオジサン?とも思いましたが(スミマセン)、
 経済学だけではない多様な視点からの分析はとても参考になりました)

○中野剛志氏
 彼はどちらかいうとイデオロギー的?な話でした。

 まず、現在、各国でネオリベラルを主張するのは保守派が多い、と述べている

 しかし新自由主義はそもそも、
 規制のない自由、
 個人の選択を尊重する思想。
 これは労働を流動化し、共同体の絆を弱めることになり、
 保守の価値観と逆になる。

 なのに保守層がネオリベラルを信奉している。
 歴史的な分析から、
 この保守層とネオリベラルの結び付きは1980年以降から起きている、としている

 この理由としてエリートの劣化を挙げている
 1970年不況とインフレが同時に来て、政治的にも行き詰まったが、
 この際エリートが経済を統制しようとして新自由主義を選んだ、としている
 なぜ新自由主義かというと、
 自由にすればいい、と言えばよく責任をとらなくていい、
というロジックなのだそうだ。

 現状への解決策として、エリートは勉強せよ、保守主義にもどれと述べている

 (話が飛躍しすぎてイマイチピンと来ませんでした…)

●五人の対談
 対談をまとめるのは難しいので、印象に残った発言を中心に記しておきます。

 全体としては
 グローバル化の負の面の話
 それに対する各人の意見交換のあと、
 今後の世界についての予測

 そして藤井氏が最後に
 「日本はまだ自由貿易に飲み込まれておらず、
  低成長ではあるが技術力など潜在力がある
  グローバル化する道もしない道も選べる、
  なので日本の立場は世界の未来を決めるかもしれない」
 と締め括っている
という流れです。

 私が印象に残った発言は3ヵ所ほど。
 柴山氏の
 ・今はグローバリゼーションは必然の流れのように思われているが、
  実際は歴史の一局面に過ぎないのに、それが認識されていない
 という指摘。
 また、
 ・グローバル化の問題もう1つは統治がないこと
  資本主義は、国による統治があればこそうまくいく
  (交通にルールがあるようなもの)
  グローバル化社会にはグローバル政府、統治はない

 (それでも、第一次グローバリゼーションとは違い、
 今は国が豊か、福祉もあり社会システムがしっかりしている
  ただ社会が高齢化し、改革が起きにくいそうです)
  
 2つ目は
 トッド氏が
 「これだけ問題があるのに自由主義が信じられているのはなぜか」という問いに対し
 二種類の自由主義者の存在を指摘した点
 ・本当に信じている人
  これは国家の上の方に多い
 ・信じているふりをして特定の組織や企業の利権を得ようとする人

 3つ目はそのあとのエリート批判で
 藤井氏、中野氏、チャン氏は
 ・今のグローバリゼーションはエリートの思想の均質化があるのが問題
  (アングロサクソン一色、自由主義一辺倒)としているのに対し
 トッド氏は
 ・グローバル化が進んでも社会は均質化しない、それぞれの文化が保たれる
 柴山氏も
 ・各国独自の文化があるにも関わらず、それを画一的に解決しようとしていることこそ、グローバル化の真の問題、としている

(1つめの柴山氏の発言は、
 私も今の自由主義やグローバル化は当たり前過ぎて、あんまり疑問を持っていなかった一人。
 そういう人は多いんだろうな、と思わされました。

 また、彼は
 「グローバル経済はグローバル統治が必要」
 と言いながら
 そのあと「それぞれの国には独自文化があるのに、画一的に解決しようとしているのが問題」
 といっており、矛盾しているようにも思うが、
 元々、自由主義やグローバリゼーションが現実世界とは矛盾するもので、理想とは限らないはないと認識しておくべきだ、ということなのかなと思いました。

 またトッド氏の発言は、
 自由主義やグローバル化が理想形ではない、と人々が気付き始めたとしても
 抵抗勢力というか、自由主義を変えさせない強力な勢力の存在があるのかも、それが格差是正などを阻んでいるのかもと思わされました。
 
○トッド氏、中野氏、堀氏の対談
 これはまとめにくいので時系列的に書きます。
 最初にトッド氏が
 ・グローバル化の危機に対し自由貿易が唯一の解決策とされており、
  しかし自由貿易こそが真の原因

 ・グローバリゼーションの危機は民主主義の危機
  彼によれば、戦後、教育水準が上がって、個人のメンタルが変化して孤立化が進み、民主運動が弱くなった
  この状況でグローバル化により格差が広がり、
  市民は危機なのに行動を起こせず、民主主義の危機となっている、とのこと

 次に、中野氏がローマ法王のミッションマニフェスト(2013)に言及
 (内容としては、
 ・新自由主義への批判
 ・格差の拡大(トリクルダウンは現実でない)
 ・個人主義のいきすぎ)

 トッド氏はこれを受け、
 「法王の言葉は経済が集団的な信仰をこわし、
  精神を変えていることを示している」
 と述べ、ネーションへの回帰が必要、としている

 中野氏もそれを受け、
 民主主義が機能するには前提として価値観の共有が必要で、
 その共有集団の典型がネーションだ、
 世界民主主義はうまくいかない、
 ヨーロッパも国の違いがあるのでEUは危機に陥っている、と述べている

 トッド氏も
 ヨーロッパは自由貿易のために国家間の対立を起こしており、
 ネーションは消滅させたらダメだということだ、
 ヨーロッパは意識的に共同集団EUを作ることでそこを乗り越えようとしたが失敗した、
 とのこと
 彼によると、そもそもネーションとは意識的に作るものではなく、
 歴史的に形成されるもの、
 言語、宗教などを共にする無意識、集団意識的なものであるそうです。

 (言い回しが分かりにくいのですが、
 要するに戦後、
 ・教育が進んで個人が孤立化したり、教育格差ができたこと
 ・グローバル化が進んだこと
 の二点により国の絆が弱まり、民主主義運動も弱まった、

 このためヨーロッパはEUという共同体を無理矢理作って連帯しようとしたが、

 民族や文化が同一でない国同士では、どうしても無意識の上で同胞という感情が育たなかった、
 このため異質な国同士がつぶしあい、対立する事態が生まれた、ということか)

 そのあと中野氏が自由貿易批判、エリート批判
 (ただしトッド氏はこのやり取りで
 「エリートは先行きが分からない中、方向性を自分で決めないといけないのだ、逆に気の毒になってきた」と話している(笑))

 このあとトッド氏は
 「現実の世界はネオリベラルから遠ざかっている
  ネオリベラルの仮面をかぶり国富を横取りしたり、
  規制緩和をさせる人がいる」
 中野氏も同意、
 ここでおそらく時間切れなのか、堀氏が締めの言葉をかけて終わっていました。

 (この対談では
 ・教育とグローバル化が個を強め、民主主義、ネーションを弱めた
 ・それでもネーション、国の絆というのは根強い
 というトッド氏の指摘には、そういうものなのかなと思いました。
 理想とか理論だけでは説明できない、感情とか文化もある、という人間の本質を示しているのかな。

 それから、
 「自由主義を装って利得利権を増やす人たちの存在」は、
 先の五人の対談でも指摘があり、
 それだけ警戒すべきということなのかも。
 私も含めて、新自由主義とか自由貿易は理想形みたいに思ってしまっているのは、
 もしかしてそういう人たちの世論操作的なものもあるのかも、と思いました。これは推測に過ぎませんけど…)


文庫本ですが、私としてはかなり読みごたえがありました。
一部の人たちのエリート批判にはちょっとドン引きするものはありましたが(笑)
グローバル化や自由貿易は当たり前でも最先端でもないのかもしれない、
という視点が得られたのは大いに収穫でした。

今のアンチグローバル化も、自由主義の反動の現れで、
保護主義に走るから即戦争になるわけではなくて、
戦争になるか否かは、これからの我々の選択次第なのかもしれない。

戦後のブレトンウッズ体制が、
脱グローバル化のモデルになるのかな?
でもこの時代はあんまり話題に出ないから参考にはならないのかな?
そもそも、この時代をあんまり知らないのでもう少し勉強しないと。

自由貿易も競争を促し、切磋琢磨を起こすいい面もある。
例えば農業とか、若くて改革したい人とか、
異業種の企業が参入して新しい需要が産み出せるなら
それは生産的だと思う。
昔ながらの効率的でないやり方は変えた方がいいだろう。

ただいきなり変革するのではなく、
今まで細々と地道にやってきてくれた人たちにも報いるシステムはあるべきで、
そこの舵取りが難しいのでしょうね…

トランプさんの保護政策も、
もしかしていい方向に転ぶかもしれない。
ただ彼は好戦的な面もあるので
戦争のイメージになってしまうのかもしれない。
彼の人柄はよく知りませんが、ビジネスでは紳士的、という評価もあるので、
そこはうまくやって欲しいなぁ…
それともやっぱり70歳のがんこじーちゃんなのかなぁ?

色々考えさせられました。
というわけで、長くなりましたが今回はこの辺で。
posted by Amago at 14:48| Comment(0) | 本(お金) | 更新情報をチェックする