2017年07月22日

NHKBS世界のドキュメンタリー「(不)正直な私たち~“ウソ”を巡る“本当”の話」

NHKBS世界のドキュメンタリー「(不)正直な私たち~“ウソ”を巡る“本当”の話」

アメリカ2015年製作のドキュメンタリー。
去年の8月に放送されていたそうです。

何気なく見てたら、行動経済学者のダン・アリエリー氏のプレゼンテーションを軸とする番組でした。

ダン・アリエリー氏はよく
たしかオイコノミアでも何回か名前を見るなーという方ですが
(研究内容はあんま覚えてないけど(笑))
本人を拝見したのは初めてで、
へー、こんな人だったんだーとか思ってしまった(笑)

○ウソをつく度合いを左右する「ごまかし係数」
 ダン・アリエリー氏は
 デューク大学で行動経済学を研究されているそうです

 人間の行動は合理的だったりそうでないときがあるが
 その選択の違いにはどのような心の動きがあるのか、
 に興味があるそうです。

 ここ数年はウソや不正について研究されているとのこと。

 不正は企業でも政治でも、
 スポーツの世界でも
 (ドーピング、八百長など)
 どこでも見られるが、それはなぜか。

 アリエリー氏によれば
 我々は自分を
 「善良で正直で立派」と思いたい一方で
 「ずるをして得をしたい」とも思っていて、

 この2つの思いを両立させるために、心の働きを使っているそうです。

 これを「ごまかし係数」と言うそうで
 (fudge factor、なので、ごまかし因子、でも良さそうです)
 この係数の大小は色んな要素で決まっているそうです
 その要素とは
 ・みんなもやっている
 ・利益相反
 ・誰も傷つけない
 ・他人のためのウソ
 ・創造力が高い
 ・他人の監視がない
 ・社会規範
 ・疲れ
 ・犯罪からの距離
 ・自己欺瞞(勘違い、思い込み)
 …など
 (利益相反、の意味がわからなかったので調べましたが、
 辞書的な意味では、社会的な立場としての利益と、個人の利益が対立している状態、だそうです
 具体的には、研究者の研究結果と、金銭関係のあるスポンサー企業(製薬会社など)の意向が違う場合とか、
 あと最近では、トランプさんが大統領任期中のビジネスが利益相反では、と言われていました)

○NBAの審判の不正
 番組では、このあと何人か不正を働いた人にインタビューをしていますが
 最初に出てきたのは元NBA審判の方

 彼は父親がバスケの研究者、
 自分もスポーツ好きということで、
 自然とNBAの審判になったそうです。

 最初は忠実に審判していたが
 先輩から
 「出世のためには必要な不正がある」
 と言われた、とのこと

 彼は次第に同僚の不正の存在に気づき、
 自身も関わるようになっていった

 優秀な選手は優遇され、違反が見逃される
 有力チームの監督からは圧力がある

 コミッショナーとはあからさまな相談はしたことはないが、
 ミーティングなどでメッセージを感じたそうです。
 彼は試合展開のプランニングもし、
 対戦カードを見るだけで勝敗が分かるようになっていた

 「審判は上の意向にしたがっているだけなので、罪の意識はない
  ボーナスをもらうためなら仕方ない」

 ある日友人に勝ちそうなチームを聞かれ、
 彼が答えられることに友人は驚いていたそうです。

 そのうち友人の名前で、スポーツ賭博をするようになる
 彼は儲けてはいたものの、罪の意識を覚え、止めたいと思ってはいた

 しかし友人は無断で情報をマフィアに流していて、
 マフィアの会話を傍受していたFBIにその内容が伝わった

 彼らは逮捕され、禁固1年3ヶ月の刑を受けたそうです

 (注目すべきは「上の意向に従うだけなので罪の意識はない」
 という発言で、「みんなやっている」「他人の監視がない」「誰も傷つけない」という意識が彼を不正に走らせたのかなと思います)

○小さなウソが積もりつもって大きな社会的損失となる
 アリエリー氏は2002年、
 「人はどれくらい嘘つきになれるか?」を調べるため、計算実験をしたそうです

 やり方は、
 ・被験者に計算を20問解いてもらう
 ・問題自体は簡単で、足して10になる2つの数を見つけるもの
 ・これを5分で解いてもらい、鉛筆をおいたあと、正解数を数えてもらう
 ・そして、前でプリントをシュレッダーにかけてもらう
 ・そのあと自己申告で正解した数を報告してもらい、正解数だけコインをあげる

 つまり不正をしようと思えば、いくらでもできる環境を作った

 しかしこの実験には仕掛けがあり
 ・シュレッダーは実は端っこだけで、真ん中は残っている
 ・このため実際の正答数と、報告した正答数を比較できる

 結果は、
 実際の正答数は平均4、申告した正答数は平均6
 4万人の被験者のうち、7割以上がウソをついていたそうです

 ウソの内訳を見ると
 あからさまな不正申告した人は20人
 全問正解と言い張り、400ドルをだましとった

 一方小さなごまかしをしたのは3万人
 彼らは合計5万ドルをだましとったそうです
 (お金のかかる実験ですね…)

 アリエリー氏によれば
 「これは現実の世界を反映していると思う」
 つまり、とんでもないぺてん師はいるが、
 いるとしても数は少ないから影響はあまりない

 しかし小さなごまかしをする人は結構数いて、
 その人たちの不正がつもり積もって大きな社会的損失となる、とのこと

 アメリカでは
 ・年間15%の脱税者がいる
 ・保険金の不正請求は年間400億ドル
 ・医療保険の不正請求は年間2000億ドル
 …などの不正による社会的損失があるそうです

○ウソは社会的なものでもある
 ハーバードビジネススクールの研究者アリエリー氏と共同で、
 他人の不正が行動に与える影響を調べるため、以下の実験を行ったそうです

 やり方は、先程の計算実験に、
 あからさまな不正をするサクラを加える

 この人は開始30秒後に
 「全部とけたんですけど…」
 と言う
 普通は1問目を解いたかくらいの時間なので、
 明らかに不正だとわかる
 しかし実験者は問いただすこともなく、
 結構な額をみんなの前でその人に渡す

 この人を混ぜて実験した結果、
 不正をする人が増えたのだそう

 アリエリー氏はこの理由として
 ・ズルをしても咎められないから、
  (自分が罰を受けないから)
 ・ズルをしても社会的には不都合がないから
  (他人に迷惑をかけないから)
 を挙げていました

 この実験の変形として
 カーネギーメロン大学で同じ実験をして、
 不正をする人にピッツバーグ大学のトレーナーを着てもらった

 すると、同じ大学でない人が不正をした場合は
 ズルは減ったのだそうです。

 つまり、ウソを平気でつけるかは、お咎めを受ける受けないよりも
 自分の所属する社会でその行動が受け入れられるか、
 に大きく影響されるのではないか、とのべていました

○寂しさで夫に隠れて浮気した女性
 この女性は夫に浮気というウソをついていました。

 彼女は結婚後間もなくたくさんの子供ができ、
 (6人の子供で、夫との間の子供は2人、というから4人は連れ子かもしれない)
 子育てに追われていたそうです
 一方夫は仕事が忙しく
 会話は仕事か子供のことだけ

 彼女はちゃんと夫婦がしたくて、夫に泣きながら訴えたそうです
 しかし彼は「そうか」と言うだけ
 彼女は打ちのめされた気分になった

 そんなときインターネットで既婚者向けの出会い系サイトを見つけた
 (「地域の既婚者を探してチャットしよう」
 とかかれていました)

 彼女によれば、
 みんな既婚者なので後ろめたさもなく、
 ネットなので姿も見えない安心感があったそうです。
 同じ地域でたくさんの人が登録していたのだそう

 そのなかである男性と親しい仲になり
 数か月後には直接出会うようになっていた
 素敵なレストランにドレスアップして連れていってもらったり、
 夢のような時間が過ごせたそうです

 しかしある日帰宅して
 夫に「あなた出張ないの」と聞くと
 「俺の留守中に彼と電話できるからか?」
 と返してきた
 彼女は動揺し、どうやって夫がそのことを知ったのか尋ねたそうです

 原因は、彼女がメールを開きっぱなしにしてたんだそうですが…

 彼女は夫に
 「誰でもいいから振り向いて欲しかった、
  バカみたいだけど助けが欲しかった
  あなたとは別れない」
 といい、その日のうちにアカウントを削除した
 今では夫婦で離婚セラピーを受けているそうです

 彼女は「私は浮気性ではないが、ウソをついた」と話していました

 (ここでのポイントは
 「既婚者だから後ろめたさがなかった」
 「寂しかった」
 ということですかね。
 「みんなやっている」「子育てのストレス」が彼女を不正に走らせたんでしょうか…)

○ウソは脳や心の発達に重要
 道徳教育に力を入れる学校の子供でも、
 ウソについてたずねると
 「上手なウソはいい」
 「人を喜ばせるようなウソ、例えばサプライズパーティーはいいウソ」
 と答えている

 また、デューク大の脳科学者によると
 ウソは脳の発達に必要な能力、とのことです

 生物学的にも、ウソは生き残るための能力で、
 鳥や魚が色を変化させるカムフラージュもウソの一種
 進化論的には、脳が大きいほどウソをつくようになり、
 チンパンジーも餌を独り占めするために仲間をだますそうです

 また人間でも、
 小さい子は罪のないウソをつくが、
 これは楽しみでもあり、脳を育てることにもつながるのだそう
 ウソをつくことで、他人の気持ちを想像するし、他人を思いやる気持ちも育つ
 つまりウソは他人への共感力を育てるそうです

○作家の道徳的なウソ
 ある作家の心温まるウソの話が紹介されていました

 この作家は飛行機に乗っているとき、
 エアポケットに遭遇したそうです

 近くにいたイタリア人の婦人はパニックになり
 振り返ると客を落ち着かせるべき客室乗務員も泣いていたそうです
 それだけ揺れがあったということかな?

 そこで彼は婦人の隣に座って
 「僕は泣いてないでしょう?
  なぜなら僕は航空エンジニアなんです。
  この飛行機は世界一安全ですよ」
 とウソをついたそうです

 婦人は感激し
 「神があなたを使わしたに違いない、
  私が地球上の人の中で、エンジニアと隣になるなんて奇跡」と話していたそうです

 作家は
 「これは道徳的なウソだと思います。
  だってそのあと墜落して死んだとしても
  ヒステリックなまま死ぬよりは
  安心しながら死ぬ方がいいでしょ?」
 と言っていました。

 「ウソはナイフのようなもの。
  人を刺したらよくないが、
  バターをパンに塗るためならいい」

 アリエリー氏によれば
 ウソ発見器は、誰かのためにウソをつくときは反応しないそうです

 ウソ発見器はウソをついたときの感情の波を検知する機械ですが、
 誰かのため、と思えば葛藤が起きず、感情が波立たないためだそう

○子供のために住所をごまかした女性
 この女性は、子供の学校への申請書類にウソの住所を書いて有罪になった方。

 彼女には二人の娘がいたが、
 今の学区の学校はレベルが低いので
 実父が住む、5キロ離れた学区の学校に通わせたいと思ったそうです

 彼女はウソを書くのはためらいがあったようですが、
 新しい学校は勉強に集中させてくれるいい学校だったそうです

 しかしある日父の家に、
学校から彼女の実在を疑う電話がかかってきた

 彼女は否定したが、そのあと財務担当者と教育長から
 「あなたがこの学区に居住していない明らかな証拠がある」
 という書類が送られてきた

 女性は免許や有権者登録も父の家の住所に変え、
 「娘たちはここに住んでいる」
 といい続けたが、このために事態は悪化

 理事会はカンカンに怒り、
 子供を転校させろと言われたので彼女は逆ギレ?して、子供を退学させたそうです

 しかし彼女は2年後に学校に訴えられ
 刑事責任を追われて有罪判決を受け、懲役と社会奉仕を命じられたそうです

 子供には正直に話したそうです
 「善かれと思ってごまかしても
  人生にとてつもない影響を与えることもある、と伝えたかった」

 (子供のため、と思いすぎたのかもしれない。
 途中から正直に告白して、
 この学校は素晴らしいからいさせてくれ、とか言えば良かったのかもしれないけど…)

○人は楽観的になりすぎる
 ごまかし係数の要素の中に「自己欺瞞」がありましたが
 アリエリー氏はこれについて
 「人は自分について楽観的になりがちで
  運転がうまいとか、大病にかかりにくいとか思い込む傾向にある」と話していました
 そして楽観的になるうちに本当にそうだと信じてしまう。
 これが自己欺瞞なんだそうです。

 ほかの研究者も
 「8割の人は自分のことを楽観的に考える、
  人は自己評価を高くしているうちに自己欺瞞に陥るのだろう」
 と話していました

○経歴詐称をしていた女性
 28年間MITの入試事務局長として働いていた女性は、
 替え玉受験などについて
 「最近は高望みしすぎて不正を働く人が多い」と批判していました

 しかし彼女自身が経歴詐称をしていたらしい。
 MITあての履歴書を書くとき、
 聴講生としていた大学の名前を
 卒業したものとして書いたそうです
 「通っているのは同じなんだから、と思った
  卒業したミッション系の大学ではMITは相手にしてくれないと思った」のだそう

 彼女は実力があったのか、
 瞬く間に昇進し、本を書くことも勧められ、執筆もしたそうです
 メディアにも取り上げられるようになった
 プロフィールはメディアが勝手に探してきたそうで
 博士とか修士と呼ばれていたが、私は私、と気にしていなかったそうです

 しかしそのうち経歴詐称を暴く人が出てきて
 彼女は28年勤めたMITを離職
 「私は私で変わらないのに、同僚にも会えなくなった
  世の中から突然拒絶された」
 彼女は混乱し、ドン底だったそうです

 (私の印象ですが、彼女はあんまり自分が悪いことをした意識が無さそうでした。

 「私もウソをついたが
みんな同じだと気付きました」
 「いい人と悪い人がいると思っていたけど、
  人間はみんな同じだと思った」 と話していました。

 まぁたしかに学歴より能力の方が大事という考え方もあるし、
 聴講生でもしっかり勉強したんだから、という自負もあるのかもしれない…)

○現金離れが不正を増やす
 アリエリー氏によれば
 現金からの距離が遠いと、不正を働きやすいそうです。

 先程の計算実験で、
 報酬としてコインの代わりに 同じ数のプラスチックコインを渡し、
 あとで換金するようにしたところ、
 ごまかしは2倍になった

 現代は現金ばなれが進んでいる。
 ビットコイン、ストックオプション、電子マネー …

 しかし現金離れになっても、
 人は取引相手や自分を善良な人間と思うのだそうです。

 インサイダー取引などの金融関係の不正は、こうして起こるのかもしれない
 (アリエリー氏によれば、
 政治のスタッフより、金融関係の人の方が不正は2倍増えるらしい)

○インサイダー取引
 次は実際にインサイダー取引に関わった人に話を聞いています。
 A氏はプロのトレーダーで、
 トレーディングが大好きで、お金稼ぎよりいいトレーディングが大事と考えていた
 彼はニューヨークで最初にB氏と知り合った

 (B氏は取材に応じてくれず、写真だけでした)

 C氏は有能な弁護士で、B氏とは2年の付き合いだった
 有数の弁護士事務所で働き、有名企業とも取引していたそうです
 ある日B氏に
 「君の持つ情報がほしい人はたくさんいるだろうね」
 とやんわり悪の誘いを受けたそうですが、
 違法でリスキーなことはしない、と断ったそうです

 しかしB氏は
 「僕は優秀なトレーダーを知っている、
 彼なら君の情報を有効活用してくれる」とA氏を紹介する

 C氏は悪いことと思ったが、B氏は
 「悪いことだがよくあること、誰も傷つけない」といったらしい
 A氏も
 「インサイダー取引はみんなやってる」と話していました

 弁護士のC氏がB氏に情報を流し、A氏がそれをもとに株の売買をする
 これを17年続けたそうです
 不正にせしめたお金はしめて1億900万ドル

 しかし、ある日B氏からC氏の元に
 「家宅捜査が入った」と電話。
 C氏は盗聴されているかなと思ったが、まさかと楽観していたそうです

 しかし実際はFBIに盗聴されていて
 C「うちの事務所は何も追及されていないよ」
 B「証拠が押さえられているかで状況が違う」
 C「電話の記録さえなければ問題はないだろう?」
 という会話が残っている

 そしてその次の日に弁護士事務所に捜査が入ったそうです
 また、A氏の家にもFBIが怒鳴りこんできたらしい

 結局3人は実刑判決を受け、
 A氏は9年、C氏は12年、B氏は司法取引により2年3ヶ月の懲役だったそうです

 (これも「みんなやってる」「誰も傷つけない」「自分はつかまらないだろう(自己欺瞞)」がポイントですね)

 インサイダー取引も利益相反に関係する不正ですが、
 アリエリー氏によれば
 利益相反が不正の最たるもの、としています

 人はシステムの中の人間になり、
 そのシステムに不正がはびこっていると知ったら、
 個人のモラルを捨ててしまいがちなのだそうです。

 「だからこそ、我々はより良い行動を選択するために、
  どうしたらいいかを知らなければならない」

そのヒントがいくつか示されていました。
○タミルドゥ州の「正直ショップ」
 インドのタミルドゥ州には、
 「正直ショップ」があるそうです

 これは学校の中にある無人ショップで
 文房具を置いておき、買いたい子は箱の中にお金を払う
 監視もないので生徒の善意に頼るしかないシステム

 この学校の元校長は
 「私たちは勉強の成績よりも、
  豊かな人間性を育むことを重視しています。
  人間性は成人すれば花開くからです」

 生徒によれば
 最初は正直ショップも不正が多かったが
 その都度校長先生が粘り強く
 「不正を働くと失業者がでて、自分の将来を傷つけることになる」
 と諭してくれたそうです

 今では不正を働く人はおらず、
 ある子供は
 「このショップは私たちに、
  正直でいるべきことを教えてくれる
  校長先生から私たち生徒への信頼の証であり、
  生徒同士の信頼の証でもある」
 「不正をしようと思えばできるけど僕はしない、
  ズルをするより、正直に生きる方が成功できると分かっているから」
 と話していました

 自分が悪いことをしたら困る人がいること、
 自分にとってもそれは良くないと思えれば不正はしなくなる

 また、自分は信頼されている、と思うと悪いことができなくなる(レッテル効果ですかね)
 というのもあるのかなと思います

次はアリエリー氏の実験です
○道徳心を思い出させる実験
 トロント大学の研究者は
 「我々は不正を防ぐ方法を模索している」と話していました

 彼女はアリエリー氏と共同で、
 UCLAで先ほどの簡単な計算実験をしたそうです
 ただし計算テストをする前に、被験者に旧約聖書の十戒を書いてもらう
 十戒はあっていてもいなくても構わない
 (実際全部正しく書けた人はゼロ、オリジナル十戒もあったらしい)

 するとなんと、不正を働いた人はゼロだったそうです

 これはよりたくさん書けたら不正が減るかと言えばそうでもなく、一様に不正しない
 信仰する宗教にも関係なかったそうです

 アリエリー氏らは
 「例え無神論者でも、聖書を前にすると、なんらかのモラルを思い出すのだろう」
 と分析していました

 さらにこの実験には続きがあり
 MITで、今度は宗教とは関係ない倫理規定で同じ実験をした
 「MITの倫理規定のもと試験を行います」
 という書類にサインさせてから計算実験をしたところ、
 やはり不正はゼロだったそうです
 ちなみに本当はMITに倫理規定はないそうですが…

 一方プリンストン大学では大学で厳しい倫理規定があり
 入学後一週間で叩き込まれるのだそうです

 この両方の大学で
 規定に従う、という書類にサインしてもらう人、してもらわない人に分けて、
 同じテストを受けてもらった

 するとどちらの大学でも、
 サインしたグループは不正せず
 しなかったグループは同じ割合で不正を働く人がいたそうです

 アリエリー氏はこれを分析して
 「1つは残念なことで、プリンストンの特訓は意味がない。
  もう1つはいいことで、道徳的な特訓をしなくても、
  個人の中にあるモラルを思い出すことで行動が変わる」

 個人のモラルに訴えるのが大事なんですね。

他にも方法はあるようです
○ 社会を変えれば個人の行動が変わる
 ハーバードビジネススクールの研究者は
 「些細なことで人は変わりうる、と考えるのが行動経済学」
と話していました
  だから行動経済学では、
  個人の行動を変えるには、社会や文化を変える、と考える。
  小さな変化が大きな行動を起こすこともある、とのことです

 イギリスでは、この行動経済学を政策に生かすためのコンサルタントチームがある
 キャメロン首相(当時)の指揮のもと作られた「行動経済学チーム」で
 国民の意思決定、行動パターンを行動経済学で分析し
 政策決定に反映させるための助言をしているそうです。

 例えば税金は国民の正直さに頼るシステムだが、
 滞納者に
 「10人のうち9人は期限内に納めています」
 という一文をつけると
 期限内に納税する人が30%から35%に上がったそうです

 大した効果ではないという人もいるかもしれないが
 一文を入れただけで税収が増えるなら大したものだ、と話していました
 このような小さな種をたくさんまけば、
 つもり積もって大きな効果になるだろう、とのこと

 このコンサルタントチームのリーダーは
 「一人の行動は周りに感染する。これは実験室レベルでも現実社会でも証明されている。
  また、不正の広がり具合は、社会に対する信用度に大きく影響を受ける」
 と話していました

 例えば北欧の6割は周りの人を信頼している、と答えるが
 アフリカや南米ではこれが1割になる

 社会の信頼度の高さは国の経済を成長させる、という結果があり、
 その効果は政治家の手腕よりも大きいそうです

 「行動を政策に組み込むのは難しいが、
  理想的な行動モデルを組み込めれば、
  社会に変化をもたらすことができる」
 と話していました

○不正は万国共通、人間の本質
 アリエリー氏はイスラエル生まれの方なんだそうですが、
 最初は自分の国で実験し、
 イスラエルは不正が多いと感じたそうです

 しかしそのあとトルコ、中国らコロンビア、南アフリカ、ポルトガル、ドイツなどに行ったが
 意外にも統計的には国による違いはなかったそうです

 ズルさは国によって違う、と旅行しながら感じたのに、
 傾向は万国共通だったらしい

 彼は
 「我々の実験は普遍的であるがゆえに、
  「不正をしても誇りを持つ」
  という人間の本質を明らかにしている」
 と述べています
 ズルさは世界共通の人間の本質、なんだそうです

 心の弱さを知れば、我々は大きな教訓を得られる。
 簡単ではないが、我々は正直で倫理的な世界を作っていく力がある、
 とアリエリー氏はしめくくっていました。

○感想など
・アリエリー氏の実験が、国により結果は変わらない、というのが意外でした。

 と思っていたら、
国の正直度を調べる実験が紹介されていました。

 http://indeep.jp/test-how-honest-country-people-of-japan/

 このブログはイギリスの新聞記事を紹介しているのですが、
 イギリスのイースト・アングレア大学が、
 15か国100人ずつ、計1500人を対象に
 2つの実験をしたというもの。

 1つはコイントス実験で、
 ・コインを投げて表なら5ドルだったかの報酬がもらえる
 ・結果は自己申告してもらう
 ・コイントスの確率は半々なので、
  確率が5割より大きく離れていたら不正直と判断される

 もう1つは音楽テストで
 6つの音楽に関する問題に答えてもらう
 ・テストの前に「答をネットなどで調べない」という文章を読ませ、誓約ボタンを押してもらう
 ・6つのうち3つは調べないと分からないくらいの難問で
  ここを正解していたら不正直と判断される

 国により正直度に違いがあるのか、
 あとその国の経済発展と国の正直度に関係があるのか、
を調べたかったようです。

 国によりランキングが出ていて、
 両方とも上位にあるのはイギリス、スイス、デンマーク
 両方とも下位にあるのは中国、インド、ブラジルでした。

 日本はというと、コイントスではビリから2位、
 音楽テストでは1位という極端な結果。

 研究者の分析では、
 日本のような結果はアジアの国に同じ傾向があり、
 これは文化的なものや、ギャンブルに対する態度なども影響しているのでは、とのことです

 一方この記事を紹介したブログの方は日本人の極端な結果について
 日本人は正直かどうかという問題ではなく
 明文化してある規律は守らなきゃいけない、という意識が強いのでは、
 と指摘されていました。

 他に、研究者によれば
 被験者には予測もしてもらっていたそうで、
 「実際よりも自国民は不正直、と予想する人が多かった」
 つまり自国の正直度については悲観的な人が多いらしい。
 これはメディアのニュースなどによる影響があるのでは、とのこと。

 また、
 「正直な国は豊かで、貧しい国はどちらかというと不正直ということが分かった」
 つまり正直さは経済成長にある程度影響がある、ということらしいです。

 日本人の結果は面白いなと思いました。

 私はアリエリーさんの実験を見たときは
 正直そうな日本人がこの実験で不正をするのは他人にバレないからなのかな、と思っていました
 (中国人は他人の目を気にしないと本に書いてあったが、
 日本人はけっこう気にするように思うので)

 しかしこの実験を見ていると、
 日本人は集団主義社会、お上意識が強いので、
 決まりとかルールには弱いのかなぁ~と思ったりしました。

 また、2つのテストいずれもトップクラスのイギリスについては
 以前何かの記事で
 「イギリスは損得勘定にうるさい」
 と書いてあるのを見たことがあります

 イギリスは政策を国民に説明するとき
 「この政策をすれば国民一人当たり何ドルの負担、何ドルの得」
 とか細かく数字で示さないと納得しないらしい。
 なのでEU離脱交渉の支払金で揉めているのも、
 EUの請求する額の根拠がはっきりしないから国民が苛立ってるんじゃないか、とのことでした。
 なので、損得には公正な国民性なのかなと思ったりしました。
 イギリスで計算実験してもやっぱり一緒なのかな?

 まぁでも、あくまでランキングですので差がいかほどあるのかは分からないし
 各国100人ずつ、なので比較的データが少ないかなぁとは思います。

 ですのでアリエリーさんの結果が本当なら、
 人類全体からみたら国別の差は微々たるものかもしれないですね…

・アリエリーさんの言いたいのは
 「不正を働く心は、民族、人種、宗教などには関係ない」ってことだろうと思います。

 ここからは色んなことが言えると思います。

 「だから私も悪いことをしてもしょうがない」
 と開き直ることもできるけど、

 逆に言えば、
 誰かが過ちをしたときは、
 それは自分にも起こりうる、と考えて気を付けねばならないし、

 その人がもうやらないようにしたい、と思ったら、寛容にならねばならない、とも思う。

 また、
 「○○教だから悪いやつ」とか
 「○○民族だからマナーが悪い」
 とか、差別や決めつけをしてはいけない、ともいえる。

 また、経済学的には
 「不正をするのは人が悪いのではなくそうさせるシステムも良くない、
  ならばどんなシステムにすべきか」
 という発想をしていかねばならないのかなと思います。

 事実は事実、それをどう生かすかが知性なのかなと思う。

・不正を起こさないためのヒントがいくつかありましたけど
 インドの例では
 ・ほかの人が困るよ、とその人の道徳心に訴える
 ・あなたを信用していますよ、と伝える
 アリエリーさんの実験では
 ・個人のモラルを思い起こさせる
 イギリスの例では
 ・善良な行いを自分で選んでしまうようなシステムを作る

 ということがあるのかなと思います。

 なんかこれ、アンドリューカーネギーの「人を動かす」
に似たようなことが書いてあったな~と思ったんですが

 「人を動かす原則」の中の
 ・相手の良心に訴える
 ・期待をかける
 ・喜んで協力させる
 などがこれに当たると思いました。

 ほかは、相手の立場になる、とか相手をまず誉めろ、とかあるんですが、

 ・相手を非難しない
 ・相手に案を思い付かせる
 ・負けん気を起こさせる
 ・命令しない
 ・相手に肩書き、権威を与える
 ・言い方を変える

 …などが政策とかに使えそうかなと思いました
 (行動科学的に研究されているかは分かりませんが)
 政治家にしろ科学者にしろ、
 国民への提案のしかたひとつで協力する気が起きるか起きないかが決まるのかもしれない。


色々勉強になりました。
というわけで今回はこの辺で。

posted by Amago at 20:06| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする

2017年07月16日

NHKBSプレミアム コズミック フロント☆NEXT「宇宙は偶然か必然か?最新宇宙論が描く新しい姿」

NHKBSプレミアム コズミック フロント☆NEXT「宇宙は偶然か必然か?最新宇宙論が描く新しい姿」

この番組はたまに見てるんですが
今回は宇宙論で面白かったです。

最近ではユニバース、ではなくマルチバース、
つまり宇宙は唯一ではなく無数にあるという説が唱えられている
という話でした。

宇宙論でお名前をよく見かける方々がたくさん出ていたように思います。

○マルチバースが考え出された経緯
 最初の舞台は、つくばにある高エネルギー加速研究機構

 ここでは宇宙マイクロ波背景放射、
 という、最古の宇宙で放射されたと言われる波を測定している

 この波はヨーロッパのESAが打ち上げた望遠鏡でも観測されているが、
 この研究所では更に詳しいデータをとらえようとしている
 羽澄さんという研究員の方は、
 「放射のパターンは予言されており、
 出てたらインフレーションの証拠になる」
 とのことです。

 現在の宇宙論では、
 138億年前にインフレーションが起きた、とされている
 インフレーションとは、宇宙がビッグバンにより誕生した直後、
 急激に膨張したとされる現象

 マルチバースの考え方は
 このインフレーション理論から出てきた、ということで
 インフレーション理論提唱者の一人である
 佐藤勝彦さんが出演されていました。

 ・インフレーション理論から導きだされるマルチバース
  佐藤さんのインフレーション理論は1981年に発表されたそうです

  インフレーション理論は、量子力学の法則から考えられた

  量子論を宇宙の始まりに適用すると
  真空エネルギーが宇宙を始めた、という話になるそうです

  真空、というと何もない状態に思えるが
  量子論の考え方では、
  ミクロの世界では反粒子と粒子が生まれ、ぶつかっては消えを繰り返しており、
  この反応がエネルギーを生んでいる

  佐藤さんは、このエネルギーがビッグバンを起こしたと考えたそうです
  その結果生まれた空間は倍々でどんどん大きくなっていく
  この急激な膨張がインフレーションなのだそう

  どれくらい急かというと、
  佐藤さんの大きさの空間が7回倍々になるとスカイツリーくらいの高さになり
  24回で地球より大きく、
  100回で宇宙より大きくなるそうです

  そしてこの真空エネルギーによるビッグバンは
  確率論的に考えればどの場所でも起こりうる
  となれば、宇宙はいろんな所でポコポコ生まれている、
  ということになるそうです

  彼によれば、
  ビッグバンの起きた先に別の宇宙が産まれ、
  元の宇宙とへその緒のような繋がりが出来るが、
  やがてこのへその緒は切れて
  全く違う宇宙となる
  言わば宇宙が子宇宙を産んでいるような感じで
  子宇宙は孫宇宙を産み
  無数の宇宙、つまりマルチバースとなるのだそうだ

  しかし佐藤さん自身は
  計算でその結果が出たときはにわかには信じられず、
  何かの間違いではないかと思ったそうです

  しかし議論を重ねていくうちに、自分の考えが、正しいと思ったのだそうです

  冒頭のつくばの研究所では  インフレーションの証拠を探すために
  チリのポーラーベアー望遠鏡を準備中で
  2018年に観測を始める予定だそうです。

  宇宙の始まりだけではなく、
  宇宙の物理法則についても分かるのではないか、とのことです

 ・超弦理論から導き出されるマルチバース
  一方超弦理論からも、マルチバースは導きだされるのだそう
  超弦理論の礎を作った
  スタンフォード大学のレオナルド・サスキンドさんが出演されていました。

  超弦理論では、素粒子が弦のようなものでできていて、振動していると考える
  これで全ての物理現象を説明できるのだそう

  「この理論は、素粒子の本質を説明するとされてきたが
   重力の理解にも適用できると分かり
   今は重力と素粒子の両方を説明する理論となり
  マルチバースに発展した」

  超弦理論では、ミクロの世界では別の世界、別の次元が隠れていると考えるそうです

  綱渡りに例えると
  遠くから見ると、綱渡りの綱は一次元の線に見える
  しかし綱に近づいてみると
綱の凸凹が見える
  この凸凹に沿って進むてんとう虫にとっては三次元の世界になる

  超弦理論でも、
  ミクロの世界では別の次元が隠れていると考える
  今の我々の世界は時間と空間を合わせた4次元の世界だが、
  実は6つの次元が隠れていて10次元なのだそうです

  さらに、次元が次元を巻き込んで、
  別の世界を作っている。
  巻き込みかたにより
  宇宙の数が増えるのだそうです

  どれくらいの数かを計算したところ
  10の500乗、という無限に近い数になったのだそうだ
  「超弦理論では、マルチバースは当たり前なのです」

 次は、マルチバースが
○加速膨張宇宙の矛盾を解決するマルチバース
 登場したのは、テキサス大学オースティン校のスティーブン・ワインバークさん

 彼は素粒子物理学の研究者で
 1979年にノーベル物理学学賞を受賞されています

 受賞対象の研究では真空エネルギーが関わっていて
 彼はそれを宇宙論に適用しようとしたのですが
 「それから長期間、この真空のエネルギーに悩まされることになった」

 真空エネルギーとは
 先ほど佐藤さんの話で、
 インフレーションを起こしたエネルギー、として登場しました。

 しかしこのエネルギーでは
 今の私たちの宇宙の状態は説明できないそうです

 重力理論である一般相対性理論の式は、
 右辺がエネルギー、
 左辺が重力などによる時空の歪みを示しているそうです。

 左辺は2つの記号の足し算になっていて、
 その1つΛ(ラムダ)は宇宙定数と呼ばれ
 収縮や膨張に関わる、とされている

 ワインバークさんは、このΛを真空のエネルギー、と考えて計算したそうです

 Λが大きいと、重力とは反対の斥力が働き、宇宙は広がる
 Λが小さいと、銀河などの引力の方が強くて収縮してしまうこともある

 しかし、彼はΛを素粒子物理学の理論で計算すると
 (ミクロの世界で素粒子が産まれるときのエネルギーを全て足すのだそうです)
 Λはとてつもなく大きな数になり
 宇宙は発散してしまうことになったそうです

 さらに当時は、Λはゼロと考えられていたそうです。
 アインシュタインも
 「宇宙定数は人生最大の失敗」
 と言ったように、宇宙定数を捨ててしまっていた

 しかしワインバークさんは
 Λはゼロではないのでは、
 と直感的に思ったそうです
 この宇宙が成り立つためのΛがあるはず、
 と思ったそうです

 しかし先ほど言ったように、素粒子の計算では出てこない

 しばらく彼は格闘していたが
 1987年になって、
 逆に我々の宇宙を成り立たせるためのΛはどのくらいか、を計算してみたそうです
 すると10のマイナス120乗、という非常に小さい値になったらしい

 しかし値は分かっても由来が分からない。
 彼は理論に基づかない求め方は禁じ手だとは思ったそうです

 そんなときに出会ったのがマルチバース
 マルチバースなら説明できると考えたそうです
 つまり、無数の宇宙があればいろんなΛを持つ宇宙があり得る
 その中の我々の宇宙のΛが、たまたま10のマイナス120乗だったのでは、と。

 「ほとんどの宇宙ではΛはとてつもなく大きく、
  そういう宇宙では急激に膨張し、
  銀河も惑星も生命も存在しないだろう

  しかしごくまれにΛが小さいときがあり
  そういう宇宙ではゆっくり膨張して、
  星や生命が生まれることもできる」

 しかしこの理論は、当時は多くの物理学者から
 理解されなかったそうです

 ところがそこから10年して風向きが変わる
 宇宙の加速膨張を示す観測結果が発表されたそうです

 この宇宙の加速膨張の発見については
 この番組でも別の回でやっていましたが
 超新星爆発の観測をしているとき
 (超新星は明るいので観測しやすいそうです)
 超新星爆発までの距離と
 遠ざかる速度の関係をグラフにすると比例関係にはならず
 遠くの星ほど遠ざかる距離が遠くなる、
 という結果だったそうです

 この結果はアメリカとオーストラリア、別グループで同時期に発見、発表され
 この功績により、両者は2011年にノーベル物理学賞を受賞しています

 宇宙の加速膨張に基づきΛを計算したところ、
 10のマイナス120乗になったそうです
 Λも小さい値を取りうることを示した、とのこと

 彼は
 「ほらみろ、なんて言いませんでした、あまりに幼稚ですからね(笑)」
 「マルチバースが正しいかは分からないが、
  1つのテストには合格したのかな」

 そのあと、Λはゼロではなく小さな値だという考えが受け入れられるようになった
 スティーブン・ホーキングや
 マーティン・リースなど
 名だたる物理学者がマルチバースに賛同するようになったそうです

○我々の宇宙は数ある宇宙の1つに過ぎない
 マルチバースによれば、我々の宇宙は数ある宇宙の1つ、ということになる

 しかし以前は、地球は特別な星、という考え方もあったそうです。

 我々の地球は
 太陽からの距離はちょうどよく
 離れすぎて凍ることもなければ
 近すぎて灼熱の大地になることもない

 また大きさ、重力も絶妙で
 水や大気を繋ぎ止める程度の重力をもつ

 月もちょうどいい位置で
 これも生命を維持するのに役立っている

 宇宙は地球や人類が生まれるために微調整されたのではないか
 と考える人もいたのだそうです

 これは「人間原理」といい、
 人間中心的な考え方でもある

 しかしいろんな宇宙があるんだよということを
 マサチューセッツ工科大学のマックス・テグマークさんが
 例え話で話しています
 (彼はモーガンフリーマンさんの番組でもよく見かけますが、今回はマジメでした(笑))

 彼は
 「宇宙の誕生する条件は無数にあり、
  条件によりいろんな宇宙ができるのでは」
 とのべ、宇宙の誕生を車の運転に例えていました

 初めての車を運転するとき
 いろんなボタンを触り、いろんな条件を設定していく

 宇宙の設定の場合、
 我々の宇宙は四次元だが
 他の宇宙ではもっと多い次元をとることもありうる

 快適に運転できるように条件を設定し、
 全て決まってエンジンをかけるときがインフレーションなんだそう

 宇宙とはなにか?を彼に聞くと
 「我々はなぜこのような宇宙があるか、と聞くが
  本当は、なぜ我々はこのような宇宙で、他の宇宙に住んでないのか、と問うべきだ」
 と述べていました

 つまり、人は数ある宇宙のなかで生存に適した環境にいるに過ぎない、ということだそうです。

 次は、日本の若い研究者たち二人の考える最新の宇宙の姿です
 二人は全く宇宙の形を考えていました

○パラレルワールド?
 一人はカリフォルニア大学バークレー校の野村泰紀さん
 彼は素粒子論、宇宙論を教えているそうです

 マルチバースは量子力学で理解されると考えている

 「量子力学はミクロの世界のものと思われていますが、
  我々もミクロなものからできている
  であれば、大きな世界も同じと考えた方がとすっきりするはず」

 では、量子論の世界を大きな世界に適用したらどうなるか?

 彼は大学の構内で、赤いTシャツを着た人とすれ違い、挨拶しています
 「僕は毎日彼とすれ違うんです。
  彼は今日は赤いシャツを着ているけど
  青いシャツを着ていることもある。

  では、彼がそこの角を曲がって僕の目の前に現れる前に
  赤いシャツ、青いシャツどちらを着ていると思いますか?」

 奇妙な質問です。
 普通に考えれば
 彼が出会うときには赤いシャツを着ているんだから、
 その直前に着ているのも赤いシャツに決まっている

 しかし量子論的に考えると、赤と青は同じ確率で
 すれ違うまでは分からない。

 「?」ですが、彼によれば、
 彼がシャツの人に出会うまでは、
 赤いシャツの世界と青いシャツの世界が平行に存在し、
 重ね合わせの世界になっている
 観察する自分のいる世界が五分五分なんだそうです。

 この世界では、
 我々の宇宙の他に
 ほかのTシャツを見ている自分がいる宇宙、変な宇宙などが同時に存在している
 つまりパラレルワールドが存在している、ということらしい

 パラレルワールドは、
 全然違うところではなく我々の宇宙に寄り添うところ、
 量子力学的な確率の空間の中にあるそうです。

 パラレルワールドについては、先ほど出ていたテグマークさんも他の番組で同じようなことを言っていたと思います。

○マルチバースを考えなくていい?
 もう一人の研究者は、
 ミュンヘンのマックス・プランク研究所にいる小松英一郎さん

 彼は最初に万有引力の法則を見せ、
 このような当たり前の物理法則は、
 宇宙を説明するには限界があるのでは、とのべています

 宇宙の始まりから今の宇宙までを模した図
 我々はこれを常識と思っているが
 この中には宇宙の物理法則が及ばない世界があるのではないか
 とのことです。

 「アインシュタインの一般相対性理論は、
  真空エネルギーが空間を押し広げている、としている
  ただしこれはアインシュタインの理論が100%正しい場合で
  これを正しいとするデータは今のところない」

 一般相対性理論にあるΛは膨張エネルギーで、
 これは真空エネルギーが源とされてきたが
 彼は、他に膨張エネルギーがあると考えている

 それはダークエネルギーみたいな、
 重力とは逆に働く力だ、とのことです。

 さらに彼は、彼はダークエネルギーは時間変動する、
 ダークエネルギーの密度が時間により増えたり減ったりしている、と考えたそうです。
 もしダークエネルギーの密度が増えれば、宇宙の膨張は速くなり、
 密度が減れば膨張は遅くなる

 ダークエネルギーの密度がちょうどいいところにあるのが
 今の我々の宇宙なのだそう

 「そもそもなんでマルチバース、かといえば
  観測された加速膨張が説明できないからで、
  ダークエネルギーが時間変動すると考えれば、
  マルチバースは考えなくてもいい」

 つまり彼は、
 マルチバースを考えずとも宇宙の加速膨張が説明できるという立場だそうです。

 「これを証明するには、
  時間ごとのダークエネルギー密度を比べればいい。

  現在のダークエネルギーの密度と
  100億年前のダークエネルギーの密度は同じ、ということは分かっているので、
  それ以前を調べている」

 彼の共同研究者、ゲイリー・ヒルさんは、
 アメリカのマクドナルド天文台で、
 このダークエネルギー密度を測定しようとしているそうです

 彼は、おおぐま座の方向にある、
 100億年前より古い銀河を観測しているそうです

 それぞれの銀河の距離の散らばり具合を調べれば

 100億年前の銀河に比べて、
 120億年前の方が銀河の散らばりが多ければ、今よりダークエネルギーの密度が多いことになり
 ダークエネルギー密度が減っていれば散らばりは増えないことになる

 最初のデータを出すのに2、3年かかり、
 そこから数年観測するので
 結果がでるのは早くて5年後なんだそうです。

とはいえ小松さんは
 「ダークエネルギー密度は一定、と出たら
  頭を抱えるしかない
でももう少し、という手応えはあるんです」

○エンディング
 出演者の皆さんの宇宙観は様々だな、と思わされる編集になっていました。
 佐藤さんは
 「物理学を研究していたら、宇宙が産まれるのは必然と思える」

 テグマークさんは
 「我々の宇宙は必要に迫られて存在していると思うね」

 といい、ワインバークさんは
 「宇宙の始まりについては勘弁してくれ」
 と正直な意見(笑)

 サスキンドさんは
 「今はマルチバースが常識になるかの過渡期だと思います、
  そのうちに新しい人が全く違う理論を考えて、驚かされるかもしれない」

 また、新しい世代の研究者の野村さんは
 「後世から見て、
  我々の時代の最大の貢献はマルチバースになるかもしれない」

 しかしどの研究者も共通するものがある、と思わされたのは小松さんの一言。
 「宇宙の研究の止められない所は、
  ゴールが見つかったと思ったら次のスタートが始まっていることですね」

 まだ未知のものを解明するワクワク感があるからこそ、皆さん研究は止められないのかな、
 と思いました。

○感想など
・インフレーション理論、超弦理論、加速膨張宇宙、パラレルワールドなど、
 主要な宇宙論てんこ盛りという感じで面白かったです。
 この番組、映像も綺麗だし。

 ただ最後にダークエネルギーが出てきて、
 そういやダークエネルギーって何だっけ?
 真空エネルギーと何が違うんだ?と思ってちょっと調べましたが

(http://科学情報誌.xyz/2016/05/28/post-1305/
http://科学情報誌.xyz/2016/05/27/post-1286/
http://djweb.jp/power/cosmology/cosmology_03.html
他にも色々)

 ダークエネルギーとは、
 宇宙が加速膨張するには、目に見える物質のエネルギーでは足りないために考え出されたエネルギー。

 ちなみに、名前は似ているがダークマターは、
 銀河たちが集まるための重力が、目に見える物質の重力では足りないので考え出された物質、
 ということで、

 ダークマターによる収縮のエネルギーは銀河の内部など、局所的に働く力、
 一方ダークエネルギーは、
 空間全体に働くもっと広域的な力、
 という違いがあるみたいです。

 しかしダークエネルギーの正体は今のところ不明で
 有力な候補となっているのが真空エネルギー、だが、
 小松さんみたいに別の候補があるのでは、
 と考える方もいるようです。

 加速膨張宇宙、という現象は、観測されてしまったので動かせない。
 しかしその原因や由来が分からないので、
 取り合えず便宜的にダークエネルギーを考えている
 ということかしら。

・佐藤さんのいう
 「インフレーションが産み出す子宇宙、孫宇宙」
 サスキンドさんがいう
 「隠れた次元が産み出す全く別の宇宙」
 ワインバークさんがいう
 「Λが違う、発散する宇宙、収縮する宇宙」
 などは、全く別の宇宙が   我々の宇宙の外の空間にある、
 (そこには全く別の生き物がいる?)
 という感じですが

 野村さんがいう
 「パラレルワールドの宇宙」
 は、いろんな自分が枝分かれして存在する複数の宇宙が
陰のように存在する、
 (そこには別の自分が同時にいる)
 という感じなのかなと思います。

 小松さんは、別の宇宙はないかも、という立場。

 しかしもしかして、本当はどれも真実で
 どれも見方を変えただけかもしれない。

 白い光をプリズムで分けたらいろんな波長の光に別れるように
 この宇宙も、あるプリズムでみたら、
 自分が複数同時に存在するパラレルワールドがたくさんあり、
 あるプリズムで見たら
 いろんな条件のいろんな物理的環境の宇宙があるのかもしれない。

 しかしそのように分かれて見えるのは
 我々人類が肉体とか次元とかに縛られているからで、
 超越した存在が世界を見たら
全部1つになるのかもしれない、

 …とも思います。

 だとしたら、
 結局、我々の分かることは部分的なことだけなのかもしれない。

 でもいろんな人がいろんな考え方を持って研究しているのはおもしろい、と思いました。

 物理を学んだうちのだんなによれば
 「物理学がガチで好きな人は宇宙論に行く」
 (ちなみにだんなはそのタイプではなかったらしい(笑))
 と言っていました。

 そういう天才たちから
 相対性理論とか、量子論みたいに
 そんなんあり?みたいな、
 あっと驚く理論が急に産まれるかもしれないなと思います。

色々勉強になりました。

というわけで今回はこの辺で。




posted by Amago at 22:16| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする

2017年06月30日

BS世界のドキュメンタリー「ダウン症のない世界?」

BS世界のドキュメンタリー「ダウン症のない世界?」

2016年イギリス製作のドキュメンタリー。
ダウン症の息子さんを持つ女優さんが製作したもので、
お腹の子がダウン症と診断されたら、中絶するのか、産むのか?
という課題に真正面から向き合い、
いろんな方にインタビューをされていて、とても見ごたえがありました。
自分ならどうするんだろう…と考えさせられた。

 というわけで内容から。
 今回ドキュメンタリーを企画したのは、サリー・フィリップスさん。
 3人の息子さんをお持ちで、
 うち11歳の子オリーくんがダウン症だそうです。
 「ダウン症、と診断されると絶望する人が多いが、
  私も含めて、多くの母親は生活を楽しんでいる」
 と話していました

〇イギリスで進む出生前のダウン症検査
 最初にイギリスの現状から。
 イギリスでは妊娠すると、
 ほとんどの人がダウン症の可能性があるかどうかなどの検査を勧められるそうです

 これは妊婦の血液ホルモンから簡単に調べられる。
 その結果、過去10年で、ダウン症を理由に中絶する人は40%増加、
 確定診断を受けた人の9割は中絶したのだそう

 イギリス保健省のNHSもダウン症を重度の障害、としており
 ダウン症を理由とした中絶は出産直前でも認められているそうです
 NHSのパンフレットには
 ダウン症には「消化器疾患、心臓疾患、甲状腺異常、認知症発症、視覚聴覚障害」
 などのリスクがあると書いてあるそうです

 (ちなみにダウン症とは、人間の23対ある染色体のうち、
  21番目の染色体が3本ある染色体異常だそうです
  なので、普通の人より小柄、アーモンド型の目、などの独特な外見、
  知的発達がゆっくり、など特徴はあるが、個人差はあるそうです)
 ちなみにイギリスでは4万人しかいないそうです

 ・出生前検査の専門家ニコライデス教授とのインタビュー
  「なぜダウン症の検査を進めてきたのか」
  「需要があるからです」
   人によっては、ダウン症の子供を持ちたくないと思う人もいるので
   そういう人には情報を提供せねばならない、とのこと

  「ダウン症の子を持つことは悲惨なことではないのに、なぜみんなそんなに恐れるのか」
  「ダウン症への認識不足、前向きな情報が足りないという可能性はある
   ダウン症を精神疾患と結びつけて考える人も中にはいます。
   また、ダウン症の人達の寿命が延びているので、
   それを重荷と思う家族もいる」
  母親たちは、障害を持つ子供を持ちたくないと思うらしい。

 また、取材当時は、さらに新しい診断技術が開発されているところでした。
 それはNHSの研究所が開発した「NIPT(無侵襲的出生前遺伝子検査)」
 (http://blog.seesaa.jp/cms/article/regist/input
  によると、母体の血液を採取し、
  そこから胎児由来のDNAを解析する検査だそうです。
  それまでの羊水検査などよりも安全性が高いとのこと。
  日本でも受けられるそうですが、
  35歳以上、ダウン症などの赤ちゃんを産んだことがある人、染色体異常を告げられている人、
  など条件があるそうです)
  
 ・NIPTを推進しているキティ教授へのインタビュー
  この教授は、
  この方法は民間の研究所は開発に関わっていない、99%の精度で出生前診断ができる、
  と説明していました。

  サリーが
  「ダウン症は特性の一つと考えているのに、排除してしまうのですか…」
  と質問しかけると
  「ちょっと待ってください、
   私たちの目的はダウン症の人たちを排除することではありません、そんなのあり得ない」

  「なぜあり得ないといえるんですか、現実は逆ですよね」
  「こうなったら、という仮定の下に議論するのは間違っています、
   重要なのは、女性たちが正確な情報を知った上で選択できるようにすること、
   女性帯は、情報を得るために検査をしているのです」

  「この検査が、ダウン症の人たちに深刻な影響を与えるかもとは考えないのですか」
  「お尋ねしますが、あなたの息子さんはおいくつですか?
   息子さんはあなたより長く生きるとは思いますが、
   そのことを考えたことがありますか?」
  「それでも私は中絶は選ばないと思います、
   社会がダウン症の人たちの面倒を見られないなら、
   それは個人ではなく社会の問題だと思います」

  サリーは、この教授は
  「我々はダウン症の人を排除しているわけではない」
  と必死になって言い張っているように思えた、と残念がっていました。 

〇あえて出生前検査を受けなかった母親
 逆に、あえて検査を受けない人もいるようです。
 この女性は、すでにダウン症の娘さんがいる7か月の妊婦さん

 彼女によると
 「医師には早めにダウン症の審査をするように勧められた」
  しかし、
  彼女はダウン症の娘の存在を否定することになるから、
  自分にとって検査は意味がない、受けたくない、話もしてほしくない、
  そのようにカルテに書いておいてくれ、
  と最初に医者には言っていたそうです。
 
 しかしそれでも医者は後で相談してきた。
 抗議すると
 「それでも話をしたかった」と言ってきたそうです。

 彼女は
 「傷つきますよね」と話していました。
  ダウン症の子を再び持ちたくないはず、と決めつけられているのだ、と。
  医者はダウン症の子を産ませたら周りがどんな反応をするか分かっていて、
  自分の身を守るために話をしているだけ、
  社会ではダウン症の子を授かることに理解がない、と話していました。

〇ダウン症の俳優さん
 しかし、ダウン症の仲には社会で活躍してい人もいる
 この俳優さんは
 「僕の夢は賞を取ること、彼女を見つけること
  両方できたら最高だね」
 と前向きでした
 彼は人一倍努力をして、今の職業を得たそうです

〇ダウン症の子供への教育の道を開いた教授
また、最近はダウン症の子供も教育を受けられるようになった

 1970年まで、イギリスではダウン症の子供は学校へ行けず
 普通学校へ行けるようになったのは1981年だそうです。
 
 その道を切り開いたスー・バックリー教授を訪ねていました
 教授によると
 ダウン症の人は耳で聞くのは大変だが、目で見れば学習ができる
 適切な指導をすれば、8割が読み書きできるようになる
 普通学校を卒業し、就職し、自立して生活している人はたくさんいるそうです
 
 「NHSのダウン症の出生前検査を許可するプログラムについてどう思うか」
 「ダウン症を中絶の理由にすべきではない。
  このプログラムは
  ダウン症の人たちの意見を反映していない」
 出生前検査のプログラムが作られた30年前には
 すでにダウン症の方への教育が進んできたはずなのに、
 倫理面での議論が何もなされていなかった、
 これからもっと議論されるべき、と話していました

〇アイスランドの現状
 次に彼女はアイスランドに取材しています。
 アイスランドは障害者に対する政策が進んでいるが、
 それでもこの5年で、ダウン症の可能性が高いと診断された人は100%中絶しているらしい

 新聞には「ダウン症の人は存在価値がない」とする投稿があり
 ハルドラさんという30代のダウン症の女性が
 「私たちに存在価値がないと誰が決めつけられるのか」
 と抗議したそうです。

 サリーは彼女に話を聞くと
 「出生前診断で赤ちゃんが中絶されるのは辛い」
 サリーは
 「あなたが声を上げたこと自体が素晴らしい、
  発言したことに価値がある」と彼女を抱きしめていました。

 ハルドラさん自身は、ダウン症を抱えつつも
 二か国語を話し、仕事もしていて結婚予定の相手もいるんだそうです。
 たしかにかわいらしい女性でした

 次にサリーは、アイスランド国民の遺伝情報データを蓄積している
 神経学者ステファンセン氏を訪ねていました。
 彼の持つ情報は、能力や遺伝性の病気があるか、
 などの予測にはつながる、とのことです
 
 「アイスランドでは、ダウン症の出生前診断を受けた人の100%が中絶する、
  この現象を成功と見ているのですか」
 「成功かどうかは分かりませんが、
  この傾向は思慮に欠けている、とは思います」

  彼は
   自分の知り合いに素晴らしい人間がいて、
   その人の息子はダウン症だが
   2人には愛情が感じられ、その姿はとても美しい…
  と話したうえで
 「しかし現実はダウン症の子供は中絶される、現実は残酷です
  それが正しいのかどうかは分からない」

  そして
 「言えるのは、中絶するかの判断は
  出産する本人にゆだねられるべきだということです、
  それ以外は理不尽です」
  サリーもその言葉にうなずいていました。
 
〇医療関係者の態度
 アイスランドからサリーが帰国すると
 イギリスでは専門委員会が、
 新しい出生前診断法の推進を決定した、
 というニュースが流されていました。
 
 しかし新聞を読んでも
 この方法は安全で正確、という話はあるが、
 この決定がダウン症のコミュニティに与える影響を危惧した記事は1つもない
 サリーは
 「私はあまり怒る方では無いが、かなり怒りを感じている、
  怒りのレベルで言えばレベル9くらい」
 と言っていました

 そんな中、NHSの職員に向けてスピーチをしていた女性がいました
 彼女はヘイリーさんというブロガーで
 ダウン症の子供を出産した後にその体験をブログにつづっている
 彼女のブログには、同じ境遇の親からのメッセージも寄せられている、とのこと

 「NHSは今回の決定を
  「「苦しみ」の根絶に向けた第一歩だ」というが
  言葉の重みに対しもっと敏感になるべきだ」
 とスピーチでは話していました。

 彼女は出生前検査を受けなかったそうですが
 医療関係者の言葉は怖いので、
 もし告知を受けていたら中絶していたかも…
 医療関係者はもっと告知の仕方に気を付けるべきだ、と訴えていました

 「これは妊婦さんが実際に言われた言葉です。
  「明日の朝にも中絶できますよ」
  「出産するなら、転院してください」
  「ダウン症の子供は一人で十分でしょう?」」

 「私が娘を産んだ時のことは忘れられない
  助産婦さんは混乱していました。
  私は怖くて何も聞けなかった。
  「悪夢」と刷り込まれていたことが現実になった、と直感した」

 医療関係者が、ダウン症は深刻な病気、なったら悪夢だ
 という話を妊婦さんに「刷り込んで」いるかのようです。

 しかしヘイリーさんは
 「娘はリスクではない、
  火事でも洪水でも、医療論文の1ページでもないんです。
  娘の産まれた日に戻れたら…」
 そして
  「ありがとう」
 と娘を抱きしめていました。
 
 サリーもこの話を聞いて、
 オリーくんを産んだ時のことを思い出したそうです
 助産婦さん、看護師さんは泣いていた

 「しかし、あとから考えれば同情してもらう必要はなかった」

 ダウン症と診断されると、母親はショックを受けるが
 それは後でも先でも同じだ、
 ただ告知がどういう態度で行われるかが
 そのあとの選択を左右するのではないか
 とサリーは感じたそうです
 
〇母親のためのカウンセリング機関
 次にサリーは、ダウン症の疑いがあると診断された母親に対し
 NHSが紹介するカウンセリング機関ARCをたずねていました。

 代表の方によると、
 小規模の施設なので、フルタイムのカウンセラーは4人しかいない
 ダウン症について最新の情報に精通しているとも言えない、とのこと
 
 「私がダウン症の可能性があると診断された妊婦さんとして、
  子供の教育について不安がある、と相談したらなんと答えますか」
 「私たちは大丈夫とは言いません、
  どんな不安がありますか、その不安を受け止められますかと聞きます。
  もしくは、中絶するつもりはありますか、とたずねます…」
 「ちょっと待って、話が飛躍していますよね。
  私は子供の教育について尋ねただけなのに、
  いきなり中絶の話になるんですか」

 代表の方は、ダウン症の人たちの権利を守る人の活動は理解している、といったうえで
 「母親たちが不安に思うのは、子供の能力や病気へのリスクなどが推定できないこと。
  それに対して対処できない、したくないと考える人もいます、
  その現実に対し目を背けるわけにはいかないんです」
 と話していました。

国もカウンセリング機関も、
なんだか「ダウン症を早期発見して取り除く」方向に行ってるみたい…
しかし彼らは、
「それは母親たちが望むから」
と言っている。
では当の母親たちは何を考えているのか?
サリーは、中絶を実際に選んだ母親を訪ねました。

〇中絶を選んだ女性の話
 この女性は今、次の子どもを妊娠中。

 彼女は
 「中絶したのは、赤ちゃんにとっていい選択だと思ったからだ」
 と話していました。

 実際の中絶法は聞いていてつらかったんですが、
 最初に胎盤を壊す薬を自分で飲み、
 その次に医者が注射をして、胎児の心臓を止める。
 それまで動いていると感じていた心臓が、ぱったり止まってしまうのだそうです。

 「決断するまでに十分な情報は得られたと思いますか」
 その女性は、医者の説明、専門データよりも、
 日常の生活を知りたかったと言います。
 そこで自分で体験者のブログなどを探して読み、それが彼女に中絶を決意させたのだそう。

 「ある人のブログでは、5歳まで歩けないから重たい、
  歩いてもそこらで大声を出して大変
 とあり、そういう苦労は自分には背負えない、と思った」

 しかし彼女はもっと意外なことを話していました。
 「実は、ブログでは苦労より前向きな話の方が多かったんです。
  でも私はむしろそういう記事を読んで中絶を決意しました」

 ダウン症の人が成功するには、
 人の何倍も努力しないといけない、
 自分の子供にはそこまで苦労させたくない、と感じたとのこと

 サリーはパラリンピックに出ている方の動画を見せて
 「この人も生まれなければよかったと思っていますか」
 とちょっときつい質問をしましたが
 「いいえ、それは考え方の違いに過ぎません
  もちろん彼女は素晴らしい。
  彼女は人生を楽しみ、目標を達成しています。
  考え方は親によって違うし、何がいいとは思わない。
  でも私は親として、子供に同じ苦労をさせたくない、というだけです」
 
 サリーは、選択することの価値とはなんなのか、と考えたそうです

 もし自分が出生前検査を受けていたら、
 産むことを選択していたか自信がない。

 でも実際は、何も知らずに自分がオリーくんを産んだことで、
 今素晴らしい経験が得られている
 そう考えると、選択できるのは本当にいいことなのかと考えてしまう、とのこと
 
検査を進歩させた科学の功罪とは…
と考えたサリーはアメリカに飛びました。

〇自分の息子の遺伝子検査をした科学者
 次にサリーが訪ねたのはカリフォルニア。
 ここでは自分の息子が胎児のとき
 遺伝子検査をして話題になった科学者ラジーブ・カーンさんがいました。
 自宅のパソコンで2週間かけてしたそうだ。

 彼はそのことでいろんな非難、論争を受けたそうですが
 「でも10年後にはこういう検査は当たり前になっているはず、僕は時代を先取りしただけ」
 と話していました。
 
 サリーは
 「ダウン症の子は最悪だ、という人もいるが、私はそうは思わない」
 というと、
 カーン氏は
 「でもそれはあなたの意見ですよね。誰しもそうではない。
  ダウン症を排除するかはその人の意見に過ぎない。
  科学は事実を告げるだけで、倫理とは別」
 と話していました。

 彼はかなりロジカル、割りきりが強い方ですね…

 そこで彼女は遺伝学の権威ジョージ・チャーチ氏に、科学の倫理について迫りました
 ボストンのハーバード大で

 「出生前診断が進んでいるが、これから私たちは倫理観をどう作っていけばいいのでしょう?」
 彼は
 「倫理観とは時代により変わるもの」
 としたうえで
 「今出生前検査が進んでいるのは、親がそれを望むからです。
  もしダウン症の家庭が幸福だ、という事実がメディアに頻繁に出れば
  そういう人たちは増えるかもしれない。
  でも現実はそうではない。
  子供自身が遺伝子を操作できるようになっても、
  自らダウン症を選ぶ人はいないでしょうから」

 「では、私たちはこれから、どうすればいいのか」
 「教育がカギでしょう」
  問題は科学の進歩ではなく、
  社会的な圧力や市場の競争にある。
  ダウン症の人たちも価値のある社会の一員、と
  認知させることだ、と話していました。

〇ダウン症の尊さを発している女性カレン・カウニーさん
 カウニーさんはダウン症で、いろんなところで講演活動をされているそうです
 お母さんとインタビューに答えてくれましたが
 お母さんの
 「人類は一つの大きな織物で、私たちはそれを紡ぐ糸
  紡ぐ糸はどれ一つとして切り離すことはできない、
  それに気づくべきです」
 という言葉が印象的でした。

 サリーは
 「ダウン症の人も社会の大切な一員」
 を表現するため、
 最後にダウン症の人たちを集めてフラッシュモブをして締め括っていました。

○感想など
 なかなか難しい問題だなと思います。
 以前新聞だかテレビだかで
 日本でも胎児のエコーで色々先天性疾患が分かるようになり、
 母親が産むかどうかを決断しなくてはいけない時代になってきた…
 という問題が取り上げられていて
 色々分かるというのもいいのか悪いのか分からないなと思いました。
 だって知ったうえで選択するのは重過ぎる…

 たぶん「先天性疾患の疑いがあります」
 と言われたら、中絶したお母さんが言うように
 「わが子には苦労を背負わせたくない」
 と思うのは自然のことだと思う。
 検査を受けて、リスクを承知であえて産む人ってのは少ないだろうと思う。
 でもせっかくお腹に宿った子を自らあやめるなんてしたくない…

 そこまで迷わなきゃいけないなら、
 もう最初から検査を受けないほうがましだなあとも思う。

 イギリスは国や医療機関が検査を受けるように誘導しているそうですが
 そこまで考慮しているのだろうか。
 「ダウン症の子は重度の障害」と認定し
 直前でも中絶を容認する、とまで言うということは
 実質的にはけっこう露骨に排除を誘導してるんじゃないかと思ってしまいました。
 医者の告知の態度、中絶や転院を進める様子には、余計そう感じてしまう。
 
 日本の場合は、検査を受ける要件が厳しいようで
 35歳以上で、かつ遺伝子疾患の子を産んだ経験がある人、
 など規定が細かく決まっているようなのでまだいいのかも…とすら思ってしまう。

 本当に排除するつもりがないのなら
 検査を受けない権利、というのも尊重されるべきだと思います。
 でないと、結果を知った時に選択しなきゃいけない女性の負担が大きすぎる。
 
 また、
  遺伝学の権威の
 「教育がカギ、
  ダウン症の人も大事な社会の一員だと世の中が認識しなければいけない」
 カウニーさんの母親の
 「私たちは一つの織物、どの糸も切り離すことはできない」
 という言葉は本当にそうだと思う。
 
 ダウン症を産む際に選別したところで
 世の中には別の病気もあるし、
 事故などで障害を持つ可能性は誰だってある。

 そう思うと、
 障害者をはじめとして、
 いろんな人がみんな大事な一員だと考えていく方が
 お互い住みやすい社会になるんじゃないかな、と思います。
いろいろ考えさせられました。
 というわけで、今回はこのへんで。

 

 



 

 
 
posted by Amago at 12:02| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする