2017年10月02日

NHKスペシャル「シリーズ人体 第1集 腎臓が寿命を決める」

NHKスペシャル「シリーズ人体 第1集 腎臓が寿命を決める」

 NHKスペシャルの新シリーズです。
 今までの医学の常識は
 「脳が臓器への指令を出している」でしたが、
 最近の医学では
 「臓器同士がネットワークを作り、対等に会話している」
 なのだそうです

 それを伝えるシリーズですが、
 第1集は腎臓。
 腎臓は、このネットワークの要となる臓器だそうです。
 今回も映像がきれいでした。特に腎臓の内部までCGで再現しています。
 ただ寿命だけの話ではなかったので、
 副題は若干ずれているような気もするが…

 司会はタモリさんと山中伸弥氏、
 ゲストは石原さとみさん、北島康介さんでした。

 タモリさん、北島さんは
 「腎臓って地味なイメージがありますねぇ」
 石原さんは
 「でもデトックスって言うから大事なのかも」
 というご意見でした

○高地トレーニング
 最初に紹介されたのは、水泳の高地トレーニング。
 腎臓と何の関係があるんかな?と思うのですが…
 場所は標高2100mのところにあるアメリカのフラッグスタッフという所でした。

 日本の水泳のトップ選手の強化合宿に使うところでもあり、
 前回のリオオリンピック金メダリストの金藤理恵選手は
 「大事な試合の前には必ずここに来る」
 と話していました

 金藤選手や、東海大の水泳選手たちに協力していただき、
 泳いだあとの体の酸素飽和度を測定していました
 (指先にクリップみたいなものを挟んで測定していました)

 通常は96~99%くらいあるそうですが
 高地に来たばかりの時は酸素飽和度は88%、89%
 つまり酸欠状態なのだそうです。
 しかし、2週間トレーニングしたあと計ると96~97%になる

 これは何の変化によるのか?

 実は、これは腎臓がメッセージ物質(EPO)を出すことによるものなのだそう
 これは「酸素が欲しい」という腎臓のメッセージ

 EPOが血管を通じ、
 骨の中にある骨髄(血液を作るところ)
 に至ると、赤血球を増産する
 こうして酸素をたくさん運べるようになる

 金藤選手の赤血球を測定したところ
 リオオリンピックの時は、赤血球の血中の割合がピークだったそうです
 高地トレーニングはマラソンなどでも使われますが、
 心臓が強くなるんかと思ってたけど、腎臓だったんですね…

 山中氏によると
 「EPOは日常生活でも出ていて、
  例えば私の母は慢性腎于炎で亡くなりましたが、
  腎臓の働きが悪くなると貧血になってしまう」とのこと

 また、最近の研究では、
 腎臓は全身の血液を管理している、ということが分かってきたそうです

 この役割は非常に重要らしい。
 というのは、
 「脳が臓器に指令を与える」のではなく
 「臓器どうしが直接会話しあう」ことが最近分かってきたらしいのですが
 この会話を仲介するのが血液であり、
 血液が流れる血管はネットワーク網のようなものなのだそうです

 これを管理するのが腎臓で、
 腎臓には全身の中でも血管がびっしり集まっています

 次に、腎臓が体を健康に保つために重要な役割を果たす、という例がいくつか示されています
 
○高血圧の原因が腎臓にある?
 腎臓は高血圧にも関係があるらしい。
 ドイツのライプチヒ心臓センターを訪ねています

 取材していた患者さんは重度の高血圧で
 高血圧の薬を何種類も飲んでも、血圧が下がらない
 (上は薬を飲んでも200越えるそうです)
 他の病院では「治る見込みなし」と言われたらしい

 そこで彼は手術を受けるが、
 担当するのはなんと心臓専門医。
 カテーテルみたいなのを足の付け根の血管から入れて、
 腎臓の神経を焼くのだそうです
 「腎デナベーション手術」

 これで何が治るかというと
 レニンという物質の放出を防げるのだそうです
 レニンは「血圧を上げよう」というメッセージ
 高血圧の人は、このレニンが出すぎているのだそうです

  手術を受けた患者さんは、血圧の上が100代、下は50代に下がっていました
 手術を担当した心臓専門医は
 「腎臓は尿を作るだけ、と思うのは大間違い、血圧のコントロールにも重要な役割を果たしている」とのことでした

 (この手術については
 http://www.twmu.ac.jp/TWMU/Medicine/RinshoKouza/021/medical/rdn_medical.html
 (東京女子医科大のホームページ)
 に詳しく書いてありました。
 ざっくりいうと、高血圧は交感神経が働きすぎるのが原因らしく、
 この手術では脳から腎臓への指令を出す交感神経と
 腎臓から脳へシグナルを送る交感神経両方を焼き切ってしまうのだそうです
 この大学を含め、日本では11施設で治験も行っているみたいです

 しかし、水を差すようでなんですが
 この治療法の治験を行っているアメリカのMedtronic社は2014年、
 治験をいったん中断する、
 という発表をしています
 
 http://www.medtronic.com/content/dam/Medtronic/japan/newsroom/documents/2014-4-1.pdf
 (Medtronic社の治験の結果のプレスリリース)
 によれば、535名、87施設で実施された治験
 (デナベーションした人を治療群、カテーテルを入れただけの人をコントロールとし、
  手術を担当した医師も受けた患者もどちらをしたか分からない条件で実施したところ、
  どちらも血圧が下がった。
  デナベーション群の下がり方が有意に大きいわけではなかった、という結果らしい)

 ただし、安全性には問題がなかったし、
 血圧は下がっているので、全然効果がないわけでもなさそう。
 ですので、日本の医療機関で現在も行っているかどうかは、直接確認したほうが良さそうです)

○腎臓は尿だけでなく、血液も作る
 山中氏によると
 「心臓の血液の1/4は腎臓に行く、腎臓は血液の管理者」

 そして腎臓は、血液中の成分の調整もするそうです
 例えばカルシウムCa、マグネシウムMg、カリウムK、リンP、水素イオンH+、尿酸など
 腎臓が悪くなるとバナナ(カリウムが豊富)も食べられなくなるのだとか

 この血液の成分調整は、尿を作る過程で同時に行われるそうで
 その様子を顕微鏡、生体撮影、CGなどを駆使して再現していました

 最初に出てきたのは3D電子顕微鏡で撮影された腎臓の写真。
 丸いものが盛り上がっているように見えるのがとてもリアル。

 腎臓の断面を見ると、管のようなものがぎっしりあり
 その中に直径0.2ミリほどの丸いものがありました

 これは糸球体(しきゅうたい)といい、血管の塊。
 尿をこしだす働きをするもので
 1つの腎臓に100万個あるそうです

 CGで腎臓の血液の流れの中に入ったらどうなるか…が再現されていました
 (これはホームページからでも見られます)
 血液と共に血管の中を進むと
 血液には赤血球、白血球などのほかに老廃物や体に必要なミネラルなどが含まれている

 やがて壁が穴だらけの所にたどり着くが、これが糸球体
 この穴は赤血球など大きいものは通れず、老廃物とミネラルだけこの穴から出ていく
 残った血液は血管に入り腎臓から出ていく

 こしだされた老廃物などは尿となるが、
 まだ体に必要なミネラルなどは残っているのでこれは原尿と呼ばれる

 原尿は尿細管に行くが
 尿細管の内側には微絨毛が生えている
 この微絨毛の表面には細かいポンプ付きの穴があり
 ポンプごとに吸収するものが違う
 こうして吸収された物質は再び血管に戻される

 尿細管の周辺を生体イメージング顕微鏡で実際に撮影したものを見ると、
 (顕微鏡といっても動画状態です)
 血管がびっしり張り巡らされている様子、
 その中を赤く光った血液が流れている様子がはっきり見えました

○腎臓が吸収する成分は他の臓器との会話で決めている
 スタジオで、模式的に尿の流れを見ていました
 糸球体から尿細管が出ていて、これは膀胱につながっている
 尿細管は、微絨毛を挟んで血管と隣接している

 尿細管に原尿が流れると、
 微絨毛はフィルターみたいに必要物質をこしだし、血管に入れていく
 原尿から必要物質を除いた残りの液体が膀胱に運ばれ、おしっことなって出ていくらしい

 「じゃあ、腎臓が血液の成分を調整しているんですね」
 という質問もありましたが
 山中氏の解説によると
 「腎臓だけが判断しているんじゃなくて、
  他の臓器の会話を聞いて、量を判断しているんです」

 腎臓には心臓だけではなく、
 甲状腺、骨、脳、腸、胃、肝臓、副甲状腺など
 いろんな臓器からのメッセージを受け取って、
 総合的に判断しているそうです
 「どんな小さい臓器からのメッセージも、分け隔てなく聞いています」

 ちなみに1日に出す尿は1リットルなのだそうですが、
 腎臓で作られる原尿は1日180リットルもあるらしい。
 それだけ腎臓が忙しく働いているそうです

○寿命の鍵を握る腎臓
 次は腎臓が寿命を左右する、というお話です。
 普通、動物は体が大きいほど寿命が長いが、
 人間などは体の大きさのわりに例外的に長いそうです

 その原因となる物質はリンなのだそう
 血液中のリンが少ないほど長生きすることが分かっているそうです

 リンは肉や骨などに含まれ、
 不足すると呼吸不全、心不全、骨軟化症、くる病などを起こすが
 多すぎると老化が進む

 腎臓、リンと老化の関係は、日本人研究者がたまたま見つけたそうです
 遺伝子操作マウスの中に寿命が極端に短いマウスがいて、
 その遺伝子を調べたら腎臓の遺伝子が壊れ、
 リンが調節できなくなっていたのだそう

 普通のマウスは2年半生きるが、
 このマウスは2ヶ月半しか生きられない
 血液中のリンの濃度は、
 普通のマウスが7.8mg/dlなのに対し、このマウスは14mg/dlだったそう

 山中氏の解説によると
 骨から「リン足りてますよ」というメッセージが届くと
 腎臓は「リンあんまり吸収せんとこ」と、リンの取りすぎを抑える働きをするそうです

 また、リンが老化を促進するメカニズムは分かっていないが
 リンが多すぎると、
 骨がカスカスになって骨粗鬆症を起こしたり
 血管を石灰化させ、血液をドロドロにして動脈硬化を起こすことが分かっているそうです

 (ちなみにリンって何に入ってるんかなぁ、と思ったんですが
 http://www.skincare-univ.com/article/017325/
 (「ヘルスケア大学」の「リンを多く含む食品とは」のページ)
 によると、魚介類や肉など、動物性食品に多いらしいです

 しかし特筆すべきは
 「食生活が外食や加工食品に偏ってしまうと、リンの過剰摂取を招く恐れがあります。」
 という一文。

 ソーセージハム、缶詰、調味料、インスタントラーメンなどに含まれる、
 「リン酸塩」という商品添加物を取りすぎてしまう方が心配らしい。

 出来合いのものをなるべく減らし、野菜、果物、肉をバランスよく取るのが大事みたいですね)

○入院患者の腎臓をモニターして死亡を防ぐ取り組み
 次に、腎臓をモニターすることで、
 入院患者の突然死を防ぐ試みが紹介されていました

 この取り組みをしているのはイギリスのワージング病院。
 この病院には、すべての患者に腎臓をモニターする設備が備えられている
 いわば心拍をモニターするのと同じ扱いで患者の腎臓をモニターしており、
 腎臓の機能不全(AKI)が起きると、アラームが鳴るようになっている

 というのは、患者さんにAKIが起きると、多臓器不全を起こし
 ひどいときには死に至ってしまうこともあるそうです
 そして、このAKIは、腎臓と関係ない場所の病気でも起こりうるのだそう
 「入院患者の5人に1人がAKI」という研究結果があるらしい

 これはなぜか?
 腎臓は、ほかの臓器の病気から影響を受け、ダウンしてしまうのだそうです
 そうなると全身の血液管理ができなくなるため、全身がやられてしまう
 「今までにも、腎臓を管理すれば救えた命があったかもしれない」そうです

 では、腎臓がダウンしたらどうすればいいのか?
 実際にAKIのアラームが鳴った女性患者がいましたが
 医師は「薬をいったんやめましょう」
 腎臓は、人体の中でも一番薬にさらされるため、
 弱っているときに薬を使うと、余計負担になってしまうらしい
 この女性患者も、薬をいったん中止、腎臓の回復を待って再び投薬する処置をしたところ、
 無事退院できたそうです

 医師によると
 「腎臓は一度やられてしまうと、取り返しがつかない。
  患者の腎臓に目を配り、いち早く腎臓を救う手立てを考えることが大事」
 そこに思い至ったことは大きなことだ、と話していました

 日本でも、京大の医学部付属病院では、
 腎臓専門医も加わり、投薬量などを調整する試みがなされているそうです

 石原さんはこのVTRを見て
 「私すぐ薬飲んじゃうんですけど、腎臓には負担なんですね」
 山中氏は
 「腎臓に負担を与えないためにも、余分な薬は絶対に飲まない方がいいですね。
  もちろん、必要な時は医師の処方に従って飲んでください」とのことです

〇まとめ
 最初「腎臓地味じゃない?」派だった北島さんもタモリさんも
 途中からは「腎臓大事だね~」となっていました(笑)
 北島さんは
 「新しい衝撃でした、知らないことがこんなにもあったんですね。
  アスリートって外側は鍛えるけど、
  内側で起きていることを見るのも大事ですね」
 タモリさんは
 「胃に優しい、とは聞くけど腎臓に優しい、とは言わないよねえ…」
 山中氏は
 「胃は悲鳴を上げるんですけど、腎臓は我慢強いんですね」
 
 肝臓は沈黙の臓器、というけど、腎臓にも感謝しないといけないですね。
 腎臓は精緻な構造を持つがゆえに、傷つきやすい臓器でもある…
 というナレーションで締めくくられていました

〇感想など
・腎臓は断面写真は見たことあるけど、立体画像は多分初めてです。
 糸球体が盛り上がっている様子も立体的に見えて、すごいなーと思ってしまった。
 ホームページのバーチャルリアリティーも楽しかったです。

・高血圧の腎デナベーション手術は神経を焼ききるだけだが、
 レニン自体をどうやって減らしているのかな?と思いました。

 レニンで興奮しちゃってる神経が、さらにレニンの分泌を増やす…みたいなフィードバック的なレニンの増やし方をしていて、そこを防ぐということなのかな?

・腎デナベーションの治験は中止しているみたいですが、
 血圧は下がっているから効果はあるのかもと思います。

 話が逸れてしまうかもしれないですが、
 以前BSのドキュメンタリーで「プラセーボ効果」の話があり(「プラシーボ~ニセ薬のホントの話」2014年イギリス)
 手術のプラセーボ効果てのもあると紹介されていました
 (記憶が曖昧ですが
 脊椎骨折患者にセメントを注入する外科手術で、
 医者も本当のセメントを入れたかプラセーボか分からないランダムな手術をしたとき
 プラセーボを注入しても治ってしまった、という結果らしい
 「お医者さんが手術してくれた」という気持ちで治ってしまうのだそうです。

 Medtronic社も施術した医者自身もデナベーションしたか分からないようなランダムな条件なので、
 コントロール群でも血圧が下がったのは、手術したプラセーボ効果なのかなと。
 有意な差にならなかったのはそのせいかも、とも思いました。

 まぁでもどちらにしろ
 外科手術だけで習慣を変えないと、またレニンとかたまって再発しそう…
 やはり食や運動など、習慣も変えることが大事なのでは、と思います。

・入院中の腎臓モニターについては
 他の病院にも広まって欲しいと思います。

 私の父親も入院中、多臓器不全を起こして亡くなっているので
 こんなシステムがあれば助かったんかなぁ…とか考えてしまった。

腎臓は大事にしよう。。

というわけで今回はこの辺で。


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NHKスペシャル シリーズ 人体 プロローグ「神秘の巨大ネットワーク」

NHKスペシャル シリーズ 人体 プロローグ「神秘の巨大ネットワーク」

 昔、NHKスペシャルでやっていた名シリーズ
 「驚異の小宇宙 人体」
 の最新バージョン?みたいなシリーズだそうです。

 前回のシリーズをしていたのは私がまだ学生の頃…
 理科の授業でも使われていたような、いないような。
 再放送も何回かされていたのかな、
 当時私の付き合ってた人が録画して熱心に見てた記憶があります。
 当時はビデオテープだったねえ。
 私は当時、あんまり体の仕組みとかには興味がなく、ふーん、て感じだったんですが
 あのとき司会してたのはタモリさんだったんですね~。

 今回はそのタモリさんと、iPS細胞の権威である山中伸弥教授が司会だそうです。
 (ちなみに山中氏は、前回のシリーズ時大学院生だったそうです)
 どちらの方も私は好きなので楽しみにしていました(笑)
 実際、見ていて穏やかな進行で解説も分かりやすく、全シリーズ期待できそう♪

 さて今回のシリーズは副題が
 「神秘の巨大ネットワーク」となっています

 今までの医学では、
 脳が全部の臓器に指令を出す、みたいな考え方でしたが
 実は臓器同士がネットワークを作り、対等に会話している、
 ということが分かってきたそうです。
 今回のシリーズでは
 それぞれの臓器について、どんなネットワークが作られているのか
 最新の科学を紹介してくださるとのこと。

 プロローグではそれらの解明をを可能にした技術や、
 どんな臓器同士のネットワークができているかの紹介でした

 今回のゲストは石原さとみさん、博多大吉さん。
 28年前のシリーズもそうなんですけど、NHKのCGの細かさにはビックリでした。
 本題になってないところも正確に再現してるんだろうな。
 ぜひぜひ映像でご覧になることをお勧めします。

○進化した顕微鏡技術
 最初は、これらの研究を可能にした顕微鏡の話から。
 アメリカのハワード・ヒューズ医学研究所には画期的な顕微鏡があり、
 この開発をしたエリック・ベツィグ氏は、2014年のノーベル賞を受賞されたほどなんだそうです
 (受賞理由は「超高解像度の蛍光顕微鏡の開発」だそうです)

 この顕微鏡は「光子格シート顕微鏡」といい
 ミクロの細胞をスキャンし、
 三次元的に再現してくれるものらしい

 実際見せてもらうとこれがすごい。
 免疫細胞の表面の凸凹や、
 免疫細胞がガン細胞をあぐっと食べる様子がリアルにわかる。
 しかも中身も透けて見えるそうで
 免疫細胞が攻撃物質を放射する様子も分かる。
 CGじゃないの?と思ってしまうくらいでした。

 また、自治医科大学では、8Kカメラを取り付けた顕微鏡、てのもあるそうです
 これで見ると、従来よりも鮮明に、
 しかも広い範囲を1度に見られる(今までの16倍)
 血管の様子を見てみると、血管の中に血栓が流れ、
 途中で詰まっていく様子もありありと分かりました
 (今までだと、接近しすぎて何がなんだかわからない)
 これだと「遠くに離れた臓器どうしの関連性が分かりやすい」のだそうです

 それらの技術で分かったものの一例として
 腸がシグナル物質を放出する瞬間の映像がありました
 見ると、絨毛の細胞(大きさ1/100㎜くらい)のうち一つが突然バーンとはじけ、
 中から細かい粒子が広がる様子が見える。
 この粒子がシグナル物質(大きさ1/10万㎜くらい)だそうです

 山中氏の解説によると
 これは「ご飯が来たぞー」という腸からのシグナルで
 脳、膵臓、胃などに伝わるのだそうです。

○心臓のシグナルANP
 今までは、こういうシグナル物質、つまりホルモンは
 脳など特定の臓器でしか放出されていない、と考えられていたそうです

 しかし最近では、それが色んな臓器で出され、
 お互いメッセージをやり取りしていることが分かってきた

 それを最初に発見されたのが
 国立循環器病研究センターの寒川賢治氏だそうです

 それまで、脳にはホルモンを入れたカプセルみたいなのがある、と分かっていたが、
 彼は心臓を顕微鏡で観察したとき、脳と同じようなものが心臓にもあることに気づいた
 そこでその働きを調べると、
 血圧が上昇するしたとき、そのカプセルが開けられ、
 中からホルモン(ANP)が放出されることが分かった
 「疲れた、しんどい…」
 という心臓の呟きらしい

 このANPは腎臓で受けとめられ、
 腎臓は尿の量を増やし、水分を体内から排出して血液量を減らすそうです
 心臓のメッセージを受けた腎臓が「おしっこを出そう」と反応しているとのこと

〇ガンの転移を防ぐANP
 このANPは、最近ガン治療にも役立つことが分かってきたそうです。
 ガンの切除手術の最中にANPを投与すると、
 手術2年後の生存率が上がる(67%→91%)という結果があるそうです
 (国立循環器病センターの研究による)

 これはなぜか?
 ANPは、血管細胞が受け取ると
 「血管を治そう」と、傷んだ壁を再生する働きが生まれるのだそうです
 (心臓くんが「疲れたー」というので「じゃあ負担を減らそう」となるらしい)

 一方、ガンの転移は、血液中に逃げ込んだガン細胞の破片が
 血管の傷んだところからほかの臓器に入り込むことで起こる
 このため、ANPを投与すれば、ガン細胞をシャットアウトできるのだそうです

○スタジオでの解説
 シグナル物質は、いろんな臓器から出され、やり取りされている
 今まで分かっているシグナル物質は百種類以上あるのだそう

 この臓器の呟きと他臓器の反応を分かりやすく示すために
 「タモリさんの人体呟きマシーン」
 なる人形が置かれていました

 人形っていっても、レゴブロックみたいなパーツで組み立てられている。
 外側もリアルにタモリさんなのですが
 内側の臓器もリアルに再現、大きいせいもあってちょっとコワイ(笑)
 (全部で3万ピース、製作に2ヶ月かかったそうです…NHKやるな~)

 しかもレゴ組みたててあるだけじゃなくて、
 ブロックを一個取り出し、コンピューターと接続された台の上に置くと
 その細胞の呟きが分かるようになっている。

 例えば心臓のブロックひとつを置くと
 接続したコンピューターの画面に
 Lineみたいな感じで、心臓の絵と「疲れたばい」の吹き出しが出る
 するとLineの会話みたいに、腎臓の絵と「おしっこするばい」の吹き出し。
 (ちなみに、タモリさん福岡の方なので博多弁らしい。無駄に芸が細かい…(笑)
 でも山中氏は「科学的には間違ってます」(笑)
 しかもタモリさんは「博多弁おかしいよ」(笑))

 腸のパーツを置くと
 「みんなー、飯がやって来たばい!」の吹き出し。
 脂肪細胞「栄養溜め込むばい」
 膵臓「糖分も吸収せんと」
 脳「満たされてきた~」
 これは、腸から出るインクレチンというホルモンの働きのことで、
 糖や脂肪を吸収したり、脳がお腹一杯に感じる働きがあるんだそう

 肝臓のパーツを置くと
 「こげんたくさんいらん!」と少々キレ気味(笑)
 そして「鉄が…」と謎の言葉。
 腸が「申し訳ない…ほどほどが大事やね」
 これは山中氏によると
 肝臓は普段から色々働かされているので、お酒があるとさらに負担になる
 また、鉄分が多すぎると肝臓ガンの原因となるので
 あんまり吸収しないで、というメッセージらしい
 これはなんか分かりにくいけど(笑)

 石原さんが
 「私の耳にも聞こえて欲しいな。だって気を付けられるでしょう」
 タモリさん
 「多分うるさいと思うよ」(笑)
 実際すべての呟きを流すと、あっちこっちからガヤガヤうるさい。
 山中氏「聞こえない方がいいですね」(笑)

○ガン細胞が出すシグナルをガンの発見に利用する試み
 次に紹介されていたのは、この細胞から発するシグナルを利用して、
 ガンを検出するシステムを開発する、というお話でした
 実現すれば、血液1滴から13種類のガンを一度に早期発見でき、
 しかも精度は95%以上なのだそう。

 利用するのは、ガン細胞から放出される「エクソソーム」という物質
 これはガンが体に広まるための武器なんだそう
 臓器が発するシグナル物質をまねて、ガン細胞が作っているのだそうだ

 例えば乳ガンの場合、普通はガン細胞は脳のバリアに阻まれて入れない
 しかし、ガン細胞からこのエクソソームを隠し持つカプセルが放出され、
 これが脳細胞まで行くと、
 ウィルスメールみたいに、本物の体の物質になりすまして入り込んでしまう
 脳細胞がそれとは知らずに開封してしまうと
 「脳のバリアを緩めて」
 という偽のメッセージが入っている
 するとバリアが緩み、ガンの転移を許してしまう

 前立腺がん、膵臓ガンなど
 ガンによりこのエクソソームは違うらしく
 これらを全て検出できれば
 早期にガンを発見できるのだそうです。
 この技術は、3年後の実用化を目指しているそうです

 山中氏は
 「今や2人に1人ガンになり
  3人に1人がガンで亡くなっている時代ですから、
  ガンの克服は本当に医学研究の課題ですね」
  この技術が進めば、その課題の解決に大きく貢献するだろう、とのことでした

 また、
 「体の病気は、メッセージが作られ過ぎる、
  あるいは間違って伝わることが多くの原因と考えられるので
  これらが解明されれば、もっと病気が治せるのでは」とのこと

○関節リウマチの治療
 次に紹介されたのは、関節リウマチの治療の話でした。

 この病気は国内だけでも70万人がかかっているそうです
 激しい痛みが起き、進行すると骨が変形していくそうです
 レントゲンを見ると、関節どうしの隙間がなくなり、骨と骨が接着してしまう
 これが痛みを起こすらしい

 近年の研究で、細胞間の間違ったメッセージのやり取りがこの病気を起こす、
 ということが分かってきたらしい

 具体的には、関節の中の免疫細胞が、
 間違ってTNFαという物質を放出するんだそうです
 これは「敵がいるぞ」という知らせで
 これにより免疫細胞は増殖し
 さらにTNFαが放出される

 しかし実は敵などいない
 免疫細胞は、関節の組織を勝手に敵だと思い込んでいるらしい

 しかしこれが続くと、免疫細胞は増え続ける
 増えた免疫細胞は、集まって破骨細胞となり、自分の骨を破壊してしまう

 この暴走を止める薬が開発されたそうです
 この薬は、TNFαにくっつき、働きをブロックする

 この病気に30年間悩んできた女性が紹介されていました
 小学生の時に発病し、いろんなことが制限される人生を送ってきたそうです
 子供ももうあきらめていた、とのこと

 しかし4年前からこの治療を受け、進行は収まっているそうです
 骨の写真を見ても、関節の隙間が回復している
 この薬のおかげで、お子さんも無事に授かることができたのだそう。

 研究者は「これはパラダイムシフトです」
 治療を受けた女性も
 「根治に近い治療法が発見されるのでは、という期待はありますね」
 と話していました

 スタジオでは山中氏が
 「実は私は、大学を出ていったんは整形外科医になろうとしたことがあって、
  そのとき初めて担当したのが関節リウマチの患者さんだったんです」
 という話をしていました

 その患者さんは、進行が早い患者こともあり、
 元気だったのに1年もたたないうちにみるみる進行してしまった
 その間医者として何もできなかった無力感が、
 その後研究の道に進む1つの動機になった、と話していました

 それだけに、
 「30年でここまで来るのは、医療関係者として嬉しい」と感慨深げでした
 そして、これらの研究に多くの日本人が関わっていることに誇りも感じるそうです

 最後に、今後の放送予定が書いてありました
 NHKのPRページにあったものが分かりやすいので転載させていただきますが
 <2017年>
 10月1日(日)後9:00 「“腎臓”が寿命を決める」
 11月5日(日)後9:00 「“脂肪と筋肉”の会話がメタボを治す」
 12月3日(日)後9:00 「発見!“骨”が若さを呼び覚ます」

 <2018年>
 1月7日(日)後9:15 「アレルギーの鍵は“腸”にあり」
 2月4日(日)後9:00 「徹底解剖!ひらめく“脳”の秘密」
 3月18日(日)後9:00 「生命誕生・あなたを生んだミクロの会話」
 3月25日(日)後9:00 「人体は謎に満ちている」

 録画してじっくり見たいと思います。

 ちなみに番組でも紹介があったんですが、
 ホームページでは人体の各臓器の内部の画像が見られます
 http://www.nhk.or.jp/kenko/jintai/
 (人体ウェブサイト)
 これは顕微鏡写真のサイト、各臓器をクリックすると詳しい画像が見られます。きれいですよ~
 ww.nhk.or.jp/vr/jintai/
 (NHKスペシャル「人体」VRアドベンチャー・ツアー)
 これは動画で、番組で紹介された臓器の中をバーチャルリアリティーで旅行できるサイト
 今は一回目の腎臓が終わっているので、腎臓の内部が旅できます。

〇感想など
 映像のすばらしさにとにかく感動しました。
 それから、スタジオでの小道具も細かい。さすがですね~
 
 プロローグというので単に番組の紹介かと思っていましたが
 しっかり最新の研究が紹介されているのが素晴らしいと思いました。
 
 エクソソームは昔分子生物学の本で見たような…
 http://www.tmghig.jp/J_TMIG/topics/topics_201704.html
 (東京都健康長寿医療センターの「エクソソームは細胞からのメッセージ!?」というページ)
 にわかりやすい絵で書いてありますが
 昔は
 「働きはよくわからんけど、細胞内に浮いてる顆粒」
 「そのうち小胞体に外に運ばれちゃう顆粒」
 という、老廃物かなんかみたいな扱いだったような気がします(私のイメージですけど(笑))
 しかし、それがガン検出に重要だ、となるとすれば
 生物学の教科書も変わるんかなあと思ったりしました。
 医学、生物学の進歩はすごいですね~

 それから、間接リウマチの治療については
 ほかの自己免疫疾患の治療にもつながりそうだと思いました。
 私の友人が、昔原因不明の皮膚病になり
 「自己免疫疾患」と診断されていましたけど
 治せないので対症療法しかなく、かゆみ止めの薬しかないとか言っていました。
 沢山の人が悩む花粉アレルギーも、根本的には治せない自己免疫疾患の一つでしょうし、
 こういう病気の原因が一つ一つ分かっていくといいなと思います。

 山中氏が番組で
 「30年前からずいぶん進歩はしたが、たぶん今の医学は100のうち10も分かっていない」
 とおっしゃっていましたが
 まだまだ分からないことが多い、というか
 分からないことはむしろ増えていくのかも…

 日本人の研究者が減っているとかいう話も聞きますが
 この番組で、研究を志す方が増えてくれるといいなと思います
 映像がとてもきれいで分かりやすいので
 若い人には見てほしい番組だと思いました。。
 (別にNHKの回し者ではありませんが(笑))

というわけで今回はこの辺で。




 
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2017年09月29日

NHKBSプレミアム「フランケンシュタインの誘惑 人を操る恐怖の脳チップ」

NHKBSプレミアム「フランケンシュタインの誘惑 人を操る恐怖の脳チップ」

今回は、脳チップで感情をコントロールしようとした
という科学者ホセ・デルガードのお話でした。

この方の脳研究は「他人をコントロールする技術」など、
色々と批判されたそうですが、
今なされている脳研究も一歩間違えれば、
というものがあるんじゃないさかな…

しかしそれでも、実際問題は人を操るのは難しいようで、
知れば知るほど脳は奥深いものだと思いました。

○ホセ・デルガードの人生に影響を与えたスペイン内戦
 まずはデルガードの生い立ちから。
 彼は1915年、スペインのロンダで生まれる
 お父さんは眼科医だったそうで、
 彼もマドリード大学医学部に入り、眼科医を目指す

 しかし1936年、彼が21歳の時にスペイン内戦が起きる
 これはフランコ将軍率いる軍によるクーデターで、
 デルガードは反フランコの共和国側で、軍医として参加した

 しかし1939年、フランコ側が勝利し、フランコによる独裁政権が始まる
 共和国側にいた人たちは強制収容所に入れられ、
 彼も炭鉱などで厳しい肉体労働を強いられた
 これはかなり辛かったようで、2回脱走を試みているそうです

 この強制労働の経験は、彼に大きな影響を与えたようです
 彼に2年間取材したジャーナリストによると
 「彼はインタビューの時、
  強制収容所の経験が自分に影響を与えた、と突然話し出した」そうです
 しかしどんな影響か、と具体的に聞こうとすると
 「科学のことではないので話したくない」
 と言ったそうです
 この経験は彼の心の傷になっていたのではないか、と話していました

 さて、彼は強制収容所から5年で解放され、
 1939年から脳の研究を始めたそうです
 人の残虐性はどこから生まれるのかを調べたかったのではないか、とのこと

 そのとき、彼は1920年代にスイスで行われた実験を知ったそうです
 ヴァルター・ヘスという科学者が行ったもので
 猫に電極を埋め込み、電気刺激を与えたところ、興奮や威嚇などのしぐさをした
 「感情は脳の働きで起こる」
 ことをはじめて示した実験だったそうです

 彼についての本を書いたライターによれば
 「当時は話をしたり、手足を動かす機能が脳にある、というのは分かっていたが
  感情を動かすのも脳だ、と分かったのは画期的だった」
 
 こうして、彼は脳を刺激する研究に取りつかれたらしい
 1946年、31歳の時アメリカに渡る
 エール大学で特別研究員になったそうです

 当時脳研究では、ロボトミー手術が全盛期だったそうです
 これは脳を切断する精神疾患の治療法ですが、
 この治療法で廃人になる人もいたのだそうです
 そこで彼は、脳を傷つけないよう、電極を埋め込んで治療できないか
 と考えたようです

○脳チップの発明
 ロードアイランド州には、デルガードの共同研究者の息子さんが住んでいます
 息子さんも神経心理学者で
 自宅にはデルガード作成の脳チップがあるんだそう

 見せてもらうと、アクリル製の四角い入れ物から、
 針金みたいな電極が2本ほど出ているもの
 この電極を、頭蓋骨に開けた穴から脳に差して使うのだそうです

 アクリル製の入れ物の中には機械があり
 リモコンから指令を受けて、電極から電流を流すようになっている
 「スティモシーバー」と名付けていたのだそうです
 stimulate(刺激する)とreceiver(受ける)を合わせた造語だそう

 息子さんによると
 「当時画期的だったのは、リモートコントロールができること」
 コードがないため、動物の脳などに取り付けても自由に動くことができる

 デルガードは、このスティモシーバーを動物の脳につけて実験をした
 すると、ボタンを一つ押すだけで、
 猫が勝手に片足をあげたり、
 サルがあくびをしたり、
 バナナを食べていたサルが食欲を急になくしたりした

 さらに彼はこのスティモシーバーを小型化し、
 人体実験にも使ったそうです
 被験者となったのは、統合失調症やてんかんの患者で、
 回復の見込みのない人たち

 1952年、彼らの頭骨にスティモシーバーを埋め込んだ
 運動部位を刺激すると、開いている手が勝手に閉じられる
 「「先生の電気刺激は、私の意志より強い」と被験者が言った」(彼の著書から引用)

 さらに、感情をつかさどるところを探すため、
 役割が分かっていない大脳辺縁系を刺激する実験もしたそうです
 ・穏やかにギターを弾く女性の偏桃体を刺激すると、
  ギターを投げつけ、怒りをあらわにした
  「2回連続で実験したが、2回とも同じ効果だった」(彼の著書より)
 ・控えめな女性の中隔を刺激すると、
  初めて会うセラピストに抱きつき、情熱的な謝意を述べる
  スイッチを切るとまた控えめな女性に戻った
 
 彼は、
 「脳への電気刺激により感情を操ることに成功した、
  この技術は精神疾患の治療にも大いに役立つだろう」と書いていたそうです
 しかし、ロボトミーが全盛だったため、誰も注目しなかった

〇スタジオでの解説
 スタジオの進行役は武内陶子アナ、
 解説は東京女子医科大 脳神経外科の平孝臣氏と
 総合研究大学院大学の池内了氏でした

 平氏は「よくここまでやったもんだ」
 動物実験までならまだわかるが、
 人体実験、しかも病気を治すのではなく、ただの実験だったのが恐ろしい、
 と話していました
 池内氏も「感情をコントロールするのは怖い」と話していました

 当時の脳研究はどのくらい進んでいたのか?
 平氏の解説によれば、
 当時は「ペンフィールドのマップ」というのが有名で
 脳のいろんな部位が、体の運動機能に対応していることは分かっていたそうです
 例えば脳の内側は足、外側は手、さらに外側は目、鼻、唇などを担当する
 これは多少の個人差はあるが
 (例えばピアニストは手の部分が広い、など)
 大まかにはどの人間も同じになっているそうです

 武内アナ
 「感情をつかさどる部分が脳にある、というのは知られていなかったんですか?」
 平氏
 「心の中枢は脳、という考え方はあったのですが、
  具体的にどの部位かが分かったのはこの時代です」

〇群れのボスをコントロールする実験
 次にデルガードは、集団の人間関係をこの電極刺激で変えられるか、を調べたそうです
 というのは、スペイン内戦後、フランコの独裁に苦しめられた彼は、
 独裁者の感情を大衆がコントロールできればいいのでは、と考えたらしい

 実験対象にしたのはサルの群れ
 サルの群れには、乱暴なボスザルのアリと、気が小さいエリサというサルがいた
 そこで彼は、アリの脳に電極を埋め込み、
 レバー1つでアリの尾状核に刺激を与えられるようにした
 このレバーをケージの中の壁に取り付け、
 エリサが自由にレバーを動かせるようにした

 すると、エリサはレバーを動かすとアリがおとなしくなることを学習し、
 アリが威嚇してくるたび、レバーを動かすようになったそうです

 しかし、この実験も注目されなかった
 というのは、この時代、ロボトミー手術への批判から、
 手術による精神疾患の治療自体が疑問視されるようになったのだそう

〇闘牛を使った大々的な実験
 そこで彼はみんなに脳チップへの興味を高めてもらうため、
 1963年、闘牛を対象にした公開実験を行い、そのビデオテープを自ら製作した

 ナレーションも脚本もすべて担当したそうで、そのテープでは
 「この実験は、遺伝子的に決められた闘牛の攻撃性を
  脳の電気刺激により抑制することを確かめるものである」
 とデルガード本人のナレーションがあり、
 映像では、闘牛がデルガードの方に突進してきても
 デルガードがリモコンのスイッチを入れると闘牛は向きをくるっと変え、
 全然違う方向を歩いていました
 この闘牛には尾状核を刺激するようにスティモシーバーが埋め込まれていたそうです

 神経心理学者の方によれば
 「あれは科学実験ではない、デモンストレーションだ」だそうですが、
 ニューヨークタイムズはこの実験を一面で扱い、
 狙い通り、彼は世界から注目を浴びることになる

 マスコミからの取材も受け、
 アメリカの海軍や空軍は、資金援助も申し出る
 彼は一躍脳刺激研究の第一人者となり、1969年に本も書いたそうです
 そこでは
 「脳神経を操作する科学技術は、いずれ精神を征服する
  より幸せで、より良い人生をつくるのだ」
 ということを書いているそうです

〇批判を受けるデルガード
 しかし、彼はやがて批判を浴びることになる
 彼の共同研究者が
 「この研究は、黒人の暴力的な傾向を抑えられる」という論文を書いたり
 別の研究者が
 「同性愛者の男性を娼婦とむりやり性交させ、
  その最中に中隔を刺激して性的嗜好を変える」実験をしたり
 (かなり過激ですねえ…)
 この研究は他人をコントロールするためのものだ、と批判されたそうです

 矢面に立たされたのが、第一人者のデルガード
 しかし彼は
 「ナイフは良いものでもなく、悪いものでもない
  手術者が手にすることもあれば、暗殺者が手にすることもあるが
  悪いのは知識そのものではない、悪用されるのを制限するべき」
 と話していたそうです

 彼を取材したジャーナリストは
 「彼には目指す理想の世界があったが、その世界に恐怖を感じる人もいた
  彼の技術は、政府やファシストや暴君により大衆がコントロールされることにつながる、
  と思われるようになった」
 しかし
 「彼は人間は改良できる、と主張し続けた」
 
 結果、デルガードはエール大学を辞職することになり、1974年スペインに帰る

〇スタジオでの解説
 池内氏によれば、これらの批判は
 「心というのは、本来自分だけのもの、と思われている
  それが暴かれることに、みんな抵抗があったんやろね」とのこと
 
 また、闘牛の実験については平氏も
 「これは科学実験ではないと思います」と言っていました
  科学実験であれば、尾状核にもっと正確に刺さなければならないし
  厳密にやるためにはもっと大掛かりな設備が必要

  また、尾状核の刺激で感情のコントロールができた、というのも怪しいらしい
  というのは、見ていると牛はうろうろしていただけで、
  あれは感情がコントロールされたというより、
  運動部位が刺激されたための動きではないか、とのこと

 ただ池内氏は
 「注目を浴びないとお金が援助されない、というのはあるからね」
 パフォーマンスの意味合いが大きかったようです。

 池内氏はさらに
 「闘牛にとって攻撃性は生きるために必要な能力で、
  それを否定するのは牛の存在を否定するようなものですよ。
  幸せや良さってのは人により違う」
 平氏も
 「人の幸せをワンパターンでとらえすぎ」
 つまり、人の幸せは人それぞれなのに、
 「感情をコントロールできたら、みんな幸せになるはず」
 という思い込みだけで実験を続けていた、とデルガードを批判していました
 まあ確かに、感情がない世界、って幸せなのかよくわからないですね…

 武内アナは
 「でもフランコの独裁を抑制できないか、という思いから始まっているんですよね」
 と聞きましたが
 池内氏は
 「独裁を無効化することはできるかもしれないけど、
  実際問題、誰が独裁者にあの電極取り付けるんか、っちゅう話があるわけですよ」
 (そこは私もつっこみたかったところです(笑))

 武内アナは
 「彼はでも本気で考えていたんですよね、精神的に文明化された社会、理想的な社会を作るんだ…と」
 池内氏は
 「彼は人間は完全にコントロールできる、そのことで満たされる、と考えていたんですね」
 
〇さらに批判を受けるデルガード
 彼は1974年、マドリード自治医科大学の教官を務める傍ら、
 脳刺激の研究を続けていたそうです
 
 そしてスティモシーバーの代わりに
 ヘルメットみたいなヘッドギアを考えたそうです
 皮膚の上から電子波パルスで脳に刺激を与えるもの
 これなら、脳に機械を埋め込む必要がなくなる

 彼についての本を書いたライターによれば
 「これはTMS(計頭蓋磁気刺激法)と同じ発想」
 電極を刺すよりも安全でリスクも少ない方法、と考えられたそうです

 そして彼は、この時期思いもよらないところで注目を浴びることになる
 冷戦のさなか、アメリカのCNNが1985年、化学兵器についてのドキュメンタリー番組を制作した

 これは「電磁気兵器とマインドコントロール」という番組で
 モスクワにあるアメリカ大使館に、
 「モスクワシグナル」
 という電磁波が、マインドコントロールのために流された、といううわさを紹介していた

 その中でデルガードは
 「電磁波は脳をコントロールする素晴らしい力」
 みたいなコメントをしていたらしい
 「外から電波を送ることで、脳の中を修正できる
  感性、知性、パーソナリティもコントロールできる」
 という話を嬉々としている姿が映し出されていた
 このため、彼の所に批判が殺到した

 (モスクワシグナルについては調べたのですが、
  なんせ噂なのでぼやっとしていました
  1955年だか60年だか70年代だか(サイトによっていろいろ)に、
  モスクワのアメリカ大使館に電磁波が出され、吐き気などを催し
  ガンを発症したとかいう事件だそうです

  ちなみにCNNの番組はテキストが
  https://web.archive.org/web/20080524002315/http://www.aa.alpha-net.ne.jp:80/stmore/From_CNNs_Special_Assignment_About_1985.htm
 にありました。
 なんか読みにくいんですが、デルガード氏はちょっと出ているだけです。
 よく見ればソ連には全く関りがないのは分かるんでしょうけど、
 当時の冷戦、ソ連への恐怖を考えたら、見てる人はそうはとらえないんだろうな。
 彼の技術をソ連が兵器に利用した、という流れで解釈されそうな編集のされ方でした)

 冷戦の最中、ソ連のマインドコントロールによる陰謀説が流れたが、
 その技術を最初に作った人、ということで批判されていたみたいです

 彼は1990年には脳刺激の研究から一線を退いたが
 「世間の理解が足りなかっただけだ」と言っていたそうです

〇スタジオでの解説
 平氏はドキュメンタリーのインタビューに答えた件については
 「また脚光を浴びたかったんでしょうね」とのこと

 武内アナが「実際マインドコントロールはできるんですか?」と聞くと
 平氏は
 「体調を悪くさせる、例えばめまいを起こさせる、などはできるかもしれないが、
  ある思想にするなど、決まった方向へのマインドコントロールは無理だと思う」
 とのことです
 
 武内アナが
 「デルガードは、ナイフは悪いものではない、と言っていましたが…」
 池内氏
 「科学には二面性はありますね。
  広がりすぎると危険性を帯びてくる技術もある、
  そういうものは前もって法律的に禁止する必要もあると思う」

 しかし平氏は
 「ただそれは難しい
  例えばPTSDの治療法で、記憶を消そうという試みもあるけど、
  記憶を勝手に消していいのか、マインドコントロールにつながらないか、という人もいるし
  苦しい経験も人格を作るのに必要だ、という人もいる」
 利益、害をどこで評価するか、
 その時は害と思っても、長い目で見ればそうでないかもしれない、という難しさがある

 池内氏は
 「これは答えがない、議論し続けるべきなんだろうね」とのことでした
 「同性愛の話もあったけど、人格や人間性を決める要素はいろいろある、
  倫理は時代によっても変化するから、議論し続けないといけない」

〇さらに進化する脳の電気刺激の技術
 批判にさらされた電気刺激の治療法だが、
 アメリカでは実用化されているのだそうです

 番組では、電極を脳に埋める手術を受けた男性を訪ねていました
 彼はニューヨーク市警の警察官だったが、32歳のときパーキンソン病を発病
 手術前の映像を見ると、手足が勝手に動いてしまっていました

 パーキンソン病では、脳から放出されるドーパミンというホルモンが不足し、
 手足を制御する部位が異常に活動してしまうのだそうです。
 そこで、電気刺激により、この部位をマヒさせる、という治療法が行われている
 彼の胸にはバッテリーが埋め込まれ、
 脳内に電気パルスを送っているそうです
 
 この手術は2002年、アメリカで治療法として認可され
 今まで外国人も含め、15万人がこの手術を受けているそうです
 
 また、去年ニューズウィーク誌には「サイボーグ兵士」という記事が載ったそうです
 これは、兵士の脳にチップを埋め込み、
 脳とコンピューターをつなげる、という試み
 アメリカのDARPA(国防省高等研究計画局)
 という組織が行っているそうです
 昔よりもチップは小型化し、性能も向上している、とのこと
 ただし、DARPAは否定しているそうです
 

〇スタジオでの解説
 平氏は、現代の脳チップを見せてくれました
 チップというと機械をイメージするが、針金みたいな細い棒でした
 これを脳の深いところに入れるのだそうです
 「体が勝手に動くことがなくなる。非常にいい治療法の一つです」

 軍事利用について聞かれると
 池内氏は
 「軍は当然、利用することを考えるだろう」
 DARPAは軍隊で使う新技術の研究をする組織だそうですが、
 平氏によれば
 「例えば、偏桃体を刺激すると、サルはヘビとかクモを怖がらなくなる、
  兵士から恐怖心を除く、という使い方が考えられる」
 たしかに、軍なら考えかねない。
 (実際のニューズウィーク誌記事は
 http://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2016/01/darpa.php
  に載せられていました
  ただしここでは
  「脳細胞の発信する電気信号や化学信号をコンピューターに伝達する」
  「チップを移植した人の脳に外からデジタル音声やデジタル映像を送る」
  と書かれているので、感情のコントロールに使う、というよりも
  必要で膨大な情報のやり取りを瞬時に行う、
  (つまり、兵士の持つ現場の情報を瞬時に伝えたり
   本部の作戦変更も現場にすぐ伝える、などの使い方ができそうだ)
  ということを目指しているようです)

 池内氏は
 「こういう技術は、ゆっくりやっていってもらいたい」とのこと
 脳は複雑系、とても繊細で、副作用の恐れもあるそうです
 平氏によれば、先ほど紹介していたパーキンソン病の電気刺激治療も問題になっていて
 「ギャンブル依存、買い物依存などを起こす人もいる」
 病気を治す代わりに、抑制が効かなくなる副作用も出ているそうです

 池内氏は、脳は一つの役割だけではない、
 ネットワークのもので、バランスを考える必要がある、と話していました
 一つが治ったからと安心せず、ほかの影響もみていかないといけない
 しかし、一切するなとも言えないのが難しい、とのこと
 平氏は
 「いつも問題意識をみんなで共有して、議論するのが大事」と話していました

〇デルガードの晩年
 デルガードは2005年、90歳にして再び渡米する
 この時期、脳の刺激による治療が注目されていたからだそう
 しかし、彼に興味を抱く人はもういなかった
 「若い人は私の研究を知らない」みたいなことを言っていたそうですが
 2011年、ロスアンゼルスで96年の生涯を終えたそうです
 
 脳チップにより、より幸せで、より良き人間を作ろうとした科学者…
 本当にそれは幸せを作ったのか、彼の幻だったのか…
 という言葉で締めくくられていました

〇感想など
・TMSについてはもう少し調べました
 うつ病治療の一つとして注目されているようで
 (ただし、日本ではまだ認可されていないそうですが)
 http://utu-yobo.com/tms.html
「うつ予防ナビ」
(ここでは、うつ病治療のためのTMSの方法が書かれており、
 日本で受けられるところも紹介しています)
 http://tokyo-mentalclinic.com/tms/%E7%A3%81%E6%B0%97%E5%88%BA%E6%BF%80%E6%B2%BB%E7%99%82%EF%BC%88tms%EF%BC%89%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A1/
(磁気刺激治療(TMS)治療の特徴とメリット・デメリット」というサイト)
などに詳しく書かれていました

 TMSはTranscranial Magnetic Stimulation、といい
 うつ病では、背外側前頭前野、というところを刺激するそうです
 この部位は意欲ややる気、興味などを司どり、
 不安、恐怖などの感情に関わる偏桃体のバランスも整える働きがある
 このバランスが崩れた状態がうつ病なので
 ここを刺激するといい、ということが分かっているそうです

 長所としては
 ・薬物療法で効かない人にも効果が期待できる
 ・副作用がない
 ・麻酔薬などは必要がない
 ・再発率が少ない

 短所としては
 ・効果が出るまで時間がかかる
 ・刺激を当てるとき痛みを伴うことがある
 ・通院が必要
 ・日本では保険が適用されないので治療費がかかる

 などがあるそうです 
 ただ「副作用がない」と書いてあるけど、
 パーキンソン病の例を考えると、やりすぎたら害は出るかも、と思いました

 あと、脳を刺激することで治すことに慣れてしまうと、
 刺激し続けないと治らない、てことにはならないのかなと思いました
 やっぱり行動とか、生活習慣とか、心の持ち方も
 少しずつ変えていかないと、また再発しそうな気がする…
 それとも、病は体から、なのだろうか。

・脳研究を軍事や人の支配に使う、というやり方を考えるとぞっとするけど、
 なかなかそれもうまくいかない、というところに
 人間の体の神秘をむしろ感じました

 人工知能が発達したら人間を滅ぼすかもしれない、という議論もそうだけど
 我々の脳は、なかなか他の生き物が真似できない、
 精巧で素晴らしいシステムなのかもしれません。

・見ていて全体的になんかモヤモヤしたものを感じて、
 このモヤモヤは何だろう…と思ったんですが

 彼はなぜあそこまで批判、というかみんなにスルーされなければならなかったのか、
 その辺りがよく分からなかった違和感があることに気づきました。

 だってモーガンさんの番組とか見ていたら
 記憶を消す薬を見つける人、
 光で脳をコントロールしようとする人がいたりして
 そっちの方がどうかと思ったりする。

 そりゃ、たしかにてんかんとかの患者さんに人体実験するのはいかがなものかとは思いますが、
 個人的には人間にはダメでマウスならOK、という感覚も今一つ分からない。

 何で彼があんな扱いなのかは想像しか出来ないのですが、
 タイミングも悪かったのもあるのかなと思いました。
 黒人をコントロールできるという論文や、
 同性愛者の性嗜好を変えようとする実験など、
 他者の過激な研究がすぐに発表されたのもあるかもしれない。

 でも目立ちたがったのが一番ダメだったんかなと思いました。
 特にアメリカのドキュメンタリーに、ソ連に荷担したかのような文脈で出てしまったのはいただけない。
 目立ちたいと思うあまり、自分が置かれた立場を理解できて無かったのかな?

 前回の指紋の話とかでもそうなんですが
 科学者ってどんなにスゴいことをしても
 「俺がやったんだ、評価してくれよ」みたいなことを言っちゃったらおしまいなのかなと思いました。

 iPS細胞で有名な山中伸弥教授は、
 たしかノーベル賞を受賞されたときに
 「この功績は自分だけではない、
  先人の積み重ねがあってのこと」
 みたいなことをおっしゃっていた気がするのですが
 (記憶が怪しいですが)
 それくらい謙虚でいるのがいいのかもしれない。
 まぁ、研究に限らず、会社とかでもそうなんでしょうけど。

 それから、彼には愛せる人間がいなかったのかなぁ…とも思いました。
 ご家庭があったのか、友人がいたのかは触れられていませんでしたが
 「人間から感情を無くせば幸せになれるはずだ」という彼に
 「喜びも嬉しさも、誰かを好きになる気持ちも感情なんだよ」
 と教えてあげられる人はいなかったのかなぁ。

 いや、いたのかもしれないが、内戦の恐怖体験が大きすぎて聞き入れられなかったのかもしれない。だとすれば戦争は怖い。

…色々と想像してしまいました。
どんな頭がよくても、どんな状況になっても
他人とコミュニケーションとる能力とか
他人の意見を素直に聞く力とか
多様性に寛容な心って大事だなぁと改めて感じた次第です。

というわけで今回はこの辺で。
posted by Amago at 20:54| Comment(0) | テレビ(科学) | 更新情報をチェックする